現場管理技術
植物工場の湿度管理、同じ60%でも乾き方が違う理由
湿度計が60%を指していても、株の調子は日によって違う。数字は変わっていないのに、です。種を明かすと、湿度計の60%は温度しだいで中身が変わる割合で、株が本当に感じているのは別の軸でした。
同じ60%が同じ60%じゃない理由
人工光型の植物工場では、室温はだいたい一定に保って、水耕から上がってくる湿気をずっと除湿で抑えている——そんな運用が多いと思います。湿度のほうは「60%を目標に」のようにレンジで管理して、湿度計がそのあたりに収まっていれば、まあ大丈夫だろう、と。実際それで普段は問題なく回る。
ただ、こんな経験はないでしょうか。同じ「60%」でも、日によって株の様子がどこか違う。葉のハリが、調子のいい日とそうでもない日がある。湿度計の数字は変わっていないのに、です。振り返ってみると、調子がいいときはたまたま室温がいつもより少し高めだったり、逆に「60%なのに今日はもったりしているな」という日は室温が下がっていたり——そういうパターンがうっすら見えてくる。だとすると、湿度の数字だけ見ていても何かが抜けているのではないか。同じ60%が同じ60%じゃないとしたら、自分はいったい何を見て管理しているのだろう、と。
この引っかかりは、たぶん気のせいではありません。種を明かすと、湿度計の「60%」というのは、その温度のときに空気がどれだけ水を抱えられるかに対して、いま何割埋まっているか——という割合なんです。割合だから、温度が動くと、同じ60%でも空気の「まだ吸える余力」そのものが変わる。暖かい空気はたくさん抱えられるので、60%でもまだ吸う余地が大きい。逆に室温が下がると、満タンの量自体が小さくなって、同じ60%でも吸う余地が少ない。
葉っぱから見ると、この「空気がまだ吸える余地」が、水を蒸散として出せる引っぱり具合そのものです。これが VPD(飽差)と呼ばれているもので。室温が高めの日に株の調子がよく見えたのは、おそらく空気の引きが効いて蒸散が回り、その流れに乗って水と一緒に養分が葉先まで届いていたから。「60%なのにもったりする」日は、室温が下がって引きが弱まり、出したいのに出しきれず、葉のなかが渋滞ぎみだった——という見え方で、だいたい辻褄が合います。
では、何を見て管理していたのか。湿度計を見ていたつもりで、本当に効いていたのは、その裏で温度と組んで決まっていた蒸散の引き具合のほうでした。60%という数字は結果のひとつの断面で、株が感じていた連続的な軸とは別物なんです。同じ60%が同じ60%じゃない、というあの感覚が、まさに核心を突いている。
ここでひとつ正直に線を引いておきます。私が現場で見てきたのは人工光型の葉物だけなので、ここで言えるのは「温度と湿度はセットで読むと景色が変わる」というところまでです。具体的にどの VPD で回すと一番いいかは、品目や生育段階で違ってくるはずで、そこはまだ私自身が言い切れる範囲ではありません。
この「割合だから温度で中身が変わる」という読みは、研究でも同じ向きで言われています。湿度そのもの——相対湿度や VPD——が、気孔の開き具合や蒸散の量、それにミネラルの吸われ方や光合成にまで効いてくる調節因子だ、と。背景の条件ではなく、株の中身を動かしている側だ、という整理です。しかも面白いのは、ただ「湿度を上げれば吸う・下げれば吸う」という単純な話ではなく、最終的にどちらに転ぶかは作物の種類や温度との組み合わせで変わってくる、というところまで含めて報告されていることです (参考: 1, 2)。だからこそ「数字だけ見ていても抜ける」というあの引っかかりは、わりと核心なのだと思います。
除湿と室温は一本の引きを別の側から動かしている
割合だから温度で中身が変わる、と腑に落ちると、たぶん次にこういう引っかかりが出てきます。室温を一定に保ってきた前提でずっとやってきたけれど、いまの話だと、温度のほうこそ引きを決めている側だった。となると、そもそも「室温は一定、湿度は60%」という二つを別々のつまみとして管理してきたこと自体が、少しずれていたのではないか、と。

別に温度を動かしたいわけではありません。ただ、狙いがその「引き具合」のほうにあるのだとしたら、自分はふだんどちらのつまみを、何のために回しているのだろう。除湿を強めるのと、室温をいじるのとは、株から見たら同じことをしているのか、別のことをしているのか——そこが急にわからなくなる。
