業界動向
アグリボルタイクス、両立の分かれ目は売電単価より先に作物の光だ
2026-06-09
営農型太陽光の事業計画は、たいてい発電側の数字から埋まっていきます。FIT単価、架台の見積もり、補助金の上限。電卓を叩けば叩くほど、計画は確からしく見えてくる。けれど、その確からしさには順序の落とし穴があります。先に決めるべきは、売電の条件ではありません。
両立の可否は遮光率ではなく作物の光の量で決まる
事業計画の表計算シートで、作物の欄だけが最後まで空いている。営農型太陽光(アグリボルタイクス)の事業計画で、よく語られる組み立て方です。農地に太陽光パネルを載せて発電と農業を一緒にやる。このとき多くの案件は、売電単価や補助金で利回りを先に出して、「あとはこの農地に何を植えるか」と作物を空欄みたいに最後に埋めます。それで回る案件もあります。ただ、この順番に引っかかります。
私は人工光型の植物工場で十数年、光環境と向き合ってきました。作物がどれだけの光を要るか、足りないとどう崩れるかは、その経験で体に入っています。営農型そのものを手がけたわけではありませんが、その光の側から眺めると、引っかかる点があります。同じパネルの並べ方でも、葉物なら普通に育つのに、トマトのように光をたくさん欲しがる作物だと「日陰で生育不良」に傾きやすいはずです。それでも可否の説明が「遮光率は何パーセント」で止まっていると、その作物が本当はどれだけ光を要るのか、という肝心の話が抜けてしまいます。
光をたくさん欲しがる作物が日陰で崩れるのは、順番の問題です。遮光率は「パネルがどれだけ光を奪うか」を示すだけで、作物が「どれだけ要るか」とは別物だからです。トマトのように光が多いほど収量が伸びるタイプは、奪われた分がそのまま生育に効きます。葉物は少ない光で生育が頭打ちになるので、多少奪われても困りません。だから本当は、まず作物ごとの必要な光の量を満たせるかを先に決めて、そこから架台を高くする・列の間隔を空ける・パネルを減らす、と設計を逆算するのが筋です。売電単価から入ると、この「光が足りるか」という最初の関門を飛ばして、遮光率という奪う側の数字だけで可否を語ってしまう。だから葉物では当たり、光要求の高い作物で外す、という結果になります。
ただし、ここで「遮光=マイナス」と一括りにすると、もう一方を取りこぼします。光には作物ごとに「飽和点」があって、それを超えた分はもう光合成に使われません。植物生理の教科書的な目安でいうと、レタスやイチゴの光飽和点はおおよそ500μmol/m²/s前後、トマトやピーマンでも700〜900μmol/m²/s前後とされます。一方で真夏の正午の直射日光は2,000μmol/m²/sを超えることもある。つまり多くの野菜にとって、真夏の直射は「過剰」です。余った光はただ無駄になるだけでなく、葉緑体を傷つける光阻害、葉や果実が焼ける葉焼け・日焼け、それに伴う高温ストレスを引き起こします。ここでパネル下の2〜3割ほどの遮光は、過剰だった光を飽和点近くのちょうどいいレンジまで落とす働きをする。遮光が「ロス」ではなく「制御」に転じる側面です。だから遮光には二つの相があります。飽和点に対して光が足りなくなる側に振れれば崩れ、過剰だった光を削る側に効けばむしろプラスになる。どちらに転ぶかは遮光率の大きさではなく、作物の飽和点と、その土地に降る光の量との関係で決まります。
この二相は、机上の理屈ではありません。アイオワ州立大学が、米国エネルギー省の資金で10エーカー・1.3メガワットの商業ソーラーファームの下に作物を植え、2シーズンの実証を行っています(参考: 7)。ブロッコリ、ピーマン、夏スカッシュ、イチゴ、ラズベリーといったごく普通の野菜・果物がパネル下で成立し、夏スカッシュは一貫してパネル下のほうが収量が高く、ピーマンは収量にほとんど差が出ないうえ日焼け被害が減った。気温・土壌温度はパネル下で1〜2℃低く、労働投入量は2年目に初年度比28%減。しかも特殊な機械はいらず標準的な農機がそのまま使えて、規模を犠牲にせず回ったといいます。注目したいのは、ここで育った作物の中身です。ピーマンは飽和点700〜900μmolと、さきほど「光要求が高い」側に挙げたトマトと同じ帯にいます。それでもパネル下で日焼けが減って育った。光要求が高い作物がすべて日陰で崩れるわけではなく、過剰光を浴びていた作物では、遮光がむしろ日焼けを抑える制御として働く――そういう作物の見極めが、可否を分けます。
