現場管理技術
単肥の養液配合表は正解じゃない、組み直す設計図だ
配合表の分量を量り、単肥を順に溶かし、ECを測って設定値どおり。手順に抜けはなく、数字も合っている。だとすれば中身も合っているはずだ——そう考えるのは自然なことです。
けれどECが保証してくれるのは溶けたイオンの総量だけで、その内訳までは見ていません。配合表が正しく、ECが合っていてもなお、タンクの中身は少しずつ設計から離れていきます。この記事は、その「離れていく」ことを前提にした養液配合の話です。
配合表を固定の正解にしない
夏場、タンクの底に白いものが溜まり始める。あるいは、収穫前の葉の様子が去年とどこか違う。そういう小さなサインに、ふと手が止まることがあります。
私が見てきた葉物の現場では、単肥から養液を配合している人ほど、最初に誰かからもらった配合表をずっと使い続けている、ということが少なくありませんでした。硝酸カリウムや硝酸カルシウム、リン酸二水素カリウムあたりを自分で混ぜる。それでうまく回っているうちはいいのですが、ある日ふと「これって本当にこのままでいいんだっけ」と引っかかる。きっかけは、たいていそうした些細な変化です。
カルシウム源とリン酸・硫酸源は別の濃縮タンクに分けて気をつけている。それでも、底に出てくるその白い沈殿が同じ話なのかは、よく分からない。水温が上がると沈殿しやすくなる感覚はある。でも配合表は通年同じものを使っていて、そこが噛み合っていない気がする。そんな経験はありませんか。
この「季節は動くのに配合表は動かない」というズレの根っこにあるのは、配合表を一度決めたら動かさない固定の正解として扱う習慣です。実際には、水温やその時々の条件で、沈殿の起きやすさも、作物が必要とする量も動いています。配合表は暗記する固定値ではなく、節目で見直し、前提が崩れたら組み直す設計図です。それで収量が跳ね上がるわけではありません。けれど、資源の無駄を抑え、欠乏や沈殿を先に読んで防ぐことにはつながります。
この話が効く現場、効かない現場
先に、この「組み直す」話がどこで効くかを正直に切っておきます。組み直す手間が見合うのは、〈養液を使い回す閉鎖循環 × 葉物 × 水温が上がる夏場〉が重なる現場です。ここでは、ECは合っているのに塩化物や微量要素が静かにゼロまで落ち、リン酸カルシウムが沈む——という実害が、後で見る研究の実測ではっきり出ています。この領域なら、固定の配合表を組み直す価値があると言い切れます。
逆に、掛け流しや毎回新しく作る非循環の現場、たまにしか作らない小規模、そして水温が上がらない冬場では、固定の配合表で十分に回ります。使い回さなければイオンは溜まらず偏らないし、水温が低ければ沈殿域からも遠い。「固定で10年回っている」現場の多くは、この側にいます。だからこの記事は、自分の現場がどちらの側かを見分けるところから始めてください。以下は循環×葉物×夏場を念頭に置いた話です。
夏に出る白い沈殿の正体と切り分け
底に白いものが出る。その正体を、まず取り違えないことです。

カルシウム源を他と分けるのは正しい対処です。ただし、ここで分けるべきはカルシウム源と「リン酸・硫酸の源」であって、よく言われる「カルシウムとマグネシウムを分ける」ではありません。カルシウムと組んで沈むのは、リン酸(リン酸カルシウム)と硫酸(硫酸カルシウム)のほうです。実務では、硝酸カルシウムをB液に、リン酸系・硫酸系・カリウム系・マグネシウム系・微量要素をA液にまとめ、両者を濃縮状態で出会わせないのが基本になります。そして夏場に底へ出てくる白いものは、その中でもリン酸との組み合わせ、リン酸カルシウムを疑うところです。
ただし、沈殿はリン酸カルシウムだけではありません。底や液中に出るものは、出方で見当がつきます。私が現場で見てきた範囲でも、次の切り分けがいちばん実用的でした。
- リン酸カルシウム:白〜灰白色の細かい沈殿。pH6.0以上で出やすく、夏場に多い。
- 硫酸カルシウム:白色の結晶性の沈殿。低温・高濃度で出やすい。リン酸カルシウムが高温側で出るのと向きが逆。
- 鉄の沈殿:褐色〜赤褐色。pH6.5を超えると、また日光に当たると出やすい。
- 炭酸カルシウム:白色の粉状。硬水を使っているときやpH7.0以上で出やすい。
