現場管理技術
植物工場の収穫、効率か品質かの二択をやめる三つの調整
速く刈れるラインを組むと、店頭に並ぶ頃には葉先が傷んでいる。傷まないように手を緩めると、今度は一日の収量が目標に届かない——どちらを立てても、もう片方が崩れる感覚に覚えがあるはずです。けれど、効率と品質を一本の天秤に乗せているから二択に見えるだけで、いつ刈るか・どう動くか・何で刈るかは、いったん切り分けて見ると、打ち手が増えます。実際には、これらは一日の段取りのなかで絡み合っていますが、まずは別々の調整として見てみると、どこに手が入るかがほどけてきます。
私は人工光型の植物工場で、葉物の収穫に10年以上関わってきました。以下は、その現場で見てきたことと、論文でメカニズムが裏付けられたことを、分けて書いていきます。
収穫は速さか品質かの二択ではない
速く刈れば品質が落ちる。丁寧にやれば人手も時間もかかる。収穫の現場は、たいていこの綱引きの中にあります。そしてどちらを取るか、という話に流れていきがちです。でも収穫って、いつ刈るか、どう動くか、何で刈るか——よく見ると、別々に回せるつまみが何本かあるように見えてこないでしょうか。光や温度のような大きな仕掛けはひとまず脇に置いても、現場で今日から動かせるものだけで、話は「速さか品質か」の一本きりではないのです。
そしてもう一つ、つまみを回す前の「品質の床」があります。器具や収穫容器を洗って乾かす、収穫エリアの水やゴミをこまめに片付ける——水耕の葉物では、これが切り口以前の品質を決める土台です。水気が残ったまま梱包すれば、カビや腐敗の入口になる。私が現場で口を酸っぱくしてきたのもここで、洗浄・乾燥・片付けは無料で、今日からできて、やり直しも効く。だから一番先に回せるつまみでもあります。ここがゆるいまま切り口や硝酸塩の話をしても、足元が抜けたままになります。
たとえば一日の中の時間帯です。私が見てきた現場では、午後になると疲れが出てきて、刈ったぶんが、あとで箱詰めの段階になって、切り口が荒い、長さがばらついている、と見つかることがありました。逆に始業から昼にかけては、まだ集中が続いていて、手が速くても揃っている。もっとも、どの時間帯が荒れるかは、現場や人によって違います。朝イチは手も目も冷えていて、最初の一時間がいちばん荒れる、という現場もあるはずです。だから時間帯を決めつけるより、自分の現場でいつ荒れるかを見て、その帯だけ揃えに振る——大事なのはそこです。要は、時間帯で状態が違うなら、狙いを分ける、ということです。
荒れるのが、いつ刈るかとどう動くかが噛み合っていないせいだとしたら——疲れていたり、まだ体が温まっていなかったりするのに、いきなり本番の速度で刈ろうとすれば、切り口は荒れやすい。もっとも、これは刈る人の側だけの話とも限りませんが、ここでは手元ですぐ動かせるところに目を向けます。荒れる帯が分かったら、その時間だけは別物だと割り切る。速さのつまみをいったん下げて、長さを揃えることだけに集中する。状態が乗っているときは、速度を上げても揃いやすい。同じ収穫でも、時間帯で狙いを分けるわけです。
面白いのは、荒れる帯の品質が安定すると、そのあとの速さもむしろ伸びてくることです。荒れたぶんを箱詰めの段階で直す手直しが減るので、後工程が速くなることがある。速さと品質を正面からぶつけるより、時間帯ごとにどちらを優先するかを先に決めておく。すると、両方とも勝手についてくる帯がある。そんな経験はないでしょうか。
どう動くかで切り口の揃いは変わる
午後、疲れてくると、手首だけでチョキチョキやっている。刈ったぶんを左手に溜めながら、次の株へ手を伸ばす動きがどこかぎこちない。ところが朝のうち、調子が出ているときは、腕ごと、株に対して体ごと向き直っている。同じ人なのに、です。その「どう動くか」が、切り口の揃いに効いてきます。

手首チョキチョキが荒れるのは、たぶん刈る範囲が広すぎて、遠い株に手だけ伸ばしているからです。だから、株を作業台やコンベアに移してから処理する局面では、作業台の高さを肘が軽く曲がるくらいに合わせて、手を伸ばす範囲を一歩ぶんに狭めます。届く範囲だけ刈ったら、体ごと寄る。そうすると刃を入れる角度が毎回そろうので、切り口がばらけにくい——人工光型の葉物の現場で何度も見てきた手応えです。ただ、後で触れる論文が測っているのは姿勢の負荷までで、切り口が揃うかどうかは、ここから先の私の実感です。