許される上限は、作物ごとにまるで違います。温室でのモデル試算がそれを具体的に示しています。これは屋外の架台ではなく太陽光型温室(パネルを屋根に組み込んだ温室)を対象にした推定ですが、PVR——パネルの投影面積が温室の床面積に占める割合で、遮光率に近い指標——が25%以下なら、トマトやキュウリのように光をたくさん欲しがる作物まで含めて、収量の落ち込みを25%未満に抑えられると推定されています(参考: 1)。逆に、もともと光をあまり要らない花卉(観賞用の花)なら、PVR100%、つまり屋根いっぱいに載せても成り立つ幅がある。同じ「何パーセント載せるか」でも、許容できる上限は作物が決めているわけです。ただし、これは温室での試算です。屋外の架台では架台の高さや列の間隔でパネル下の光分布が変わるので、同じPVRでもそのまま露地に持ち込めるとは限りません。値そのものより、「上限は作物の光要求が決める」という向きを受け取るのが安全です。
光の量は冬を基準に見て許せる遮光を逆算する
冬を基準にすると、見えていなかった不足が見えてきます。ここで効いてくるのがDLI、一日にその作物がどれだけ光を浴びるかという積算の量です。同じ遮光率でも、夏のDLIは余るくらいで、冬は同じ並べ方で一気に足りなくなります。だから両立の可否を年平均で均してしまうと、足りる夏に引っ張られて冬の不足が見えなくなる。固定架台で一年同じ並べ方なら、なおさら冬で成立するパネル密度に合わせるほうが外れません。逆に言えば、夏に多少電力を取りこぼしても、冬の生育が崩れないほうを優先する、という割り切りです。そのうえで、もともと光をあまり要らない半陰生の作物を選べば、冬の遮光に耐える幅が広く、固定架台とも折り合いをつけやすくなります。

ここで先ほどの飽和点を思い出すと、季節で意味が裏返るのが分かります。真夏は飽和点を超える過剰光なので、遮光は日焼けを抑える制御として効く。けれど同じ固定架台のまま冬に入ると、もともと少ない光をさらに削ることになり、今度は不足側に振れて崩れる。同じパネルの並べ方が、夏は制御・冬は不足と正反対に働くわけです。だから設計は、光が最も乏しい季節(多くの地域では冬)に「その季節でも作物の要る量を満たせるか」を基準に置く。これは地域でも変わります。中東や北アフリカのように日射が強すぎて農業のボトルネックになっている土地では、遮光は通年で「恩恵」に寄り、過剰な日射の一部を電気に変えつつ残りで野菜を育てる構図にハマりやすい。日本の冬を抱える土地とは、同じ営農型でも前提が違います。
なぜ作物ごとにこれだけ差が出るのか。栽培実験がその裏づけになります。葉物の生育は、ある水準までは光が増えるほど伸びますが、わりに低めの光でも必要な分をまかなえるという報告があります(参考: 2)。だから多少光を奪われても効きにくい。光をたくさん使い切るトマトなどとの差は、ここから来ています。どれだけ遮光に耐えられるかが作物ごとに違うのは、印象ではなく、こういう生育の応答の違いとして裏づけがあるのです。
発電収入で農業の赤字を埋めると続かない
ここまでは「作物が育つか」という話でした。ただ、実際に事業として続くかどうかには、別の関門があります。補助金や売電単価で利回りが出たから踏み切る、という入り方をしたとき、農業側はちゃんと回り続けるのか。

発電や補助金で利回りを先に出すと、農業が黒字でなくても全体は回って見えてしまう。これが落とし穴です。お金を入れても採算の構造そのものは変わらない、というのは実態調査の数字にも表れています。営農型に近い太陽光型・併用型では、最新の調査で7割以上が黒字か収支均衡で、太陽光型では黒字が半数を超えています。一方で人工光型は約5割にとどまり、黒字・収支均衡は全体で64%です(参考: 3)。補助が投じられたあとでも型式によって採算の差が残り、施設の数は増えても、一つひとつが自立して回るかどうかは別だった、と読める数字です。だから発電収入で農業の赤字を埋める前提にすると、農業がいつのまにか形だけになって、売電単価が下がったり補助が切れた瞬間に崩れます。順番としては、農業側が補助金なしでも続く条件を先に満たして、発電はその上乗せに置く。光の設計と同じで、満たすべき関門を先に通してから利回りを乗せる向きが外れません。
採算は何で決まるのか。市場でいくらで売れるか(市場価格)と、どれだけ穫れるか(収量)が支配的で、その掛け算がまず効きます。実際、構造の脆さを分析した研究でも、価格や収量が3割ほど下がるだけで採算が容易に破綻しうると指摘されています(参考: 4)。その上に、どれくらいの規模でやるか(建設費)、電力単価、人件費、立地、取引や契約の安定性が乗ってくる。同じ研究は、建設のコストには規模の経済が効いて、規模がうんと——たとえば100倍に——大きくなると単位あたりの建設費は半分くらいまで下がると推定しています(参考: 4)。ただこれは「建てるとき」の話で、毎日の運転にかかる電気代のような部分には同じようには効きません。だから規模を広げたりコストを削ったりするだけでは届かないことが多い。何を作るか(市場価格)と、どれだけ穫れるか(収量)が先に立っていないと、規模だけでは採算に届かないのです。
植物工場の自家消費も施設の必要電力から逆算する
ここまでとは別に、最近よく聞く話があります。植物工場の屋根や敷地に太陽光を載せて、その電気を自家消費に回すという入り方です。売電ではなく自分で使う電気ですから、また順番が変わります。ここでも、まず満たすべき関門があって、そこから載せ方を逆算する、という向きになります。