つまり、白くて細かければリン酸カルシウム、結晶っぽくて寒い時期なら硫酸カルシウム、硬水でpHが高めなら炭酸カルシウム、褐色なら鉄、と当たりを付けられます。温度の向きが逆なので、低温で出るものと高温で出るものを混同しないことです。
水温が上がると沈殿しやすくなるという感覚は、リン酸カルシウムに関しては正しいといえます。リン酸カルシウムは温度が高いほどかえって溶けにくくなる逆溶解度の性質が知られていて、夏に出やすいのもこれと符合します。だからこそ、配合表を通年同じもので回していること自体が、少し噛み合っていません。
これは机上の理屈ではありません。閉鎖循環の水耕で養液を追いかけた研究では、系の中に溜まった沈殿物がアモルファス(非晶質)のリン酸カルシウムで、カルシウムとリンの比がおよそ1.2だったと報告されています(参考: 1)。その沈殿は鉄やマンガンまで巻き込んで一緒に落としていました。「リン酸とカルシウムが濃いまま居合わせると析出する」というのは、循環液の中で実際に起きていることとして記録されているわけです。ただしこれは pH が 8.0〜8.5 と高めの条件下の所見で、どこまで濃ければ何グラム沈むといった定量的な閾値までは示されていません。
ここで現場側の数字と接ぎ合わせておきます。多くの現場は養液のpHを5.5〜6.2あたりに維持して回します。研究の8.0〜8.5は、その意味では極端な条件です。けれど「うちは6前後だから沈殿しない」と安心するのは早い。リン酸カルシウムはpH6.0以上から出やすくなり、鉄の沈殿もpH6.5を超えると始まる。つまり現場の運転帯のすぐ上、6.0台に入った時点で析出の入口に立っています。傾向としては「濃度・水温・滞留時間が揃うほど、そして原水のアルカリ度が高くpHが上振れするほど出やすい」と読むのが、一般化学の常識としても妥当なところです。
まず切り分けたいのは、沈殿が起きているのが原液タンクなのか、混ぜた後の希釈液なのか、という点です。原液は濃いぶん沈殿が出やすい。ここで見落としやすいのは、リン酸源とカルシウム源を別のタンクに分けていても、希釈で一緒になった後では結局出会う、という点です。だから濃縮原液は100倍程度に希釈して使い、A液とB液は必ず別々に希釈してから合わせる——直接混ぜないのが鉄則になります。
ただ、救いもあります。希釈後は濃度がぐっと下がるので、同じ温度でも沈殿域からは遠ざかる。沈殿の出やすさは、おおまかには濃度・水温・滞留時間の三つが揃うほど高まる、というくらいの目安で捉えておけば十分です。薄ければ多少出会っても流れていく間に固まりきりません。だから本当に怖いのは、薄いはずの場面で濃いまま長く留まるところです。希釈液を作り置きして一晩置く。送液配管の継ぎ手や行き止まりで液が淀む。そこに夏の水温が乗る。この三つが重なると、薄めたつもりでも局所的に沈殿が立ち上がります。見るべきは、原液タンクなのか、希釈後でも「溜まって動かない場所」なのか。後者であれば、配合より先に、作り置き時間と配管の淀みを疑う流れになります。言いかえれば、沈殿は配合そのものの組み直しというより、温度・滞留・希釈といった運用の側で閉じる問題です。
ECが合っていても中身は枯れる
沈殿の見通しがついたところで、次は配合の数字そのものをどう決めるかです。

多くの現場では、目標EC(養液に溶けた肥料全体の濃さの目安)を手がかりに配合を作ります。前年と同程度のECになるよう、配合表で指定された量を入れ、ECメーターで合わせて完了。各イオンを個別に計算したり、窒素やカリウムといった内訳を出したりはしません。ECが合っていれば中身もおおむね合っている、という前提に立っています。私自身、はじめはそう回していました。
しかしECは、溶け込んでいるイオン全体の総和でしかありません。合計が同じでも、その内訳の比は別の問題です。窒素が多くカリウムが少なくても、その逆であっても、ECメーターには同じ数字が出ます。中身の偏りは、EC計には映りません。
さらに、循環方式で養液を使い回すと、作物はイオンを均等には吸収しません。EC全体の動きに乗らないまま、特定のイオンだけが静かに減っていくものがあります。固定配合のまま循環させると、ECは合っているのに一部のイオンだけが枯れていく、という事態が起こります。