先に結論めいたことを言うと、株から見れば、除湿と室温は別々の二つではなくて、たぶん同じ一本の軸——あの「引き具合」——を、違う側から動かしているだけなんです。湿度を下げても、温度を上げても、空気の「まだ吸える余地」は広がる。葉から見たら、どちらの操作でも引きが強まる方向に動く。逆も同じで。だから二つのつまみに見えていたものは、実は一つの量に合流していた、という見方になります。
ただ、合流するからといって、二つが交換可能というわけではありません。ここが面白いところで。温度のほうは、引き具合だけでなく、株の代謝そのもの——伸びる速さや呼吸——まで一緒に動かしてしまう。だから温度を引きのために回すと、狙っていない別のものまで連れて動く。除湿のほうは、そこを比較的いじらずに引きだけを触れる。同じ軸に効くけれど、巻き込む範囲が違う、という感じです。この、温度が引きと代謝を同時に動かしてしまう側の意味づけは、温度そのものを生理から設計し直す話につながっていきます。
なので「どちらを何のために回しているのか」という問いには、こう言えます。狙いが引き具合の一点なら、ふだんは余計なものを連れてこない除湿で合わせにいって、温度は引きを動かす最後の幅として残しておく。室温を一定に保ってきたこと自体は、たぶん間違いではなかった。ずれていたとすれば、温度と湿度を無関係な二つとして見ていたところで、本当は一つの引きを二方向から決めていた、というだけのことです。
ひとつ断っておくと、私が体で確かめたのは人工光型の葉物の範囲だけです。除湿と温度がこの一本の軸に効く、という大枠はそこで腑に落ちているものの、どちらをどれだけ動かすのが得かは、品目や設備の癖でかなり変わるはずで、そこは私が言い切れるところではありません。
引きを実際に動かすと株の中身まで変わる。これは温室のトマトの話になりますが、実験でもはっきり出ています。空気の引き具合、つまり VPD を 1.4 から 0.8 キロパスカルあたりまで下げてやると、気孔の開きと光合成が増えて、収量が一割ちょっと——12% ほど上がった、という報告があります (参考: 3)。葉物の人工光型とは作物も設備も違うので、この数字をそのまま自分の現場に持ってくる話ではありません。ただ「引きは、合わせにいけば株がちゃんと応える軸なんだ」という大枠は、ここからも見えてくる。湿度計の%を守っていたつもりが、本当はこの引きのほうを触っていた、という見方の裏づけにはなると思います。
引きは壁の二つの数字で読める足りないのは場所のほう
引き具合という一本の軸が見えてくると、現場の手元では当然こういう疑問になります。その引き具合——VPD——は、何か新しい計器を入れないと見えないものなのか。それとも、いま壁にかかっている温度計と湿度計だけで、もう手が届くものなのか。

結論から言うと、壁の温度計と湿度計の二つがあれば、引き具合そのものはもう手が届きます。VPD は温度と湿度から決まる量なので、新しい計器というより、いま持っている二つの数字を「割合」ではなく「引き」として読み直すだけ、という性格のものなんです。早見表で引いても換算式で計算しても、出てくる引きの値は同じです。だから測るための機械が足りない、という話ではありません。
足りないとすれば、たぶん「どこの」引きか、というほうです。壁の温度計と湿度計は、たいてい部屋の空気を測っています。でも、あの引きは株が——というか葉っぱが感じている引きの話でした。だとすると、部屋の真ん中あたりで測った数字と、葉っぱのすぐそばで起きていることは、同じと思っていいのか。とくに株がぎっしり並んで葉が茂ってくると、その茂みの中は外と空気感が違う。手を入れるとちょっとこもっている。そういう場所の引きを、部屋の真ん中の数字でちゃんと代表できているのか——という引っかかりです。
これは本当にその通りで。部屋の真ん中で測った数字は、あくまで部屋の代表値です。葉が茂って空気がこもった茂みの中は、外より湿気が抜けにくく、引きが弱まっている。手を入れてもったり感じる、あの感覚は、おそらく外してはいけない情報です。同じ室内に、引きの強い場所と弱い場所が同居している。部屋の一点は、その平均を見ているだけで、株が実際に感じている引きとは少しずれる。この場所ごとのムラは、突き詰めると気流と空調を設備側から設計し直す話に行き着きます。
なので測り方のイメージとしては、計器を増やすより前に、まず「いちばん引きが弱そうな場所はどこか」を疑ってかかる、という順番だと思います。茂みの内側、空気が動きにくい奥まったところ。そこが部屋の代表値からどれくらい遅れているか——それを一度つかんでおくと、壁の数字を見たときに「真ん中はこうでも、奥はもう少し弱いはずだ」と差し引いて読める。
