植物工場の成功事例、真似して大丈夫?

上から見た整然と並ぶレタス。成功事例は勝ちパターンでなく条件の束として読むことを象徴する

成功事例を集めていると、上司や出資者から「あの会社みたいにやれないか」と問われます。手元には黒字化した工場のリストが並びはじめている頃かもしれません。

ただ、事例を一つひとつ眺める前に、一つだけ確かめておきたい問いがあります。その黒字は、その会社のやり方が優れていたから出たのでしょうか。それとも、たまたま条件がそろっていたから出たのでしょうか。

ここが、真似できるものと真似できないものを分ける入口です。本記事では、成功事例を「勝ちパターン」としてではなく、立地・電源・販路・作物という条件の束として、そしてその束を回す現場力の話として読み解いていきます。

成功事例は勝ちパターンではなく条件の束

同業の経営者が「うちはレタスで黒字化した」と話していた。その一言が、妙に頭に残る。新しく植物工場を始めようか、いまの事業を続けるか迷っているとき、まず「うまくいっている事例はないか」「あの会社みたいにやれないか」と探すことはないでしょうか。その人は「歩留まりがどう」「販路がどう」と、すごく具体的に語ってくれる。でも聞けば聞くほど、自分のところでそのまま真似できる気がしない。立地も違う。電気代の条件も違う。いくつか成功事例の記事やセミナーの話を見比べてみると、「これは結局その会社の固有の条件がたまたま揃っていただけではないか」と思えてくる。勝ちパターンというより、運というか、条件の組み合わせの話に見えてくる。そんな経験はないでしょうか。

この「聞けば聞くほど自分のところでは再現できない気がする」という感覚は、いちばん正直な反応です。レタスで黒字化したという話を聞いて「よし真似しよう」とすぐ動かなかったこと自体が、すでに本質を見抜いています。植物工場の成功事例は、真似できる勝ちパターンではなく、立地・電源・販路・作物がたまたま噛み合ったときだけ動く「条件の束」です。だから一つでも条件が違えば、同じやり方をしても結果は別物になります。

ここで一つ、はっきりさせておきたいことがあります。この四つは、成功の条件をすべて言い尽くした網羅枠ではありません。事例を「真似できるか・できないか」で分解するときの、入口の軸です。立地・電源は最初に決まって動かせない条件、販路・作物はあとから組み替えられる条件——まずこの線で束をほどく。だから「四つ揃えば黒字になる」という読み方をしてほしいわけではなく、「どこが動かせてどこが動かせないか」を見分けるための、最初のものさしとして使ってください。

その経営者が語った「歩留まりがどう」「販路がどう」という話は、嘘でも誇張でもありません。その人の工場では本当にそうだったのでしょう。ただ、語られているのは結果であって、なぜそれが成り立ったかという土台のほうは、たいてい本人にも見えていません。気候や用地に恵まれた立地だった。電気代が安い地域だった。近くに安定して引き取る業務用の販路があった。その販路が求める品質と、作りやすい作物がたまたま一致していた。そうした「揃っていた前提」が、成功談からはきれいに抜け落ちます。語る側に悪気はなく、自分にとって当たり前すぎる条件は、わざわざ語られないものです。

ただ、すべてが運任せという話でもありません。条件の組み合わせだと捉えられたなら、次にやることは「あの会社をどう真似るか」ではなく、「自社の場合、立地・電源・販路・作物のうち、どれが揃っていてどれが欠けているか」を一つずつ並べてみることです。

研究を横に並べても、同じことが言われています。室内栽培の良し悪しは、技術そのものより、どこに建ててどんな電気を引くかで評価がひっくり返る。これが繰り返し出てきます。「地元で作っているから環境にいい」と思われがちな話でも、実際には気候やエネルギー源しだいで従来農業より負荷が高くなることもあり、輸送距離を縮めただけで良し悪しが決まるわけではありません。だから「揃っていた前提が抜け落ちる」というのは感覚の話だけではなく、同じ技術が条件しだいで正反対の評価になる、という形で裏づけがあります(参考: 1, 2)。初期投資も運営コストも高く、採算が取れるかどうかは普及のいちばんの壁としてずっと残っている。これも経済性の分析と総説の双方が共通して指摘しています(参考: 3, 6)。

