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植物工場で「空調」と「CO2」は、収益改善の突破口


こんにちは、今村です
植物工場を運営していると、「収量がもう少し上がれば…」「品質を安定させたい」という課題に直面することが多いと思います。
そんなとき、みなさんはまず何を見直しますか?
多くの場合、養液組成や光量といった「目に見える要素」に目が向きがちです。
しかし、収益改善の本当の突破口は、意外にも「空気」の管理にあるかもしれません。
「CO2濃度」と「気流(風)」の適切な管理は、投資対効果が高い改善ポイントとなります。
しかも、一度システムを整えれば比較的維持しやすいのが魅力です。
この記事では、植物工場における空調とCO2管理の基本から応用まで、現場ですぐに役立つ知識をお伝えします。


植物から見た空気環境:光合成と成長のメカニズム


「目に見えない栄養素」CO2が収量を決定する理由
CO2は植物にとって「光合成の原料」であり、成長の核となるもの。
実は、現在の大気中CO2濃度(約400ppm)では光合成能力を最大限に発揮できません。
研究によれば、多くの作物は1000-1200ppmで光合成速度が最大化します。
つまり、適切なCO2管理ができれば収量が増加する余地があるってこと。
CO2不足の植物は、葉が薄くなり、色が淡く、成長が遅延するという特徴的な症状を示します。
「風」が植物の活力を高めるしくみ
適切な気流がなければ、植物はうまく成長できません。
実は、葉の表面には「葉面境界層」という静止した空気の層があります。これがあると、ガス交換を妨げてしまいます。
風速が0.3〜0.7m/sほどあると、この境界層を薄くし、CO2の取り込みと水蒸気の放出を促進します。
風は以下の点で植物を活性化します:
- 蒸散を促進し、高温時に植物を冷却する「自然のクーラー」として機能
- 根から葉への水分・養分輸送を促す「蒸散流」を活性化
- 茎を太く強くし、倒伏を防止
無風環境では植物が徒長し弱くなるため、適度なストレスが強靭な植物育成に不可欠です。
CO2と光と温度の三位一体
光合成についておさらいしておきましょう。
このへんの話は以下の記事でも触れてます。


光合成は「明反応」と「暗反応(カルビン回路)」から成り、CO2を空気中から取り込んで固定します。
ポイントは、光合成速度は最も不足している要素(光・CO2・温度)によって制限されるってこと。
これらは相互に影響し合い:
- 光強度が高いほど、より多くのCO2が必要
- 最適温度域(20-28℃)でCO2固定速度が最大化
- 各要素の最適バランスが重要
CO2管理の効果は作物により異なりますが、
葉菜類では30-40%、果菜類では20-30%の収量増加が期待できます。
光・CO2・温度の最適なバランスを実現することで、植物の潜在能力を最大限に引き出し、収益性を高めることができます。
植物工場でベストな空気環境を目指す