姿勢の負荷が下がること自体は、報告があります。植物工場での葉物の収穫を三次元で動作解析した研究では、立ったままや高さ75cmの作業台に比べて、座って作業台を肘の高さに合わせ、作業範囲を狭めると、首を反らす角度も、肩を前に出す角度も、重心が前へ移る距離も小さくなった。いちばん楽な座位では、首の伸展がだいたい22度、肩の屈曲が77度くらい、というのが一例として示されています。ただし、これは独立した作業台に座って作業する場面を測ったもので、多段ラックの上段でその場で刈る局面には、そのままは当てはまりません。効くのは、株を台やコンベアに移して処理したり選別したりする局面です。それと、測られているのは刈っているその瞬間の姿勢であって、作業の速さそのものや、長く続けたときに体を痛めるかどうかまでを示す話ではありません。それでも、遠くに手だけ伸ばすと姿勢が崩れる、という向きには、はっきり沿った結果です(参考: 1)。
何で刈るかは道具より動きの一定さ
次は「何で刈るか」、道具の話です。葉物を刈るとき、ハサミを使う人もいれば、ナイフのような刃物でスッと引く人もいます。こんな経験はないでしょうか——ハサミか刃物かで揃いが決まるというより、どちらも「同じ角度で同じ位置に刃が入るか」のほうが効いている。ハサミは閉じる位置が決まりやすいぶん長さは揃えやすい。断面はスッと引いたほうが滑らかなこともあります。道具そのものより、その道具で動きを一定にできるかどうかです。どちらが優れているという話ではなく、自分の動線に合うほうを選ぶ、という考え方です。

そして道具まわりでもう一つ、衛生が絡みます。包丁やハサミ、収穫容器は、使ったら速やかに洗って乾かす。これは切れ味の維持だけでなく、水耕の葉物で持ち込みたくない汚れを断つための、現場の基本です。
いつ刈るかは刈る日と刈る前の仕込みで決まる
最後のつまみは「いつ刈るか」です。時間帯の話はしました。でも、もう一段ゆっくりした「刈る日」——何日目に刈るか、刈る数日前に何をしておくか——のほうにも、効くものがあります。

収穫予定日を一日ずらしたら、前日は小さい株が混じっていたのに、翌日は揃っていて、刈るのも箱詰めもスッと終わった。そんな経験はないでしょうか。ただ、勘で一日ずらしただけなら、再現できる段取りにはなりません。そもそも株の揃いは、定植の密度や前工程、さらにさかのぼれば発芽の揃いで決まる部分も大きいのですが、ここでは刈る側でできることに絞ります。
レタスのような葉物では、与え方の最後の数日が、葉の中身に残ります。収穫の少し前に養液や肥料を絞ると、葉に溜まった硝酸塩——えぐみや苦みの一因とされる成分——が下がりやすくなります。光や温度のかけ方——環境制御の側——でも、葉の締まりや日持ちが整います。ただ作物や品種、その時の生育で効き方が変わるので、何日前にどれだけ、とは一概には言えません。
人工光型の葉物では、これがかなり具体的に確かめられた報告があります。人工光のもとで栽培したバターヘッドレタスで、窒素の与え方を量で管理すると、収量はわずかに下がるものの、市場に出せるサイズには育ったうえで、葉の硝酸塩を減らせています(参考: 4)。つまり「絞っても収量はまったく落ちない」わけではなく、「収量はわずかに下がりうるが、市場規格は維持できる帯がある」というのが、私の見ている実態に近い書き方です。葉はもうだいたい出来上がっていて、最後は中身を整える段階だからだと考えられます。
ただし、ここは正直に綱引きを置いておきます。「収量を保ったまま硝酸塩だけ下がる」とは、無条件には言えません。水耕のミズナでは、収穫前に施肥を止めると硝酸塩は下がるものの、収量(新鮮重・乾物重)が一貫して落ちた、という報告もあります。別の研究では、収穫前に養液を水道水に切り替えると硝酸塩は大きく下がる一方で、ビタミンCが落ちた例もあります。つまり、減るか減らないか、何を手放すかは、作物・生育段階・季節で割れます。だから、自分の品目で一度試して確かめる前提で、というのが安全です。
温室での補強もあります。温室のNFTレタスで、収穫の2〜4日前に施肥を止めると、葉の中の硝酸塩が平均で29〜58%下がり、肥料の量も7〜16%減らせました。春の試験では、収穫2日前に止めても収量は落ちないまま、硝酸塩が20〜36%下がっています(参考: 2)。これは太陽光型の温室での結果なので、人工光型とは前提が一つ違います。温室では光が季節で変動するため、原典には「秋や冬の条件が悪い時期だと同じには効きにくい」という季節の但し書きが付きます。一方、人工光型は照明をスケジュールで一定に保てるので、季節で効きがぶれる話というより、いつ照明を切る/絞るかが電力コストを動かす話になります。