自家消費だと、順番がいっそうはっきり出ます。人工光型の植物工場は、電力コストが生産コスト全体のおおむね2〜4割を占め、施設が使う電力量のうちおおむね6〜8割超(原典では約60〜85%)を照明が占めているという報告があり、電気そのものが最大の制約になります(参考: 5)。だから「発電できるから載せる」のではなく、まず自分の施設が昼間どれだけ電気を使うか、その自家消費の割合、買電単価、契約電力を先に固める。そこから、昼に使い切れる分だけ載せる、と枚数を逆算するのが筋です。これを飛ばすと、昼に使い切れず余った電気は売電に回って単価が下がりますし、契約電力との兼ね合いで思ったほど電気代が減らないこともあります。光のときに「作物が要る量を先に満たす」と言ったのと、向きはまったく同じ。施設が要る電気を先に置いて、パネルはその範囲に合わせます。屋根の上に載せるなら屋根面積が上限になり、敷地に併設するならパネルの向き(方位)や規模の自由は利きますが、どちらも「昼に自家消費へ収まる範囲で」という条件は変わりません。
ここで一つ注意があります。人工光型では電気が「最大のコスト」ですが、屋外の営農型では発電した電気は売電収入の側、つまり稼ぐ側に回ります。同じ「電力」という言葉でも符号が逆なので、人工光型の自家消費の話を営農型の収益構造にそのまま持ち込むと、「電気で稼ぐ」健全な構造を「電気で穴埋めする」不健全な構造と読み違えます。この段で扱っているのは、あくまで自家消費型の植物工場の話に限ります。
続かない案件は作物が後から決まる
ここまでの順番を失敗の見分けに使う前に、二つだけ但し書きをしておきます。ひとつは、ここで話している「両立」は、農業を続ける気がある複合事業に限った話だということ。農地に名目だけ作物を置いて実質は全量売電、というタイプはそもそも別の話で、いま整理した順番は当てはまりません。もうひとつは、こういう作物ごとの光要求や架台の設計、電力契約の条件は、最後は農業の普及指導や電力・行政の窓口といった専門の手を借りる前提であり、ここでの整理は「自分でどこまで見立てておけるか」の話だということです。
そのうえで、「両立しているように見えて、実は農業側が続かない」案件は、早い段階でどんな兆しに出るのか。これまでの順番(光→採算→利回り)を裏返せば、兆しはたいてい「作物が後から決まる」こと自体に出るはずです。事業計画の組み立てを見れば分かります。売電と補助で利回りの数字が先に埋まっていて、肝心の作物欄だけが最後まで空いている。架台の高さと電力契約がもう確定したあとで、栽培の担当に「ここで何が育ちますか」と相談がいく。順番が逆です。設計図にも兆候は出ます。収穫レーンの作業動線まで暗くなる並べ方になっていたり、収支の組み立てが、発電収入で農業の赤字を埋める前提になっていたり。これは農業が上乗せではなく、穴埋め役に回されているサインです。動き出してからも、初年度に想定の収量が出ない、作物の切り替えが続く、栽培の手が抜かれはじめる——このあたりは早い警報になりやすい。逆に、冬のDLIを基準にして先に作物が決まっていて、農業単体で補助金なしでも採算が描けているなら、見栄えが地味でも両立の芯はあります。早い段階で見るべきは利回りの大きさより、作物と採算が「先に」決まっているか、その順番のほうです。
「技術が高くても作物次第で採算が立たない」を、いちばん極端に示すのが穀物です。小麦のような主食穀物を閉鎖型の垂直農場で作るのは、いまの電力・設備コストのもとでは経済的に成り立たない、という分析があります(参考: 6)。光や設備をどれだけ高性能にしても、「何を作るか」と採算の側で先に決まってしまう領域がある。だから「先に作物と採算を置く」順番が効いてくるのです。
最初の一手は利回りより先に作物を置くこと
候補の農地を前にして最初の一手を打つなら、利回りの試算ではなく、作物を一つに絞ることです。候補作物を決めたら、その作物にとって光が最も乏しい季節(多くの地域では冬)に要るDLIを最初の数字として置きます。次にその農地で冬に実際に降ってくる光の量を見て、作物の要求を満たしたまま許せる遮光率の上限を出す。このとき、収穫の頻度や作業動線——収穫レーンが暗くなりすぎないか、通路に人と手が入るか——も同じ作物起点で一緒に決めておきます。そこではじめて、架台をどれだけ高くするか、列の間隔をどれだけ空けるか、パネルを何枚載せるかが決まる。電力契約や利回りはそのあとです。植物工場の自家消費なら、作物の代わりに「施設が昼間に使う電力」を最初に置きます。要するに、事業計画の表計算シートの一番上の行を、利回りではなく「作物の必要光量、あるいは施設の必要電力」にしておく。やることはそれだけですが、この一行を入れ替えるだけで、これまで見てきた順番が自然と正しい向きに戻ります。