適切な空気環境を作るには、単に「風を送る」だけではダメなんです。
植物のことを考えた「風の設計」が必要です。
作物に合わせた気流設計
植物種によって理想的な風の強さと方向は異なります。
葉菜類は一般的に風速0.3〜0.5m/s程度が適していますが、トマトやイチゴなどの果菜類はもう少し強い0.5〜0.7m/sが効果的です。
風が弱すぎると境界層が厚くなってCO2交換が阻害され、強すぎると機械的ストレスや蒸散過多を引き起こします。このバランスが重要なんです。
方向性のある風:垂直気流vs水平気流
風の向きも重要なポイント。
- 垂直気流(上から下、または下から上):
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- 多段式栽培ラックに適している
- 層間の温度差を均一化できる
- 特に冬場の結露防止に効果的
- 水平気流:
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- 広い単一平面の栽培ベッドに最適
- 均一な環境を作りやすい
- 栽培エリア全体に効率的にCO2を行き渡らせられる
多くの場合、これらを組み合わせることで最適な空気循環が実現できます。
死角をなくす送風機配置の黄金ルール
風の「死角」を作らないことも超重要。
死角があると局所的な高湿度エリアができ、病害リスクが高まります。
配置の黄金ルール:
- 対向配置で均一な空気の流れを作る
- コーナー部分は特に注意して配置
- 栽培棚間や植物の密集部には補助的な小型ファンを
ちなみに、一般的な工場用の換気設計とは異なるので要注意。植物にとっての最適環境は人間とは違うんです。
植物工場では主に3つの装置で風環境を作り出します:
- 送風機(サーキュレーター):
- メリット:設置が簡単、コスト効率が良い
- 使い方:主に空気循環用、季節や時間帯で風向き調整
- エアコン:
- メリット:温度制御と送風を同時に行える
- 使い方:温度調整が必要な時間帯に併用
- 除湿機:
- メリット:湿度制御と送風を兼ねる
- 使い方:高湿度時や夜間の結露防止に活用
これらをうまく組み合わせることで、季節や時間帯に応じた最適な環境を作り出せます。
特に大型の植物工場では、気流シミュレーションを活用した風の流れの最適化が重要です。
結露リスクを排除する風環境設計
植物工場での結露は風の設計で大きく改善できます:
- 壁面や天井付近への定期的な送風で結露を防止
- 朝方(温度が上昇する時間帯)に適切な風循環を確保
- 夜間も弱い風を維持し、空気の停滞を防ぐ
- 断熱材の「熱橋」部分への重点的な送風
風の流れを最適化するだけで、結露によるカビや病害のリスクを大幅に減らせるんです。
最適CO2濃度を実現する供給システム
CO2供給装置の種類と選定基準
炭酸ガスボンベ方式 | 液体炭酸タンク方式 | 燃焼式CO2発生装置 | |
---|---|---|---|
適した規模 | 小〜中規模 (〜100㎡) | 中〜大規模 (100〜1000㎡) | 大規模 (1000㎡〜) |
メリット | ・導入が簡単 ・純度が高い ・設置場所の自由度が高い | ・ボンベ交換の手間が不要 ・長期運用でのコスト効率が良い ・安定供給が可能 | ・大量供給が可能 ・長期的な運用コストが低い ・熱も利用可能 |
デメリット | ・ボンベ交換の手間 ・規模拡大時のコスト増 ・保管場所と安全管理が必要 | ・まとまった初期投資 ・タンク設置スペースの確保 ・定期点検が必要 | ・熱管理が必要 ・不完全燃焼リスク ・導入・メンテコストが高い |
初期コスト | 低い | 中程度 | 高い |
運用コスト | 中〜高い | 中程度 | 低い |
CO2供給装置は規模や目的に応じて選ぶことが重要。
上の表は主な供給方式の比較ですが、どの方式を選ぶにしても、CO2と風の関係を理解することが大切です。
適切な風環境がないとCO2が植物に届かず、せっかくのCO2供給が無駄になってしまいます。
特に植物が密集しているエリアでは、CO2が葉の表面まで届くよう、計画的な風の流れを設計しましょう。
植物工場の空気環境は、「見えない要素」だけに軽視されがちですが、実は収益性を左右する重要ファクターです。
適切な気流設計と風による温度均一化、そして効率的なCO2供給を組み合わせることで、植物の生育環境を最適化し、収量・品質の大幅な向上が期待できます。
CO2パワーを最大化する環境の”黄金バランス”