立地と電源は足切りに使い販路から作物へ逆算する

成功事例を見るとき、無意識に四つの中でも「販路」の話ばかり気にしていないでしょうか。技術や作物の珍しさより、結局どこに売れたかが知りたい。けれども立地と電源は、始める場所を決めた時点でほぼ動かせません。あとから努力でどうにかなる条件と、最初に決まって変えられない条件が、ひとつの成功談の中に混ざっている。そして成功事例を見るとき、その「変えられない側」がたまたま当たっていた話を、自分の努力で再現できる話のように読んでしまう。これがいちばん危ない読み方です。では立地と電源が動かせないなら、事例から学べるのは実質、販路と作物の組み合わせ方くらいなのでしょうか。

LED照明下のレタス栽培エリア。電気の引き方が立地の足切りを決めることを表す

この問いに先に答えると、変えられない側がたまたま当たっていた話を、努力で再現できる話として読んでしまう——これが成功事例の最大の落とし穴です。ただ、立地と電源を「もう学べないもの」として切り捨てるのは早い。動かせないのは事実ですが、それは「これから建てる場所」だけの話です。もしまだ場所を決めていないなら、立地と電源こそ、あとから一切取り返せない、最初の一回しか選べない最重要の判断になります。だから成功事例から立地と電源を読むときの正しい使い方は、「真似する」ことではなく「足切りの基準を知る」ことです。あの工場は電気代がこのくらい安い地域だったから成り立った、とわかれば、それより条件の悪い場所では同じ作物・同じ販路では無理だ、という線が引けます。再現するためではなく、自分の候補地を落とすために使うわけです。

そのうえで、すでに場所が決まっている前提なら、動かせるのは実質「販路と作物の組み合わせ」です。ただ、順番に気をつけたい。作物から入ると「珍しいものを作れば売れるはず」という、いちばん滑りやすい道に入ってしまいます。崩れに強いのは、まず自分の立地と電源という動かせない条件を固定値として置き、その範囲で安定して引き取ってくれる販路を先に決める順番です。販路が求める品質と量が決まって、はじめて「ではその条件を、自社の電源コストで作れる作物は何か」と逆算する。もっとも、現実には補助金で設備が先に固まり、作物が先に決まってから販路を探す案件も少なくありません。設備先行が悪いというより、その場合は販路を後回しにしたぶんだけ束が脆くなる、と見ておけばよいでしょう。事例を読むときも、立地・電源を制約として固定し、販路から作物へ逆算したか——あるいはどこで順番が崩れたか——という目で見ると、真似できる部分とできない部分がきれいに分かれて見えてきます。

電気代を足切りの基準に使う、というのは研究でも芯になっています。室内の完全人工光型だと、電力は生産コスト全体のだいたい二割から四割を占め、その電力コストのうち六割から八割超を照明が食います。収穫物一キログラムあたりでみると、室内栽培はおよそ二百五十キロワット時、露地はその千分の一に近い水準で済みます。この桁違いの差です(参考: 4, 5)。だから「電気をどう引くか」で立地が決めるのは、後からの効率化では覆らない電気代の桁です。私が人工光型のレタス工場で運転に関わってきた肌感でいうと、桁そのものは契約した立地で決まってしまい、現場でどう頑張っても動かせません。動かせるのは桁の中の数割——点灯のスケジュールを栽培に合わせて詰めたり、照明の使い方を見直したりして消費電力量を削るところまでです。実際、同じ研究の系統でも、明るさを時間ごとに動的に制御すれば照明の電力コストを一割強ほど下げられると報告されています。だから「電気は動かせない」と二値で切り捨てるのは行き過ぎで、立地が桁を決め、桁の中の数割は運用で動く、と二段に分けて読むのが正確です。土地と水は節約できるのに電気で大きくつまずく。この同じ非対称が、いろいろな研究で繰り返し出てきます。

販路から作物へ逆算する順番も、販売価格がどれだけ採算を揺らすかを見ると効いてきます。人工光型レタスのある試算では、レタスで採算が合う最小の規模が、標準的な前提だと栽培面積で四十平方メートルに満たないくらい。ところが、レタスの価格がたった二割下がるだけで、その損益分岐が千七百平方メートルへ一気に跳ね上がります(参考: 6)。同じ施設・同じ技術でも、販路が決める「いくらで売れるか」がほんの少し動くだけで、必要な規模が桁で変わってしまうのです。

失敗事例こそ条件の束をはっきり教える

撤退した工場は、事例として集まってきません。表に出てくるのは黒字化した話ばかりで、うまくいかなかった工場のほうは「あれは経営判断のミスだった」と一言で片付けられがちです。ここまでは「成功した工場をどう読むか」を説明してきました。その裏側で、消えていった工場はどう扱えばいいのでしょうか。じつは、その片付け方も、成功事例を丸ごと真似するのと同じくらい危ういのです。