ただここも線を引いておくと、私が体で確かめたのは人工光型の葉物までで、茂みの中がこもる感覚もその範囲の話です。どれくらいずれるか、どう風で散らすのが効くかは、株間や流量や設備の癖でかなり変わるはずで、そこは私が言い切れるところではありません。
壁の二つの数字で引きそのものは手が届く、足りないのは蒸散を引いているのが何かという読みのほう——この整理にも、研究側の裏づけがあります。温室のナスで、蒸散の速さが何でいちばん決まるかを調べたものがあって。ぱっと見は日射といちばん相関しているように見えるんですが、ほかの要因を差し引いて純粋な効き目だけを取り出すと、空気の引き具合——VPD——の効きが 0.84、日射の効きは 0.47 で、引きのほうが倍近く強かった、と。見かけ上の日射の相関の多くは、じつは引きを介した間接的なものだった、という読みです (参考: 4)。ナスの温室での話なので葉物の人工光型にそのまま当てはめる数字ではありませんが、「灌水や調子を日射だけで読むと取りこぼす、引きのほうを見る」という向きは、こことよく重なります。
先が枯れるのは詰まりか配り負けか
茂みの奥は引きが弱い、という話は、症状の出方ともつながってきます。現場で湿度がらみで最初に目につくトラブルというと、葉先がチリチリに枯れてくる——チップバーンを思い浮かべる方が多いと思います。しかも、下のほうの古い葉ではなくて、いちばん元気に伸びている新しい葉の先っぽがやられる。元気な葉がやられるのは、ずっと不思議に思われてきたところです。
ここで、引きの話を聞いたあとに考え直すと、引っかかりが出てきます。引きが弱いと蒸散が回らなくて養分が届かない、という流れだとすると、チップバーンは引きが弱い場所——あの茂みの奥のこもったところ——で出そうな気がする。でも、ちょっと待てよ、と。引きが強すぎても、葉が水を出しすぎて先っぽまで水が回らない、ということも起きないのか。だとすると、引きが弱くても強くても先が枯れることになって、症状だけ見てもどちら側なのか見分けがつかないのではないか、と。
その懸念のとおりで、チップバーンは引きが弱くても強くても出ます。だから症状の見た目——新しい葉の先がチリチリになる——だけでは、どちら側からやられたのかは見分けがつきません。ここはご指摘の通りです。
ただ、同じ「先が枯れる」でも、葉のなかで起きていることは裏表なんです。チップバーンの正体は、要は葉先までカルシウムが届かないこと。カルシウムは蒸散の流れに乗って運ばれて、しかも一度届いた先からは動かない居つきの養分なので、伸びている新しい葉先という、いちばん遠くていちばん欲しがっている場所で、まっ先に欠けが出る。元気な葉ほどやられる不思議は、たぶんここです。需要がいちばん大きいから。
それを踏まえると、二つの側はこう分かれます。引きが弱い側——あの茂みの奥のこもった場所——は、流れそのものが起きないから運べない。出口が閉じている渋滞です。引きが強すぎる側は、葉全体はどんどん水を出しているのに、伸びるスピードのほうが速くて、先っぽという末端まで流れが行き渡る前に本体側で使い切ってしまう。流れはあるのに末端が置いていかれる、いわば配り負け。届かない結果は同じでも、詰まっているのか、配り負けているのか、で原因は逆です。
では自分のはどちらだったか。私が現場で当たりをつけるときに見ていたのは、症状そのものより「どこで出たか」と「そのとき引きはどちら向きだったか」のほうでした。空気のこもる奥まった列で、しかも全体にもったりしている日に出るなら、弱い側を疑う。逆に、風が当たって乾きがちな場所で、ぐんぐん伸びている時期に出るなら、強い側、配り負けを疑う。症状は同じ顔をしていても、出た場所と引きの向きがどちらだったかを併せて見ると、だいたい辻褄が合ってきます。VPD を適正なところに合わせてもなおチップバーンが出るなら、引き以外の連動要因に進む——その先はチップバーンの連動要因をたどる話が引き取ります。
それと、配り方の話なので、培養液のカルシウムをただ濃くするだけでは内側の若い葉までは届きにくい、というのも大事なところです。総量より、届ける流れのほうが効く。とはいえ、葉に直接撒いてやるような供給側の手当てもあるにはあって、引きを動かすのと並ぶ選択肢として持っておくといい、くらいに見ています。
念のため添えておくと、私が体で確かめたのは人工光型の葉物の範囲だけで、しかも当たりのつけ方も経験則です。どの引きから先がどちらに転ぶかの境目は、品目や生育の勢い、株間や流量でかなり動くはずで、そこは私が数字で言い切れるところではありません。