植物工場でCO2の力を最大限に引き出すには、ただCO2を供給するだけではダメです。
他の環境要素とのバランスが鍵になります。
ここでは、CO2の効果を最大化するための環境づくりについて、現場で使える知識をご紹介します。
CO2の効果を引き出す”黄金の組み合わせ”
植物の成長は、CO2だけでなく、光・温度・風・湿度など様々な要素が絡み合った結果です。これらの要素は単独ではなく、チームとして働くときに最大の効果を発揮します。
ポイントは光とCO2。
これは植物栽培の基本中の基本ですが、意外と見落とされがちなポイント。
光が強ければCO2も増やすのが基本です。
光合成のしくみを思い出してみましょう。光エネルギーは「明反応」でATPという化学エネルギーを作り、そのエネルギーを使って「暗反応」でCO2を糖に変換します。つまり、光が強くなれば、より多くのエネルギーが作られ、より多くのCO2を処理できるようになるんです。
えるスケジュールを組みましょう。「光が強い時間帯=CO2が必要な時間帯」と覚えておくと簡単です。
温度とCO2の相性の良い関係
そして温度も、CO2の利用効率に大きく影響します。
多くの作物では、20〜25℃の温度域でCO2の固定効率が最大になります。この温度範囲を外れると、いくらCO2を供給しても十分に活用されません。
例えば、同じ1000ppmのCO2濃度でも:
- 17℃では効果が30〜40%減少
- 30℃を超えると効果が50%以上低下することも
環境要素間の”バランスシート”
環境要素間の相互作用を理解するために、簡単な”バランスシート”を考えてみましょう:
変更する要素 | CO2への影響 | 温度への影響 | 湿度への影響 | 気流への影響 |
---|---|---|---|---|
CO2濃度上昇 | – | 微減 | 微減 | 無影響 |
温度上昇 | 減少傾向 | – | 減少 | 対流増加 |
湿度上昇 | 無影響 | 微増 | – | 無影響 |
風速上昇 | 均一化 | 均一化 | 減少 | – |
この表を見ると、環境要素がお互いにどう影響し合うかが一目瞭然です。これを参考に、調整の優先順位を考えましょう:
- まず温度を適正範囲に保つ(光合成の基礎条件)
- 次にCO2濃度を最適化(光合成の原料供給)
- 気流を調整して均一環境を作る(ガス交換促進)
- 湿度を適切に保つ(蒸散の最適化)
この順番で調整していくと、効率よく環境を最適化できます。
“風”がCO2効果を左右する意外な関係
CO2と風の関係は意外と見落とされがちですが、実はとても重要です。
CO2をいくら供給しても、植物の葉の表面まで届かなければ意味がありません。
葉の周りには「境界層」と呼ばれる薄い空気の層があり、これが厚いとCO2の移動が妨げられます。
適切な風が境界層を薄くし、CO2の吸収を促進します。
最適な風速は作物によって異なりますが、一般的には:
- 葉菜類:0.3〜0.5m/s
- 果菜類:0.5〜0.7m/s
このくらいの風があると、CO2の利用効率が20〜30%向上することがあります。
実践ポイント: サーキュレーターを設置する時は、風が直接葉に当たる位置ではなく、植物の上や横から風が流れるよう配置しましょう。直射すると葉が傷むことがあります。
CO2投資の”損益分岐点”を知る
CO2の供給には当然コストがかかります。どこまで濃度を上げれば適切なのでしょうか?
CO2濃度と収量の関係は直線的ではなく、ある点から効果が頭打ちになります:
- 外気濃度(約400ppm)から800ppmまで:ほぼ直線的に収量増加(最も効果的)
- 800〜1200ppm:効果が徐々に減少
- 1200ppm以上:効果が小さくコスト対効果が悪化
実践ポイント: 多くの植物工場では、800〜1000ppmが費用対効果の高い目標濃度になります。これを超える濃度は、特殊な高付加価値作物以外ではコスト的に見合わないことが多いです。
最適環境を見極める”植物の観察ポイント”
理論だけでなく、植物自身が教えてくれるサインを見逃さないことも大切です。
葉の様子でわかるCO2環境のチェックポイント:
- 葉が濃い緑色で厚みがある → CO2環境が良好
- 葉が薄く、やや黄色みを帯びる → CO2不足の可能性
- 新芽の展開が早く、節間が詰まっている → 環境バランスが良い
- 節間が伸び、徒長気味 → 光に対してCO2が不足
植物のサインを読み取る習慣をつけることで、データだけでは見えない環境バランスの問題に気づくことができます。
植物工場の収益改善には、CO2と他の環境要素のバランスがとても重要です。
理論と現場の観察を組み合わせて、あなたの植物工場に最適な環境バランスを見つけてください。
以下のように「まとめ」部分の内容を作成しました:
まとめ:空調とCO2管理が植物工場の収益を決める


ここまで見てきたように、空調とCO2管理は植物工場における収益改善の大きな鍵を握っています。
ポイントをおさらいしましょう:
- CO2は植物にとって「見えない栄養素」であり、現在の大気濃度(約400ppm)では光合成能力を最大限に発揮できません。1000ppm前後まで濃度を高めることで収量を大幅に増加させることが可能です。
- 気流(風)は葉面境界層を薄くし、CO2の吸収を促進するとともに、蒸散を適正化して植物を健全に保ちます。作物に合わせた風速調整(葉菜類0.3〜0.5m/s、果菜類0.5〜0.7m/s)が重要です。
- 光・CO2・温度は「三位一体」の関係にあり、どれか一つが不足するとほかの要素がいくら充実していても光合成効率は上がりません。特に温度が20〜25℃の範囲内にあることがCO2活用の前提条件です。
- CO2供給は単なる「濃度上昇」だけが目的ではなく、適切な風環境と組み合わせることで初めて効果を発揮します。ムラなく均一に届ける気流設計が収量の安定化につながります。
- CO2投資には「損益分岐点」があり、800〜1000ppmが多くの作物で費用対効果が高い目安になります。それ以上の濃度は効果が頭打ちになるため、付加価値の高い作物以外では慎重に判断しましょう。
「見えない環境」だからこそ大切にしたい空気管理。
さらに、植物のサインを観察する目も養っていくことで、理論と実践の両面から最適な環境づくりができるようになります。
最終的には、「光」「温度」「CO2」「風」「湿度」の五要素がバランスよく整った環境こそが、植物工場の収益性を飛躍的に高める秘訣です。


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