チップバーンで葉先が褐変したレタス。失敗事例こそ欠けた条件を教えることを表す

なぜなら、失敗した工場のほうが条件の束をいちばんよく教えてくれるからです。撤退事例は語られないため、生き残った側だけを見て「これが勝ち筋だ」と思い込んでしまう。これは生存者バイアスそのものです。墜落しなかった飛行機ばかり見て、弾痕の位置を間違えるのと同じです。

そして「経営判断のミスだった」という片付け方は、症状こそ違え、成功事例を丸ごと真似するのと根は同じです。むしろ向きが逆なだけ。成功談では「揃っていた前提」が抜け落ちる。失敗談では「欠けていた条件」が、経営判断のミスという一言にすり替えられて隠れてしまう。電源コストが想定より高い土地だった。引き取り先が一つしかなくて、そこが値を下げてきた。その販路が求める品質を、選んだ作物では安定して出せなかった。本当は立地・電源・販路・作物のどれかが最初から欠けていただけなのに、「社長の決断が甘かった」と人の能力の話にしてしまう。そうすると、自分は優秀だから大丈夫、という最悪の教訓だけが残ります。

ただ、ここで反対方向にも注意がいります。失敗を全部「条件の欠落」に押し込むのも、それはそれで雑な読み方です。条件は四つとも揃っていたのに、現場で回せずに崩れる工場があります。立ち上げを支えていた人が抜けて歩留まりが落ちる。病害が一度入って棚の循環が止まる。慣れない人手に切り替わって、同じ設備・同じ作物なのに品質が安定しなくなる。これらは「条件が欠けていた」というより「束を回す側が崩れた」失敗です。「経営判断のミス」という一言が雑なのと同じくらい、「条件の欠落」という一言にすべてを還元するのも、現場で起きていることを取りこぼします。

だから、失敗事例の正しい読み方は成功事例とまったく同じです。あの四つのどれが欠けて倒れたのか、と分解する。そのうえで、四つは揃っていたのに回す側が崩れたのではないか、ともう一段疑う。そうやって読むと、成功と失敗は別々の話ではなく、同じ条件の束を揃った側から見るか欠けた側から見るかの違いでしかない、とわかってきます。むしろ失敗事例のほうが、どの条件が致命傷になりうるかという足切りの線を、成功事例よりはっきり教えてくれることすらあります。手に入りにくいだけで、本当はいちばん学びの濃い教材なのです。

「生き残った側だけを見てしまう」という話は、数字で見るとかなりはっきりします。ただし、その数字こそ型式で割って読まないと足をすくわれます。最新の実態調査(『大規模施設園芸・植物工場 実態調査 令和7年度』)では、植物工場全体としては六割超が黒字か収支均衡で、太陽光型・併用型に限れば七割以上が黒字か収支均衡です。「七割が赤字」という言い方は、もう業界全体の像としては当たりません。けれども、ここで安心するのは早い。同じ調査で、人工光型に限れば黒字か収支均衡は約五割——裏を返せば今も約半数が赤字です。冒頭で「型式と作物で採算は別物」と言ったのは、まさにこの差のことでした。古い業界誌の報道では、累計で五百億円規模の補助金が投じられたあとの二〇一五年から二〇一七年時点で、施設の七割から七割五分が赤字だという数字も出ていました(参考: 7, 8)。これは同じ書き手が当時の状況を論じたもので、いまの全体像ではなく、その頃の問題提起として読むのが正確です。いずれにせよ、生存者バイアスの母数として効くのは「人工光型では今も約半数が赤字」のほうです。表に出てくる黒字化の話は、この約半数の赤字に埋もれて見えないだけの一部で、倒れた側は事例として集まってきません。だから「成功事例」を母数のわからないまま並べて勝ち筋だと思うのは、ちょうどこの人工光型の赤字を見ないことと同じなのです。

黒字の裏に隠れた前提を推定して読む

いま成功事例として語られている工場も、何年か経てば撤退して「あれは社長の判断が甘かった」と言われる側になることがあります。失敗事例の「欠けた条件」が経営判断のミスにすり替わる、という話を踏まえると、もう一つ気づくことがあります。条件の束が崩れた瞬間に、あるいはそれを回す現場が崩れた瞬間に、成功事例は失敗事例に変わるのです。そう考えると、成功事例は完成形ではなく、たまたま今、条件が揃って動いている途中経過を見ているだけです。立地と電源は動きません。けれども販路は、相手の都合で消えたり値を下げてきたりします。作物も需要が変わります。動かせる二つは、自分で選べる代わりに、勝手に崩れもします。そしてそのどれが揃っていても、回す人が抜ければ品質は崩れます。だから事例を見るときに本当に知りたいのは、その工場が今黒字かどうかではなく、四つのうちどれだけ崩れに耐えられる作りになっているか、そしてそれを回す現場がどれだけ崩れに強いか、です。