これは実測でも明確に表れています。閉鎖型の水耕で各イオンを追跡した研究では、硝酸・硫酸・マグネシウム・カルシウム・カリウムの濃度はEC全体の動きとよく一致していました。EC計で追える側です。ところがリン酸・ナトリウム・塩化物、それに鉄やマンガンといった微量要素は、ECの動きから外れていました。とりわけ塩化物は12日目以降、栽培期間を通じて継続的に減り、最終的にほぼゼロまで引き下げられていました。鉄やマンガンも後半でほぼゼロまで落ちています(参考: 1)。「ECは保てているのに、ECに映らないイオンから先に枯れる」という現象は、感覚的なものではなく、イオンを個別に測定すると見えてくる動きです。
ここで注意したいのは、何が先に枯れるかです。同じ研究では、イオンごとに吸収される速さもかなり違い、吸収の速さ自体はカリウムが最も速いグループに入っていました。ただし吸収が速いことと、溶液から先に枯れることは別です。カリウムは吸われる量も多いぶん補充も効いて、溶液の濃度としてはECとよく相関していました。実際にゼロまで落ちたのは、塩化物・ナトリウム・リン酸・鉄・マンガンのほうです。だから「まずカリウムが枯れる」と一点に決め打ちするより、「ECに映らないイオン群が静かに枯れる。カリウムは吸収が速いぶん要注意な一例」と捉えるのが、原典の所見に忠実です。
その偏りが収量にまで響いた例もあります。水耕レタスで養液を目標ECに保ったまま再循環させたところ、新しく作った養液で育てた対照区にくらべ、地上部の重さが2〜4割ほど(実験では最大36%)低下しました。このとき植物体の窒素・リン・カリウム・鉄の濃度がそろって低くなっており、EC計の数字は保てていたのに中身は欠乏していました(参考: 2)。なお、この研究で養分が偏った主な機序は、原水由来のカルシウム・マグネシウム・重炭酸が溜まってECを底上げし、その陰で必要なイオンが薄まっていく、というものでした。カリウムだけが先に吸われて消える、という単純な話ではありません。いずれにせよ、ECさえ合っていれば養分は足りている、という前提が崩れる場面が、数字として残されています。
目標ECからではなく、イオンから逆算する
では、本来どう決めるべきか。筋としては、配合量を目標ECから割り出すのではなく、各イオンの目標濃度を先に決め、そこから単肥の量を逆算します。ここで使う単位が mEq/L(ミリ当量パーリットル)です。植物はイオンの形で養分を吸うので、重量よりイオンの電気的な反応性で揃えたほうが設計が噛み合います。カリウム(1価)とカルシウム(2価)では、同じ重量でも反応性が倍ほど違う、というのがmEq/Lで効いてくるところです。
段取りはこうです。まず作物とステージから、窒素・カリウム・カルシウム・マグネシウムといった主要イオンの目標濃度をmEq/Lで置く。次に、迷いの少ない単肥から順に埋めていきます。
具体的に、レタスで広く使われる山崎処方を例に、硝酸カルシウムの量を出してみます。山崎処方ではカルシウムを2mEq/Lとします。硝酸カルシウム(Ca(NO₃)₂・4H₂O)の分子量は236.1、カルシウムは2価なのでグラム当量は40.1÷2=20.05。1,000Lあたりの必要量は、目標濃度×グラム当量×分子量÷原子量で、2×20.05×236.1÷40.1=236.1g。つまり1,000Lの養液なら硝酸カルシウムが236.1g、と決まります。
ここで一つ、逆算の肝があります。硝酸カルシウムを入れた時点で、カルシウムと一緒に硝酸態の窒素も入ってきます。たとえばここで硝酸分が4mEq/L入り、目標の硝酸が10mEq/Lなら、残りの6mEq/Lを硝酸カリウムで埋める——という具合に、一つのイオンを埋めるたびに、連れて入ってくる別のイオンを次の計算から差し引いていきます。カルシウムは硝酸カルシウム、マグネシウムは硫酸マグネシウムでほぼ決まるので先に置き、残った窒素とカリウムを硝酸カリウムで合わせ、リン酸や微量要素を最後に足す。
するとECは、結果として後からついてきます。ECは最初に合わせにいく目標ではなく、最後に「ずれていないか」を確認する道具、という順番です。とはいえ、毎回すべてのイオンを手計算するのは現場では現実的ではありません。実際には施肥設計ツールやスプレッドシートで計算するのが一般的で、当サイトでも単肥と配合肥料を合わせて計算できる無料ツールを配布しています。
【養液栽培】超シンプルで使いやすい施肥設計ツール:SimpleFert