中身を整えるという点では、もうひとつあります。温室の自然光で育てたレタスに、収穫の直前に72時間ほど光を当て続けると、硝酸塩が下がると同時に、可溶性の糖やビタミンCはむしろ増えた、という報告があります。硝酸塩とこれらの成分のあいだには、はっきりした逆相関が見えたそうです(参考: 3)。
ここで一つ、線を引いておきます。同じ「いつ刈るか」でも、刈る日や時間帯の選び方は、収穫の現場でその日のうちに動かせます。一方、いま挙げた養液や光の仕込みは、収穫担当だけで動かせるものではなく、栽培計画の側と握っておく一段手前の前段取りです。だから「前日に株を見て決める」のではなく、「収穫の何日前から、栽培側と相談して与え方をこう変える」という段取りに落とす。そうすれば、勘が再現できる手順になります。
重なる帯と綱引きが残る帯を見分ける
衛生の床を整え、刈る日・動線・道具を別々に詰めていくと、速さを大きく削らずに品質が乗ってくる場面がある。ここまでで、そう見えてきました。これが「重なる帯」です。ただし、何でも両立するわけではありません。
両立する帯と、綱引きが残る帯がある。まずは安いつまみから回すのがおすすめです。衛生・刈る日の選び方・動線・道具は、お金をかけずに今日から動かせて、しかも失敗しても戻せます。ここを詰め切ると、思っていたより品質も速さも乗ってきます。綱引きが残るのは、たいてい光や養液のように、作物の中身を直接いじる側です。そこは何かを得たら何かを手放す前提で、自分の出荷先が一番喜ぶ狙いどころを一つ選びます。
光のかけ方はその典型です。赤青のLEDで青色光の比率を上げると、レタスの生鮮重・乾物重は下がる一方で、アントシアニンのような色素やフェノール類はむしろ増える、という傾向が報告されています(参考: 5)。収量と栄養価が逆を向く、まさに片方を得たら片方を手放す帯です。ここは重なる帯と違って、出荷先がどちらを喜ぶかで選びます。
刈ったあとの後処理で品質は決まり直す
刈り終えてからが、もう一仕事です。トリミング・選別・梱包は、せっかく整えた品質を最後に決め直す工程です。トリミングは、傷んだ外葉や根元を落とす作業ですが、除去しすぎると売れる重さがそのまま減る——歩留まりを落とす方向に効きます。選別は、サイズと品質の基準をあらかじめ決めて等級分けをしておくと、判断が人によってぶれません。そして梱包の前に、野菜にも梱包材にも水気を残さない。水気はカビや腐敗の入口なので、乾燥を徹底するのが前提です。
この後処理をどこまで詰めるか、出荷の見た目や日持ちをどう作り込むかは、出荷の品質で深く扱います。ここでは、収穫の品質を語る記事として、刈る瞬間の整えが、トリミングと水気の管理という後処理の足場の上に乗っている、という順序だけ押さえておきます。
運用で詰めてから設備と自動化を考える
もうひとつ、線を引いておきたいことがあります。いまお話しした衛生・動線・刈る日の工夫は、現場の運用——日々の現場管理で動かせる範囲——のものです。一方で、それを超えてラックの作りそのものに手を入れる、自動化の機械を導入する、となると、これは別の判断になります。
設備は、運用で詰めきって頭打ちになってから考える。既存の現場を改善していく文脈では、その順番でかまいません。自動化の機械は、見学先や実験データで見ると、鮮やかに効いているように見えます。ただ、あの効き方は、その規模・その品種・その条件に合わせ込んだうえで出ている姿であることが珍しくありません。みなさんの施設の棚割りや採算に当てはめたとき、そのまま同じように効くとは限らない。
もっとも、順序は一つに固定するものでもありません。人手の採用が難しい地域や、大規模に新規で立ち上げる場合は、設計の段階から省人化を織り込む筋もあります。私は人工光型工場の立ち上げ支援に関わってきましたが、後から運用で削るより、最初から省人前提で作るほうが効く局面は確かにあります。ただ、その場合でも変わらないことが一つある。機械が効く前提=刈られる植物の側の揃いを運用で作り込むこと、これは順序を問わず先に来ます。揃わない素材に機械を入れても、機械は揃えてくれません。
実際、研究の書きぶりも、この「揃い先行」を裏から支えています。たとえば移植ロボットでは、苗の根張りが下がるほど移植の成功率も下がっていて、論文は最低でも90%の根張りを確保するよう勧めています。実測では、根張り92%なら成功率が96%台に届く一方、根張りが46%まで落ちた条件では成功率も下がっていました。機械の出来ばえよりも、植物側の揃いに左右される、という結果です(参考: 6)。