衛生服の作業者がレタスを選別・出荷する様子。黒字の裏にある人員密度という隠れた前提を表す

その「崩れに耐えられるか」を事例から読もうとすると、たいてい数字の手前で壁にぶつかります。成功事例で語られる黒字や歩留まりという数字の裏には、普段は表に出ない前提が隠れていて、それを推定しながら読まないと、耐久性の判断を大きく間違えます。ここでは表に出にくい代表的な三つを挙げますが、これで全部というわけではありません。

一つめは補助金の構成です。その黒字が、売上で立っている黒字なのか、初期投資の何割かを補助金で賄った上での黒字なのか。これで、崩れへの強さはまるで違います。設備を補助金で建てた工場は、最初の数字はきれいに見えます。けれども十年後の設備更新を自力の利益で賄えるかは別の話で、そこは成功談ではまず語られません。補助金の採択スキームそのものは私が内側から見た領域ではないので、ここは見立てとして言いますが、初期費用の重さがどこに転嫁されているかで、後年の効き方はかなり変わるはずです。

二つめは人の手のかけ方、つまり人員密度です。同じ歩留まりでも、ぎりぎりの人数で回しているのか、手厚く人を貼って品質を支えているのかで、利益の見え方が変わります。立ち上げの時期には、初収穫の日にトラブルが重なって、社長や数人がほとんど寝ずに何十時間も包装をやり続ける、ということも起こりえます。そういうただ働きに近い労力で品質が支えられている工場もあります。その人件費が数字に乗っているのか。それとも社長や家族のただ働きで支えられていて、人件費に計上されていないのか。もし計上されていないなら、その黒字は人ひとりの頑張りが抜けた瞬間に崩れます。

三つめは販路の契約条件です。引き取ってくれている、とだけ語られても、それが何年契約なのか、価格改定の条項があるのか、最低引き取り量が保証されているのか。ここが一年更新の口約束に近いものなら、販路という条件は見た目より遥かに脆くなります。契約交渉の中身は、私が現場で直接見てきた部分ではありませんが、外から見えにくいぶん、いちばん耐久性を左右する前提になりやすいところです。

だから事例を読むときは、語られた数字をそのまま信じるのではなく、この黒字はどの補助金構成で、どれだけ人の手が乗っていて、どんな契約条件の販路で成り立っているのか、と裏側を推定しながら読みます。そこまでやって初めて、どれだけ崩れに耐えられるかが見えてきます。

この「数字の裏は見えない」という感覚は、研究の側からも裏づけられています。垂直農場の投資をめぐる強気の数字は、その多くが私企業の部分的な開示に頼っていて、大手ほど非公開なので、外から見える数字はかなり当てになりません(参考: 9, 10)。だから黒字や歩留まりという表の数字を、裏の前提を推定せずにそのまま信じるのは危ういのです。

作物の選び方が崩れやすさを左右する、というのも具体的に出ています。いま商業として実際に回っているのは、ほぼ葉物・ハーブ・ベリーといった日持ちせず単価の高い作物に偏っていて、これらは世界のカロリー供給の六パーセントほどしか担っていません。逆に、小麦やトウモロコシのような主食を室内で作ろうとすると、たとえばスウェーデンでの試算では電気代だけで世界の小麦価格のおよそ百倍に達してしまい、いまの経済性では成り立ちません(参考: 9, 10)。だから「何を作るか」は好みの問題ではなく、採算が乗る作物そのものが、いまは高単価の生鮮品という狭い窓に限られている、という前提なのです。

公開情報で読める外形と推定で補う中身を分ける

補助金構成や契約条件は、まさに公開情報からは見えない部分です。読み手にできるのは、あくまで「ここは推定だ」と分けて扱うところまで。推定を事実のように扱って勝因や敗因を断定してしまうと、それはそれで別の落とし穴に入ります。公開情報で読めるところと、本当は当事者に直接聞かないと埋まらないところ。その境目をどう引いておくかを整理しておきましょう。

まず、公開情報で読めるのは、いってみれば外形だけです。どこに建っているか、規模はどのくらいか、何を作っているか、どこの補助金事業に採択されたか。このあたりは、自治体の公募結果やプレスリリース、その会社が自分で語った記事に出ています。ここまでは事実として置いて構いません。先ほどの四つでいえば、立地と作物、それに補助金が「使われたかどうか」までは、わりと表から見えます。

