こんにちは、今村です
私は長年植物工場の業界にいますが、年々現場は苦しくなっています。
植物工場業界として、崖っぷちな状況ではないでしょうか。
とはいえ、閉鎖的な環境で野菜を生産できる植物工場は、依然として多くのメリットがあります。天候に左右されず安定供給できる、農薬の使用を抑えられる、などがありますよね。
その一方で、克服すべき課題も多いです。
この記事では、植物工場が抱える様々な課題を、業界歴の長い私の目線から解説します。
また、具体的な対策も提示します。
これから植物工場事業への参入を検討されている方、興味をお持ちの方は、ぜひ最後までお読みください。
そもそも植物工場のメリット・デメリットは?については、以下の記事をあわせて読んでみてください。
植物工場に将来性はあるのか?
私が業界に入った2011年の時点で、植物工場は未来の農業の形として期待されていました。
市場規模で言うと、今も世界的に成長を続けています。
ちなみに、植物工場の将来性については、以下の記事にも書いています。
植物工場市場の成長性
社会的には、食料問題や環境問題への意識の高まり、健康志向の拡大などがあります。
それらを背景に、植物工場で生産された野菜の需要は増加傾向ですし、今後も市場の成長が見込まれています。
植物工場が持つ可能性
- 安定供給: 気候変動の影響を受けにくく、年間を通して安定した収穫が可能です。
- 高品質・高付加価値: 環境制御により、品質の高い野菜を生産できます。機能性成分を強化した野菜など、高付加価値な商品の開発も可能です。
- 省資源・環境負荷低減: 水の使用量を大幅に削減でき、農薬の使用も抑えられます。
- 都市近郊での生産: 消費地に近い場所で生産できるため、輸送コストの削減や鮮度の維持が可能です。
- 新規雇用創出: 新しい産業として、雇用創出に貢献できます。
これらのメリットから、植物工場は、食料問題、環境問題、地域活性化など、様々な社会課題の解決策としても期待されています。
植物工場事業の3つの課題
未来への期待が高まる植物工場ですが、その道のりは平坦ではありません。
実際に事業として成功させるためには、いくつか壁があるんですよね…。
大きく分けて、経済面、技術と人材面、社会と環境面の3つの課題が存在します。
1.経済面の課題 – 高い初期費用と運営コスト –
まず、植物工場を始めるには、施設建設や設備導入などに、とにかくお金がかかります。
特に、太陽光を使わずに人工照明だけで栽培する「完全人工光型」は、初期費用が大きくなってしまうんです。
高額な初期投資
- 設備投資: 植物工場の建設には、施設、栽培システム、環境制御システムなど、多額の初期投資が必要です。特に、完全人工光型は、太陽光を利用できる太陽光併用型に比べて、初期費用が高額になりがちです。
- 技術導入コスト: 最新の栽培技術や環境制御技術を導入するには、相応のコストがかかります。AIやIoTなどの導入も、初期費用増加の一因となります。
運営コストの負担
- 電気代: 完全人工光型の場合、照明設備に多くの電力を消費するため、電気代が大きな負担となります。
- 人件費: 環境制御や栽培管理に専門知識が必要となる場合があり、人件費がかかりやすい傾向にあります。
- メンテナンス費用: 設備の維持・管理、修理などに費用が発生します。
小規模工場は不利
- 規模の経済: 大規模な植物工場は、スケールメリットを活かしてコスト削減を図ることができますが、小規模な植物工場は、コスト競争で不利な立場に立たされます。
2.技術&人材面の課題 – 専門知識とノウハウ不足 –
植物工場では、温度や湿度、光の量などを細かく調整して、植物にとって最適な環境を作る必要があります。
そのためには、高度な技術と専門知識が必要になるのですが、そういった知識を持った人が不足しているのが現状です。
環境制御の専門知識不足
- 生育環境の最適化: 植物工場では、温度、湿度、光、二酸化炭素濃度、養液の組成などを、植物の生育に最適な状態に保つ必要があります。そのためには、高度な環境制御技術と、植物生理に関する専門知識が求められます。
- データ分析の必要性: センサーデータなどを活用した生育環境の分析や、その結果に基づく環境制御の調整なども重要となります。
栽培指導者の不足
- 経験とノウハウの不足: 植物工場での栽培は、従来の露地栽培とは異なる点が多く、経験豊富な栽培指導者が不足しています。
- 情報不足: 植物工場の運営ノウハウに関する情報は少なく、生産者にとっては手探りで栽培方法を確立していく必要があります。
人材育成の遅れ
- 専門人材の不足: 植物工場の運営に必要な専門知識やスキルを持った人材が不足しています。
- 教育機関の不足: 植物工場に特化した教育機関は少なく、人材育成が進んでいません。
これらの問題は、官民が連携し、研究体制を強化するとともに、生産者への技術指導やサポート体制を整備することが重要でしょう。
