PFBoost

コラム

植物工場の立ち上げ秘話 〜現場での絶妙な立ち回り方〜

植物工場の立ち上げでは、教えることよりも「どこまで教えないか」で悩む場面がよくあります。

すぐ答えない理由

「先輩、この苗、なんかおかしいんですけど」

こんな言葉を聞いたとき、私はあえて遠くを見ながら「うーん、どうだろうねぇ」と答えることがあります。

私が見れば、それは明らかに栄養障害を起こしている苗です。手当てする方法も分かっています。でも、新人の成長を考えて、その場では答えを言わないことがあります。

もちろん、心の中はまったく穏やかではありません。目の前の苗を見れば原因は分かる。口を開けば、たぶん30秒で説明できる。でも、ここで全部言ったら、この人は次も私の顔を見る。そう思うと、言葉が喉の手前で止まります。遠くを見ているようで、実際はかなり近いところで葛藤しています。

冷たい人間に見えるかもしれません。自分でもたまにそう思います。ただ、植物工場の立ち上げでは、この「任せる時間」がかなり大事です。

私はこれまで、いくつもの植物工場の立ち上げに携わってきました。その経験から、立ち上げを成功させるために外せないことが二つあります。

一つ目は、従業員に実際の現場で十分に経験を積ませること。二つ目は、助けるべき時には100%助けることです。

矛盾しているように聞こえるかもしれません。でも、この二つのバランスが、工場のその後をかなり左右します。

軽い失敗は残る

新しい植物工場の立ち上げというと、ハイテクな設備やピカピカの施設を思い浮かべるかもしれません。もちろん設備も大事です。ただ、本当に立ち上げを左右するのは、結局は人です。

新規立ち上げプロジェクトに担当者として入ると、最初に目にするのは、知識のない新人たちの不安そうな表情です。レタスとルッコラの区別もまだつかない状態から始まることもあります。

そこで必要になるのが、数人の社員を、独り立ちして判断・作業できるレベルまで育てることです。

ただ、人間の脳みそはなかなか都合よくできていません。他人から一方的に教わったことは、びっくりするほど頭に残らない。

たとえば私が新人に「この苗は窒素不足だから、養液をこう調整して」と詳しく説明したとします。相手は熱心にメモを取り、「分かりました」と言います。

でも、翌週に同じ症状が出ると、多くの場合「あれ、どうするんでしたっけ」となります。

本人が怠けているわけではありません。頭のどこかで「困ったら先輩が何とかしてくれる」と処理されてしまうのだと思います。私も新人の頃はたぶん同じでした。人間、都合のいい救急ボタンがあると押したくなります。

そこで私は、多少難しい課題にもどんどん挑戦してもらうようにしています。

先ほどの苗の例なら、「この苗、どうしたらいいと思う?」と逆に聞きます。

新人は困ります。「え、分かりません」となります。

そこで「じゃあ、考えてみて。明日また来るね」と言って、私はいったん離れます。

もちろん、完全に放置するわけではありません。枯れて大きな損失になるような場面なら止めます。ただ、少し悩んで、マニュアルを開いて、先輩に聞いて、自分で試して、その結果を見る。この一連の流れを経験してもらうことが大事です。

ある日、一人の新人が「先輩、あの苗、窒素不足だと思うんですけど、養液を調整してみました」と報告してくれたことがあります。

そのときは、表面上は「いいですね」と普通に返しました。内心ではかなり喜んでいます。小躍りまではしていませんが、気持ちとしては片足くらい上がっていました。

任せすぎた失敗

ただし、「任せる」にも限界があります。

ある工場では、私が新人たちに「自分たちで考えて」と言いすぎた結果、彼らが独自の作業手順を作ってしまったことがありました。本人たちは真剣です。手を抜いていたわけでもありません。

ところが、その手順が少しずつ間違った方向へ進んでいました。気づいたときには、収穫量が目標の半分という結果になっていました。

その数字を見た瞬間、背中が少し冷えました。半分。もう一度見ても、半分。怒るより先に、「これは私の線引きが悪かった」と頭の中で同じ言葉が回りました。

新人たちは考えていました。ただ、知識が足りない状態で考え続けたために、間違った方向へ進んでしまったのです。このときは本当に、「放任しすぎた」と反省しました。

ここで重要になるのが、二つ目の教訓です。助けるべき時には100%助ける。

具体的には、工場の基本設計や仕組み作り、管理テンプレートのようなツール開発、品質管理に関わることです。

工場の基本設計、管理テンプレート、品質管理の仕組みは、一度作ると、その後ずっと使われます。ここで手を抜くと、後から全員が「なんでこんな使いにくいシステムなんだ」と悩むことになります。

ある工場では、経験の浅いスタッフに栽培管理表を作らせたところ、重要な項目が抜け落ちた不完全なものができました。その栽培管理表を使い続けた結果、半年後に大規模な病害が発生してしまいました。

このときも、「ここは100%助けるべきだった」と深く反省しました。こうして書いている今でも、管理表の抜けを見つけたときの嫌な感じは思い出せます。紙なのか画面なのかより先に、胃のあたりが先に反応する感じです。

人が育つと工場も育つ

工場立ち上げの成功の秘訣は、人材育成ではあえて任せる時間を作り、システム構築では担当者が密着して丁寧にサポートすることです。

この「放任」と「密着サポート」のバランスを取るのは、本当に難しいです。

新人たちが困っている姿を見ると、つい全部教えたくなります。困った顔を見るのは、正直しんどいです。こちらも別に、意地悪をしたくて遠くを見ているわけではありません。

ただ、一時の同情で全部教えてしまうと、彼らは自分で考える力を育てられません。いつまでも、指示があるまで動けない人になってしまいます。

反対に、すべてを「自分で考えて」と丸ごと任せれば、途方に暮れて、モチベーションを失い、最悪の場合は離職してしまいます。

その微妙なバランスを見極める場面こそ、立ち上げ担当者の力が問われるところだと思います。

偉そうなことを書いていますが、工場の立ち上げは何度やっても緊張します。

今回の新人たちは育つだろうか。この工場は軌道に乗るだろうか。そんな不安を抱えながら進めていきます。

それでも、1年後に新人たちが自信を持って働く姿を見ると、やはり「頑張ってよかった」と思います。植物工場の立ち上げが、何度経験しても難しく、でも何度でも挑戦したくなる理由は、そこにあるのかもしれません。

それにしても、「この苗、なんかおかしいんですけど」と聞かれたときに、分かっているのに答えないのは今でも心苦しいです。

今日も私は、たぶん少し遠くを見ながら「うーん、どうだろうねぇ」と言っています。相手のためと言いながら、自分の胃にも少し負荷をかける。立ち上げ担当者というのは、なかなか地味な仕事です。

他のコラムを読む

コラム一覧へ