逆に、当事者に聞かないと絶対に埋まらないのは、構成と条件の中身です。補助金が初期投資の何割を賄ったのか。販路が何年契約で価格改定条項があるのか。その黒字に社長や家族の労働が数字として乗っているのか。そして、その現場を実際に回している人がどれだけ厚いのか。先に挙げた裏側は、ほぼ全部こちら側にあります。耐久性のいちばん知りたい部分は、構造的に公開情報の外にある。ここは認めておいたほうがよいでしょう。

そのうえで、大事な線の引き方は二つあります。一つは、推定にはかならず「これは推定だ」というラベルを貼って扱うことです。たとえば「補助金で建てたなら設備更新が重いはず」というのは、あくまで条件付きの仮説であって、勝因でも敗因でもありません。断定した瞬間に、先ほどの「経営判断のミス」と同じ、もっともらしい一言で思考を止める落とし穴に変わってしまいます。

もう一つは、推定を断定にしないかわりに、問いの形で残しておくことです。「補助金構成はどうだったのだろう」で止めずに、「もし当事者に一つだけ聞けるなら、何を聞くか」というかたちで残しておく。そうすると、推定は危ない結論ではなく、次に確かめるべきリストになります。実際、見学に行ったり当人と話せる機会があったとき、その問いがあるかないかで、聞き出せるものがまるで変わってきます。

ですから、境目はこう引きます。外形は事実として読む。中身は推定とラベルを貼って問いの形で残す。そしてどちらも断定しない。公開情報だけで勝因や敗因を言い切れると思った時点で、それはもう事例を読み違えている。それくらいに構えておくのがちょうどよいでしょう。

ここまでは事例の側を読む話でしたが、同じ四つの欄は自社の側にも引けます。自社の立地・電源・販路・作物を同じ枠に書き出し、事例の前提と一段ずつ並べてみる。そのとき効くのが、さきほどの足切りの線です。たとえば販売価格が二割下がるだけで損益分岐が桁で動くなら、自社が現実に出せる規模で、その事例の販価前提を満たせるのか。設備を補助金で建てた事例なら、自社は同じ更新負担を自己資金で抱えられるのか。規模と資本というこの二つは、事例の表の数字には出ていなくても、自社の側では最初から分かっています。だから事例の前提と自社の条件を並べれば、問いは「真似できるか」ではなく「この前提を自社で再現できるか」という、適用可否の判定に変わります。そして最後にもう一段、「その束を、自社の現場の人手で回し切れるか」という問いが残ります。条件は資料で照らし合わせられても、回す力は現場にしか宿りません。

「あの会社みたいにやれないか」と思って事例を探していた最初の状態から、ここまでずいぶん遠くまで来ました。これからは、成功事例を見ても、もう「真似できるか」ではなく、立地・電源・販路・作物のどれが揃っていて、どこが推定のままで、そしてそれを回す現場はどうか、という四つの欄を作って読むことになります。そして最後に残るのは、成功も失敗も同じ条件の束とそれを回す現場力を、別の側から見ているだけなのだ、という視点です。この一つを手元に残しておけば、次に事例へ向き合ったとき、それを物語として消費せずに済むはずです。

もし、自社の四つの欄と現場力を一度きちんと並べて点検してみたいと感じたら、植物工場の採算と計画を一枚で整理するテンプレートを用意しています。事例の前提と自社の条件を同じ枠に置いて見比べるための、地味な作業の足場として使ってもらえればと思います。

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参考文献

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  3. Kheir Al‐Kodmany(2018) The Vertical Farm: A Review of Developments and Implications for the Vertical City. Buildings. https://doi.org/10.3390/buildings8020024
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  1. Elias Kaiser, Paul Kusuma, Silvère Vialet‐Chabrand, Kevin M. Folta, Ying Liu, Hendrik Poorter, Nik Woning, Samikshya Shrestha, Aitor Ciarreta, Jordan van Brenk, Margarethe Karpe, Yongran Ji, Stephan David, Cristina Zepeda, Xin-Guang Zhu, Katharina Huntenburg, Julian C. Verdonk, Ernst J. Woltering, Paul P. G. Gauthier, Sarah Courbier, Gail Taylor, L.F.M. Marcelis(2024) Vertical farming goes dynamic: optimizing resource use efficiency, product quality, and energy costs. Frontiers in Science. https://doi.org/10.3389/fsci.2024.1411259
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  5. 石堂 徹生(2015) 7割が赤字 植物工場は「金食い虫」 不安定な生産とコストが課題. エコノミスト
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