カルシウムは蒸散の流れに乗って運ばれる、総量より届ける流れのほう——この見立てを、水耕レタスの実験がほぼそのままの形で見せています。光を強くして株をぐんぐん伸ばすと、株全体ではカルシウムの吸収量も外葉の濃度も上がるんですが、内側に包まれた若い葉のカルシウムだけは増えてくれない、と。理由は、蒸散に乗って運ばれる流れが、蒸散の盛んな外葉のほうに偏ってしまって、引きの弱い内葉まで回らないから——という説明です。だから「元気に伸びている内側の新しい葉先でまっ先に欠ける」という出方の不思議とも噛み合う。そしてここがまさにその通りで、培養液のカルシウムをただ濃くしても、この内葉への届かなさは解けない。総量の問題ではなく配り方の問題だ、という線がはっきり出ています (参考: 5, 6)。
それと、もう一段下の機構の話になりますが、蒸散の流れそのものが根からのイオンの吸われ方を引っぱっている、というのも水耕の実験で示されているところで。光や温度や湿度といった環境のほうが、蒸散を経由して根の吸収まで動かしている、という筋です (参考: 7)。蒸散が唯一の駆動力だと言い切れるところまでではないんですが、「引きが流れを作り、その流れが養分を運ぶ」という一本の筋に、根元から裏づけが入る感じです。蒸散が落ちると養液の吸収も落ちる——だとすれば養液 KPI の側から読み直す話とも、そのまま地続きになります。
除湿を緩める前に引きのムラを削る
症状の出方から引きの向きを当てにいく、というのはとても実際的です。ここで少し角度を変えて、経営側から見えている景色も置いておきます。現場のマネージャーは、夏になると除湿の電気代を問われる立場でもあります。「除湿の電気代、これ下げられないの」と。引きを弱める方向——湿度を上げる側に寄せれば除湿は減らせそうですが、そこには怖さもある。
現場の感覚だけで「いや、これは必要なんです」と言ってはきたけれど、数字の裏づけがあって言ってきたわけではない。湿度60%を守る、というのが目的化していた気もする。そういう状態で、引きの話を踏まえて考えるとどうなるか。除湿を緩めて湿度を上げる方向は、株から見たら引きを弱める側に振ること。だとすると、あの「茂みの奥」——もともといちばん引きが弱くてこもっている場所——が、まっ先に詰まり側に転ぶのではないか。部屋全体を平均で見て「まだ60%台だし大丈夫」と思っても、いちばん弱いところはもう限界を越えていた、ということが起きそうで、そこが怖い。
その怖さは、当たっています。部屋全体を一律に緩めると、最初に音を上げるのは平均値ではなくて、いちばん弱い場所——あの茂みの奥のこもった列です。だから「天井はいちばん弱い場所が決める」という読みは、正しい。平均でまだ余裕に見えても、奥はもう詰まり側に転んでいる、というのは現場でいちばん起こりやすい外し方なので。
ただ、そこで一段引いて考えると、入り口は除湿を緩めることだけではないんです。怖いのは「いちばん弱い場所」があること、つまり部屋の中に引きの強い・弱いのムラがあること自体です。だとしたら、まず手をつけるべきは緩める量ではなくて、そのムラのほうかもしれない。奥のこもりを風で散らして、弱い場所を部屋の平均に近づけてやる。そうすると、いちばん弱い場所の天井が上がるので、同じ歩留まりのまま全体をもう少し緩められる余地が出てくる——という順番です。除湿を何割落とすかの前に、除湿に頼らなくても引きが届く状態を作れないか、を先に疑う。
ファンで空気を回すコストは、たいてい除湿そのものより軽いので、入り口としてはそちらのほうが筋がいいことが多い、というのが私の感覚です。一律に緩めて怖い思いをするより、ムラを削ってから天井を測り直すほうが、結果として下げ幅も取れる。
除湿機そのものの能力をどう見積もるか、という話も、この「効きとコストを並べる」流れに乗ってきます。必要な除湿量は、植物が日々どれだけ水を出すかが土台になります。具体的な数字を一律に置くのは難しい——株間や蒸散の出方で実際の必要量はかなり動くので——のですが、考え方としては、その想定量に少し余裕を持たせた能力で見ておく。ぎりぎりの能力だと夏のピークで張り付いて、いちばん弱い場所から先に詰まり側へ押し込んでしまう。能力に余裕があるほうが安定して回り、緩める判断もしやすくなります。この除湿の電力負荷を、もっと広いランニングコスト全体の中で測り直したくなったら、コスト全体から再評価する話が続きを引き取ります。現場の費目を一度きちんと書き出して経営の言葉に翻訳してみたい方は、【無料】植物工場の現場管理で使うテンプレート13種も用意しています。