自動化そのものについて、総説の書きぶりは両面です。農業を丸ごと自動化できると期待するのは現実的ではない、とはっきり書く一方で、同じ総説は、単純な軸構成のマニピュレータを組んだ自律フレームなら、いま使われている高価な専用機より速く効率的になりうる、とも述べています(参考: 7)。つまり、丸ごとの全自動化が非現実的なだけで、部分的な自動化を否定しているわけではない。だからこそ、まず運用で揃いをつくってから、揃った素材に対して効く部分を機械に渡す、という順番が理にかなっているのです。
その投資が見合うかどうかは、費目別のコストの中で収穫の人件費がどれだけを占めているかでも変わります。収穫と収穫後は、人件費の大半を占める工程です。だから、ここで稼ぐ数秒は、日産規模で人件費に直に乗ります。たとえば1日に10,000株を出している工場なら、1株あたりの作業時間を1秒縮めるだけで、1日の人件費がおよそ3000円下がる、という勘定です。これは私が現場で人件費を見てきたときの肌感覚にも合います。収穫の人件費が費目のなかでどれくらいの比重なのかは費目別のコストで見るのが筋ですが、ここの数秒が金額に直結する、という手触りだけは持っておくといいです。
腕の差に見えるものと、設計で底上げできるもの
最後に、ひとつ気づきが残ります。ベテランと新人で収穫量や品質に差が出ると、つい「あの人はまだ腕が」と片づけてしまう。でも、ここまでの話をふまえると、それは腕の問題ではなく、作業台の高さが合っていない、刈る日の段取りが人によって揃っていない、衛生の手順が配られていない、というだけかもしれません。
ここで二つを分けて見ます。設計——作業台の高さ、刈る日の段取り、衛生や後処理の手順——は、ベテランと新人の「下限」を底上げします。手順が紙一枚で配られていれば、新人の最低ラインが上がる。一方で「上限」、つまり熟練した人の出来高や、難しい局面での見極め、力加減の按配は、これは腕で決まる側です。設計をそろえても消えませんし、消すべきものでもありません。長年の蓄積でしか身につかない判断は、確かに残ります。
混同すると、もったいないことになります。本当は設計で直せる段差を「あの人はまだ腕が」で片づけてしまうと、紙一枚で埋められたはずの差を見落とす。逆に、設計で底上げできる下限の話を「腕は関係ない」とまで振り切ると、現場で本当に効いているベテランの蓄積を軽く見てしまう。だから、まず設計で下限を底上げして、それでも残った差を、はじめて腕と呼ぶ。順番はそういうことです。
手順としてまとめれば、見直す順番はそう複雑ではありません。衛生は、器具・容器を洗って乾かし、収穫エリアの水気を片付ける。動線は、株を台やコンベアに移す局面では作業台を肘の高さに合わせ、手を伸ばす範囲を一歩ぶんに狭める。道具は、ハサミでも刃物でも、同じ角度で同じ位置に刃が入るかを揃える。タイミングは、刈る日と時間帯を現場で選び、刈る前の養液や光の仕込みは栽培側と握っておく。後処理は、トリミングを過剰にせず、梱包前に水気を残さない。これらを紙一枚に落として配るだけで、下限の底上げは回り始め、現場のノウハウを個人技でなく組織の知として残せます。
そして、どれを優先したかは、収穫の現場だけで完結しません。速さを優先して切り口が雑になれば、その傷は収穫後の日持ちや出荷の見た目に跳ね返ります。逆に品質を優先して収穫が後ろ倒しになれば、人件費や出荷の時間に響く。だから優先順位は、収穫の一工程だけでなく、収穫後と出荷まで見て決めるのが安全です。
収穫を「速いか丁寧か」の一本の天秤で見ると、すべてが二択に見えてきます。でも、衛生の床を整えたうえで、いつ刈るか・どう動くか・何で刈るかをいったん別々のつまみとして見れば、お金をかけずに今日から動かせる範囲に、速さを大きく削らずに品質が乗ってくる「重なる帯」が見えてきます。一方で、光や養液のように、何かを得れば何かを手放す「綱引きが残る帯」も、正直にあります。そこは出荷先が一番喜ぶ一点を選ぶ。そして運用で詰め切って頭打ちが見えてから、はじめて設備や自動化を考える。この順番でいくと、設計が下限を底上げし、残った上限の差が腕で決まる、という見え方になっていきます。
収穫工程の改善は、最後は工場全体の収益に効いてきます。現場でできることを一つずつ詰めていきたい方は、植物工場の収益性を高める172のヒントもあわせてどうぞ。