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業界動向

植物工場が向いている場所はどこか——世界の動きで読み解く

2026-04-29

植物工場をどこでやるか、という問いは、事業を検討するときの入り口で必ず出てきます。

日本でこの話をすると、論点は電気代の安い地域、都市近郊、廃校・廃工場の活用、といったあたりに集まりがちです。それはそれで正しいのですが、世界を見渡すと、まったく別の論理で植物工場が選ばれている地域があります。


立地を見るときの4つの軸

世界の植物工場の動きを観察していると、なぜそこで動いているのかは大体4つの軸で説明できます。

効率の軸:収支が成立するか 人件費が高い、土地代が高い、物流コストが大きい——そういう地域では、自動化された植物工場が経済合理性を持ちやすい。「やらなくても困らないが、やったほうが儲かる」という選び方です。

生存の軸:やらないと食料が確保できないか 露地で作物が育たない地域や、食料の大半を輸入に依存している地域では、植物工場は効率化のツールではなく、食料安全保障そのものになります。

政策の軸:国家・自治体の後押しがあるか 補助金、規制緩和、土地提供——政府マネーが動いている地域は、民間だけでは成立しないプロジェクトも前に進みます。

市場の軸:高付加価値作物の需要があるか 都市部の高所得層、レストランやホテル、サプリ・薬用植物の需要——売り先がある地域では、コスト高をカバーできる売価が成立します。

実際に有望な地域は、複数の軸が重なる場所です。サウジアラビアは「生存×政策」、シンガポールは「生存×政策×市場」が揃っていますし、日本は主に「効率×市場」で戦っている、といった見方ができます。


中東——生存×政策が極端に揃った地域

中東は、植物工場の論理として今いちばん面白い地域だと思います。

サウジアラビアは、再生可能淡水が一人当たり年100m³未満という、絶対的水不足の閾値を下回る水準にあります。2024年はアラブ地域で観測史上最も暑い年でした(Vertical Farm Daily, 2026)。Vision 2030には水耕・垂直農業が国家戦略として組み込まれていて、農業開発基金は2021〜2025年で約2.2億ドルを高効率温室に投じ、設備投資の最大70%を補助する仕組みになっています。リヤドにあるMENA最大級の自動化垂直農場は、日産2,200kgのリーフベジを生産しているとのことです。

UAEも構造は近い。食料の約9割を輸入に依存している国で、ドバイ・アブダビ間にある垂直農場「Greeneration」は70品種を栽培し、350以上のレストラン・ホテルに供給しています。

中東でこれだけ国家マネーが動いているのは、植物工場が「効率化ツール」ではなく「これがないと国が動かない」という位置づけになっているからです。

中東の構造については別記事でも書いているので、合わせて読んでもらえると背景がつかみやすいと思います → 中東が植物工場に向かう理由:食料安全保障と石油依存の構造


シンガポール——軸は揃っているが現場は苦戦している

シンガポールは、植物工場の立地論として4つの軸がすべて揃っている、世界的にも稀な地域です。

国土が狭く露地農業はほぼ成立しない(生存)、食料の9割超を輸入(生存)、政府が「30 by 30」という、2030年までに食料の30%を国内生産する目標を掲げて補助金を出している(政策)、東南アジア有数の高所得都市で外食・観光産業の需要も厚い(市場)——理屈の上ではこれ以上ない条件です。

ただ、現場は順調とは言えません。卵は2023年時点で35%の自給率まで伸びて目標を超過しましたが、野菜は3%にとどまっています。多くの垂直農場が補助金に依存していて、エネルギー価格・人件費の上昇、資金調達の厳しさで開発遅延や撤退も出ています。政府は今、複数の事業者が共用できるマルチテナント型の農食品生産施設の検討に入っているところです(Eco-Business, 2026)。

「軸が揃っている」ことと「実際にうまくいく」ことは別物だ、というのがシンガポールから読み取れる現実かもしれません。


日本——効率×市場でどう戦うか

日本は、生存の軸が中東やシンガポールほど切迫していません。食料自給率は低いものの、社会全体に「植物工場がないと食えない」という危機感があるわけではない。

その代わり、効率の軸(人件費が高く、自動化のメリットが活きる)と市場の軸(高付加価値作物の需要、都市近郊への物流アクセス)で戦うことになります。

ただ、効率の軸だけで勝負すると、電気代・初期投資・人件費の数字勝負になりやすい。そこで多くの事業者が苦しんでいるのも事実です。

日本国内の議論に閉じず、生存の論理が強い地域への技術輸出やライセンス展開を視野に入れると、見え方が変わってくる、というのが個人的には注目している角度です。


このページの使い方

世界の植物工場の動きを4つの軸で整理してみると、自分が事業を考えている地域の強み・弱みが見えやすくなります。

このあたりを問いとして持つと、立地の議論が「電気代が安いか」だけで終わらなくなります。

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