測定のほうも、毎回全項目は難しい。まずはECに映らず減りやすいもの——塩化物や微量要素、それに吸収の速いカリウム——に当たりを付け、そこだけでも見てみる。そこから始めるのが現実的です。
生育ステージと水温で配合を動かす
吸われ方が偏るのなら、定植直後と収穫前で同じ配合を回し続けてよいのか。当然、そういう問いが出てきます。ステージごとに作物が吸う中身は変わるのに、配合表だけが据え置き、という状態が起こりうるからです。
栄養成長から着果・収穫へ向かうと、作物の要求の向きは確かに動きます。果菜なら、葉を増やす時期は窒素寄り、実をつけ始めると相対的にカリウムの比重が上がってくる、とされます(私は人工光型の葉物が現場の中心で、果菜は実地で見ていないので、ここは見聞きした範囲の話として置きます)。とはいえ、これは毎日いじるような話ではありません。見直すのは節目だけで十分です。定植直後、生育最盛、着果から収穫前、といったところです。
切り替えの手がかりは、カレンダーで機械的に決めるのではなく、減りやすいイオンの目減りと、作物の見え方をセットで読むのが現実的です。減りやすいイオンが落ちてきて、なおかつ作物の様子が変わってきた。その両方が揃ったときに動かす、という運びになります。実務的には、養液分析で前回と比べて「大きく下がった成分は次回少し上げ、あまり変わらない成分は下げる」という調整を、10%程度の増減で段階的に積み重ねるのが扱いやすいやり方です。一度に大きく振らないのがコツで、完璧な処方を狙うより、反応を見ながら寄せていく構えが現場では続きます。
ひとつ、正直に置いておきたいことがあります。配合を動かす効果は、水温や品種、光といった環境が整って初めて効く、という点です。環境が悪ければ、配合をどれだけ細かく動かしても、効き幅は限られます。ですから配合の動的設計は、収量を跳ね上げる打ち手というより、欠乏や沈殿を未然に防ぐ守りの調整、くらいに構えておくのが、葉物で見てきた範囲では実感に近いところです。
この「環境が整って初めて効く」という性質は、研究でも繰り返し確認されています。水耕レタスやピーマンでECと収量の関係を見た実験では、最適なEC値そのものが季節・品種・水温との組み合わせで動いてしまい、EC単独では一つに定まりませんでした。むしろ収量を最も左右していたのは栽培季節と品種の組み合わせだった、という報告もあります(参考: 3, 4, 5)。さらに、養液の最高温度を26℃あたりに抑えると、高めのECで出ていたはずの生育の落ち込みがほぼ消えた、という実験結果もあります(参考: 5)。逆に言えば、温度が制御できている間は配合の多少のズレは表に出にくく、その温度制御が外れる夏場こそ、配合のほうで効いてくるということです。ただしこれはEC水準、つまり総塩分負荷の話です。温度が覆い隠せるのはそこまでで、イオン比のズレそのものまで隠せるわけではありません。動かすべきは常時ではなく前提が崩れたとき、という発火条件の整理と重なります。
配合のずれに早く気づくサイン
配合がずれた。あるいは特定のイオンが目減りした。それに早く気づくには、何を見ればいいのか。ECメーターはあるとして、それ以外に「この値がこう動いたら黄信号」と読めるサインはあるか。ここでの問いはそこです。私が見てきた葉物の現場でも、ECとpHは見ていても、その先に何を見ればよいか分からず、葉色の変化も結局あとから気づく、ということが多かったように思います。
いちばん早いのは、減りやすいイオンを一つ二つに絞って定点で見る習慣です。塩化物や微量要素、吸収の速いカリウムなど、当たりを付けた項目を、簡易な手段でいいので定点で点検する。全項目を毎回測れなくても、これだけでECでは見えない目減りが先に立ち上がってきます。
pHにも使い道はあります。養液のpHが時間とともにじわじわ上がるのか下がるのか、その向きには、作物が硝酸を多く吸うのかアンモニウムを多く吸うのか、その偏りが間接的に現れると説明されます。ただし、これを「中身の偏りの早期サイン」の主役に据えるのは勧めません。自動pH制御を入れている現場では、装置が向きを打ち消すので「動く向き」自体が見えません。原水のアルカリ度や溶けた二酸化炭素、微生物の働きでも動くので、多因子のノイズが乗ります。引用[6]が示すのも、むしろ「EC・pHでは個々のイオン種を見分けられない」というpHの限界のほうです。ですからpHは、あくまで定点測定を補助する一つの傍証——「ECは保てているのにpHの動き方が前と変わった」「補給している割にECの戻りが鈍い」というように、複数の値の食い違いを並べて読むときの一本、という位置づけがちょうどよいといえます。
