植物工場の立ち上げ秘話 〜現場での絶妙な立ち回り方〜

こんにちは、今村です

このコラムは、私の現場経験を中心に書いてます。
10年以上も現場にいると、ホント色々ありますよね。思い出したことを、気ままに書いてます。

まぁ、「へー、他の工場ってそうなんだぁ」みたいな、気楽な感じで読んでください。

目次

「先輩!この苗、なんかおかしいんですけど…」

「先輩!この苗、なんかおかしいんですけど…」

こんな言葉を聞いた時、私は故意に遠くを見ながら
「うーん、どうだろうねぇ」と答えることがあります。

見ると明らかに栄養障害の苗。手当てする方法もわかっています。でも敢えて教えない。

冷たい人間だと思いましたか?いいえ、これが「成功する植物工場」を作る秘訣なのです。

「放任」と「べったり」の絶妙なバランス

私はこれまで数々の植物工場の立ち上げに携わってきました。その経験から、立ち上げを成功させるための「これは絶対に外せない」と思う二つの要素があります。

一つ目は、「従業員に十分な”場数”を踏ませること」
二つ目は、「助けるべき時には100%助けること」

矛盾しているように聞こえるでしょうか?実はこの相反する二つのアプローチのバランスこそが、工場の未来を左右するのです。

「見て見ぬふり」は最大の愛情表現

「新しい植物工場の立ち上げ」という言葉からは、ハイテクな設備やピカピカの施設が思い浮かぶかもしれません。しかし、真の成功を左右するのは「人」なのです。

私が新規立ち上げプロジェクトに入った時、最初に目にするのは「全く知識のない新人たち」の不安な表情です。彼らはレタスとルッコラの区別すらついていない状態から始まります。

そこで大切なのが、「独り立ちしたレベルの社員を数人作る」ことです。

でも、困ったことに人間の脳みそには厄介な特性があります。それは…

「他人から一方的に教わったことはほとんど頭に入らない」

という残酷な真実。

例えば、私が新人に「この苗は窒素不足だから、肥料をこうしてこう調整して…」と詳しく説明したとしましょう。彼らは熱心にメモを取り、「わかりました!」と言います。

しかし、翌週同じ症状が出たとき、9割の人は「あれ?どうするんだっけ?」となります。

なぜなら、彼らの脳内では「何か言われたけど、どうせ先輩が何とかしてくれるだろう」とインプットされているからです。

「軽い失敗」は最高の教師

そこで私が実践するのが、「多少難しい課題にどんどん挑戦させる」という方法です。

先ほどの例で言えば、「この苗、どうしたらいいと思う?」と逆に質問を投げかけます。

新人は「え?わかりません…」と困惑します。

「じゃあ、考えてみて。明日また来るね」

そう言って私は去ります。

彼らは仕方なく考え始めます。マニュアルを引っ張り出し、先輩に聞き、時には失敗します。

でも、この「自分で考える→行動する→結果を見る」というサイクルこそが、本当の学びなのです。

ある日、一人の新人が「先輩!あの苗、窒素不足だと思うんですけど、肥料調整してみました!」と嬉しそうに報告してくれました。その瞬間、私は内心「よっしゃ!」と小躍りしていました。

「放任」にも限界あり

ただし、この「放任主義」にも限界があります。

ある工場では、新人たちに「自分たちで考えて」と言いすぎたせいで、彼らが独自の「奇妙な作業手順」を確立してしまいました。結果、収穫量が目標の半分という惨事に…。

彼らは真剣に考えていたのですが、知識不足ゆえに間違った方向に進んでいたのです。このとき私は「放任しすぎた」と反省しました。

そこで重要になるのが二つ目の教訓、「助けるべき時には100%助ける」ことです。

具体的には、以下のようなケースでは徹底的にサポートします:

  1. 工場の基本設計や仕組み作り
  2. 管理テンプレートのようなツール開発
  3. 品質管理に関わること

これらは一度作り上げると、その後長く使われ続けるものです。ここで手を抜くと、後々「なんでこんな使いにくいシステムなんだ!」と全員が悩むことになります。

ある工場では、経験の浅いスタッフに「栽培管理表」を作らせたところ、重要な項目が抜け落ちた不完全なものが完成。それを使い続けた結果、半年後に大規模な病害が発生してしまいました。

このとき私は「ここは100%助けるべきだった」と深く反省しました。

結局、人が育つと工場も育つ

つまり、工場立ち上げの成功の秘訣は:

「人の成長には”放任”を、システムの構築には”べったり”を」

この矛盾するアプローチをバランス良く実践することなのです。

この「放任」と「べったり」の絶妙なバランスを保つのは本当に難しいものです。

新人たちが苦労している姿を見ると、ついつい「全部教えてあげたい」と思ってしまいます。彼らの困った顔を見るのは、正直心が痛みます。

しかし、一時の同情で全てを教えてしまうと、彼らは自分で考える力を失い、いつまでも「指示待ち人間」のままになってしまいます。

反対に、全てを「自分で考えて」と丸投げすれば、彼らは途方に暮れ、モチベーションを失い、最悪の場合は離職してしまいます。

その微妙なバランスを見極めるのが、私たち「立ち上げ担当者」の最大の腕の見せ所なのです。

立ち上げの醍醐味

偉そうなことを書いてきましたが、いつでも工場の立ち上げは緊張するものです。

「今回の新人たちは育つだろうか?」
「この工場は軌道に乗るだろうか?」

そんな不安を抱えながらも、1年後に新人たちが自信を持って働く姿を見ると、「あぁ、頑張ってよかった」と思えるのです。

これが植物工場の立ち上げの醍醐味であり、何度経験しても難しく、でも何度でも挑戦したくなる理由なのかもしれません。

…それにしても、「この苗、なんかおかしいんですけど…」と聞かれたときに、知っているのに敢えて答えないのは、今でも心苦しいものです。でも、それが彼らの成長のためだと信じて、今日も私は遠くを見ながら「うーん、どうだろうねぇ」と言うのです。

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