ここでも正直なところを言うと、私が体で確かめたのは人工光型の葉物の範囲だけで、いまの「ムラを先に削る」も経験則です。風でどれだけ均せるか、緩めてどこまで下げられるかは、設備の癖や株間でかなり変わるはずで、具体的な下げ幅を私が数字で言い切れるわけではありません。
「除湿の電気代を下げられないか」という経営からの問いが毎年来る、というのも、じつは負荷の実態と合っています。人工光型に近い密閉型の植物工場でエネルギーの内訳を調べたものだと、除湿にかかる負荷が総エネルギー需要の半分——50% 超を占めていた、という報告があって (参考: 8)。照明や空調に目が行きがちですが、気密を上げて湿気を閉じ込めるほど、それを抜く除湿のほうが効いてくるはずで。だから「除湿は必要なんです」と言ってきた現場の感覚は、数字のうえでも的を外していない。同時に、それだけ重い項目だからこそ、闇雲に削るより「どこまでなら緩められるか」を見極める価値がある、ということでもあります。
機械を足さずに明日できる最初の一手
緩める前にムラを削る、という順番が腑に落ちたら、もうひとつ境界線を置いておきます。引きを弱める方向には、蒸れて病気が出やすくなるという歯止めもあります。そこを越えて病害が本格的に回りだしたら、もう湿度の置き場所だけで抱える話ではなく、別の手当てに切り替わる場面です。それと、湿度を上げすぎる側は病気だけでなく、株がひょろ長く間延びする徒長の入り口にもなりうるので、もし湿度過多が徒長の先行指標になっていないかが気になり始めたら、徒長の先行指標をたどる話で確かめられます。
そのうえで、ここまでの話を持ち帰った人が、新しい機械を入れずに明日できる最初の一手があるとしたら、それは何になるか。私なら、いちばん引きが弱そうな場所に手を入れてみることから始めます。
道具はいりません。茂みがいちばん茂って、空気がこもっていそうな奥まった列に、手を入れてみる。外と比べてもったりこもっているか、それともちゃんと空気が動いているか。それだけで、自分の部屋のどこに「弱い場所」があるのかが、肌でわかります。壁の温度計と湿度計は部屋の平均しか教えてくれないので、その平均から取り残されている場所を、まず自分の手で見つけにいく。あわせて、その温度と湿度から現状の VPD——引き具合——を一度出してみると、「いま自分はどのあたりで運転しているのか」が数字でも見えてきます。
見つかったら、次は風です。新しい機械を入れなくても、いま回っているファンの向きや株の並べ方を少し変えて、その奥に空気を通せないか試してみる。こもりが取れれば、いちばん弱い場所の引きが部屋の平均に近づいて、ムラが小さくなる。除湿を何割落とすか、という話は、そのムラを削ってからで遅くないと思います。
要は、数字を読み替えるところから一歩進んで——「うちでいちばん引きが弱いのはどこか」を手で確かめる。それが、機械を足さずに明日できて、しかもこの先ぜんぶの判断の土台になる一手だと思います。
最後にひとつだけ、正直に線を引いておきます。私が体で確かめてきたのは人工光型の葉物の範囲だけで、今日お話ししたことも、その手ざわりの中での見立てです。品目や設備が変われば、弱い場所の出方も、風の効き方も変わってくるはずで。だからこの一手も、答えというより、ご自身の現場を疑ってみる最初のとっかかりとして、受け取ってもらえたらと思います。
次は風、ファンの向きや並べ方で奥に空気を通す——この一手は、密閉型の植物工場のレタスで裏づけが取れています。栽培ベッドに沿って秒速 0.28 メートル以上の安定した水平気流をかけてやると、チップバーンの出方が抑えられた、という実験があって。しかも面白いのは、同じ実験で温度のほうを動かす操作はチップバーン抑制にあまり効かなかった——つまり「温度をいじる」より「風で空気を動かす」ほうが効いた、と。さらに、安定した風を当てると、内葉と外葉のあいだのカルシウム濃度の差が縮まっていた、というところまで見えています (参考: 9)。引きの弱い場所のこもりを風で散らすと、いちばん届きにくかった内葉まで流れが回りやすくなる——という、いまの見立てとそのまま重なる結果です。風でどれだけ均せるかが株間や設備で変わる、という注意ももっともで、効いた風速もこの実験の条件での値ではあるんですが。
電気・湿度だけでなく、収益に効く現場の打ち手をひととおり見たい方は、植物工場の収益性を高める172のヒントもあわせてどうぞ。