ちなみに私は、当サイトを通じて運営ノウハウのコンテンツを提供したり、現場での指導をしています。
詳しくは以下をご覧ください。
3.社会&環境面の課題 – 認知度不足と環境負荷 –
植物工場で作った野菜は、まだあまり知られていないため、消費者の抵抗感があるのも事実です。
従来の野菜よりも価格が高くなってしまうことや、「人工的な環境」という部分に疑問を持つ方もいらっしゃいます。
消費者の認知度不足
- 価格への抵抗感: 植物工場で生産された野菜は、従来の野菜に比べて価格が高いため、消費者の抵抗感がある場合があります。
- 安全性への疑問: 一部の消費者には、人工的な環境で栽培された野菜の安全性に疑問を抱く人もいます。
環境負荷への懸念
- エネルギー消費: 完全人工光型の場合、照明設備に多くの電力を消費するため、環境負荷が大きくなる可能性があります。
- 食品ロス: 計画的な生産が難しい場合、需要と供給のバランスが崩れ、食品ロスが発生する可能性があります。
社会の中で、植物工場がどのような立ち位置であるかは、以下の記事にも書いてます。
課題克服への道 – 植物工場を成功に導く戦略 –
これまで見てきた課題を克服し、植物工場事業を成功に導くためには、多角的な戦略が必要です。
ここでは、それぞれの課題に対する具体的な対策を見ていきましょう。
初期投資の抑制
- 補助金・助成金制度の活用: 国や地方自治体では、植物工場の建設や設備導入に対して、様々な補助金・助成金制度を設けています。これらの制度を積極的に活用することで、初期投資の負担を軽減できます。
- 低コスト化: 太陽光を利用した栽培システムの導入や、中古設備の活用など、低コスト化を図ることで、初期投資を抑えることができます。
運営コストの削減
- 省エネ設備の導入: LED照明など、消費電力の少ない設備を導入することで、電気代を削減できます。
- 再生可能エネルギーの利用: 太陽光発電や風力発電など、再生可能エネルギーを利用することで、電気代の削減と環境負荷低減を同時に実現できます。
- 自動化・省力化: 播種、収穫、包装などの作業を自動化するシステムを導入することで、人件費を削減できます。
収益向上のための戦略
- 高付加価値商品の開発: 機能性成分を強化した野菜、希少品種の野菜、ベビーリーフなど、高価格で販売できる高付加価値な商品を開発することで、収益向上を目指せます。
- ブランド化: 安全・安心、高品質などを売りにしたブランドを確立することで、価格競争を避け、収益を安定させることができます。
- 直販: スーパーマーケットやレストランなどに直接販売することで、中間マージンを削減し、収益を増やすことができます。
- 観光農園: 植物工場を見学できる観光農園を併設することで、新たな収益源を確保できます。
栽培ノウハウの共有と指導体制の構築
- 専門家による指導: 経験豊富な栽培指導者を育成し、生産者に対する技術指導やコンサルティングを行う体制を構築する必要があります。
- オンライン研修: オンライン研修など、場所や時間に制約されずに学べる機会を提供することで、人材育成を促進できます。
結論:課題克服には地道な努力しかない
植物工場の普及を進めるには、高い初期投資と運営コスト、研究体制と栽培指導者の不足、高度な環境制御技術と人材確保の必要性といった課題を克服していく必要があります。
課題の克服には、地道な努力を重ねて、現場がレベルアップしていくしかありません。
同時に、レベルアップするための教育も重要ですよね。
ぜひ当サイトの様々なコンテンツを役立ててください。
- 植物工場の課題点は?
-
植物工場には主に以下の3つの課題点があります。
高い初期投資と運営コスト
設備投資や電気代、人件費などのコストが高くつく傾向にあり、一定規模以上でないと経営が安定しにくいという問題があります。研究体制と栽培指導者の不足
地方の研究機関での研究が減少傾向にあり、若手研究者も少なくなっています。また、生産者への栽培指導やサポートを行う公的機関も不足しています。高度な環境制御技術と人材確保の必要性
温度や湿度、光、二酸化炭素濃度、養液の組成など、高度な環境制御が必要であり、そうした技術を持った人材の確保が難しい状況です。 - 植物工場はなぜ赤字なのでしょうか?
-
植物工場が赤字になる主な理由は、高い初期投資と運営コストにあります。
建物や照明、空調、養液栽培システムなどの設備投資に多額の費用がかかります。また、電気代や人件費、設備のメンテナンス費用など、運営コストも高くつく傾向にあります。
こうしたコストを売上でカバーするには、一定以上の生産規模が必要ですが、小規模な植物工場では、スケールメリットを活かせず、コスト面で割高になってしまいます。
また、高度な環境制御技術を持った人材の不足も、収量や品質の低下につながり、収益性を悪化させる要因の一つと言えます。
さらに、安価な外国産野菜との競合など、市場環境の厳しさも、植物工場の経営を圧迫している現状があります。
コメント