この「EC・pHだけでは個別イオンの不均衡を捉えきれない」という点は、EC・pHを差別化しない管理では個々のイオン種を見分けられない、という形で、イオン選択電極を組み込む方向の研究でも取り上げられています(参考: 6)。ただし、その簡易な個別測定のほうにも癖があります。カリウムはイオン電極が低めに読んでしまい、その補正で実際の調合液が4割ほど濃くなってしまう、という誤差が報告されています(参考: 7)。カルシウムも校正時と測定時で背景の液が違うと電極が低く出て、調合液が3割ほど濃くなってしまう(参考: 8)。ですから、「ECに映らないから個別に測る」のは正しい方向ですが、簡易測定の値も一発で正解とは思わず、動いた向きを複数回見て読む、という構えがちょうどよいといえます。
もうひとつ、ミスに気づく仕組みも添えておきます。計量は、溶かしてしまうと見た目では分かりません。計量済みのチェックリストを作って一つずつ潰す、A液・B液の容器を色分けする、といった作業前の備えが効きます。それでも誤差が出たときは、目標量の15%以内なら不足分を足すか希釈で補正し、15%を超えたら無理に直さず破棄して作り直す、という線引きが安全です。鉄を入れるときは必ずA液側で、すぐ撹拌して酸化を防ぐ。キレート鉄は使える酸性域がそれぞれ違い、Fe-EDTAはpH4.0〜6.5、Fe-DTPAは4.0〜7.5、Fe-EDDHAは4.0〜9.0までもつので、原水のpHが高めなら安定性の高いキレートを選ぶ、という当たりの付け方になります(安定なものほど高価です)。
単肥配合の値打ちは安さではない
単肥配合に手を出す動機は、たいてい「市販の配合肥料より安くしたい」です。では狙いどおり、単肥に切り替えると本当にコストは下がるのか。ここまで読んできた方なら、測定や組み直しの手間が増えるぶん、肥料代は浮いても結局得なのか、と引っかかっているはずです。
正直なところ、単肥が「必ず安い」とは言い切れません。原料の単価そのものは下がりやすい。けれどその代わりに、調合の工数、測定にかかるコスト、単肥を何種類も抱える在庫リスク、使いきれずに廃棄が出る分が、肥料代と引き換えに乗ってきます。したがって、肥料代だけを見て得かどうかは判断できません。しかも、規模と運用によって損益が反転します。少量でたまにしか作らないなら市販配合の手軽さが勝つこともありますし、量が多くて自分で動かせる体制があるなら単肥が効いてきます。安いかどうかは条件次第で、そこだけ見ても勝負はつきません。
単肥配合の本当の値打ちは、別のところにあります。安さよりも、作物やステージに合わせて中身を動かせる自由度のほうにある、という見方です。コストだけで測ると、ここまで述べてきた偏りを直せる、沈殿を避けられるという利点がごっそり抜け落ちてしまいます。実際、各イオンの吸収量に合わせて施用量を組む定量的な養液管理は、ECだけで管理するやり方にくらべて資源効率の面で利点がある、と示唆する研究もあります(参考: 9)。ただし、これは「示唆」どまりで、EC管理と収量やコストを正面から比べて優劣を定量化したところまでは踏み込めていません。そのため「単肥配合のほうが収量もコストも必ず勝つ」とは言えませんが、「中身を作物に合わせて寄せられる自由度が、EC一本の管理では得にくい余地として残る」とは言えます。電気代や人件費まで含めた精密な試算は別の話として切り出せますが、ここではあくまで配合の設計の範囲に置いておきます。
最後に、これだけは押さえておいてほしい一点があります。「この配合表どおりなら沈殿しない」と言い切れる正解の表は、おそらく存在しません。原水の硬度、水温、タンクの滞留時間が変われば、沈殿の条件も動くからです。だからここでの話は、特定の数字を覚えるためのものではありません。まず自分の施設のいまの値、つまり原水質・水温・どのイオンが減りやすいかを、一度自分で確かめてみてください。そのうえで、次のサイクルで試す候補を一つか二つ決める。具体的な数値を出すときも、目標EC・イオン比・水温・対象作物をワンセットの前提として一緒に見る、という点を忘れないでください。