現場管理技術
植物工場の収穫後工程、勝負は箱を開けた瞬間
工程ごとに手を入れて、作業は速くなった。ミスも減ってきた。それでも、返品やクレームの連絡だけは途切れずに続く。品質を確かめる最後の瞬間は検品台、けれど顧客がそれを確かめる最初の瞬間は、届いた箱を開けたときです。その間に横たわる時間と温度と揺れを、どう手元に引き寄せるか。
収穫後工程が作っているのは「開けた瞬間」の状態
計量して、包装して、検品して、出荷する。植物工場の収穫後工程は、たいてい一つひとつ別の作業として回っています。計量は規格どおりか、検品はもれなく通したか。タスク単位できちんと回している。それなのに、出荷したあとで顧客からクレームや返品が来る。計量は規格の重量に収まっている。包装も検品も手順どおりだ。なのに着いた先で「葉がしなびていた」「水滴で傷んでいた」と言われる。よく考えてみると、こちらが見ているのは「箱に入れた瞬間の状態」で、顧客が見るのは「開けた瞬間の状態」です。その間が、まるごと抜け落ちています。
その「間」こそ、いちばんの作りどころです。計量も検品も、規格に合っているかという内部の合否を見ている。その合否はもちろん要る――規格重量を割れば契約違反で返品になるし、表示や異物のチェックも捨てられません。ただ、顧客が開けたときの状態は、その合否だけでは決まらない。合否に加えて、合否と「届いた状態」の間を作り込む仕事が、ここに乗っています。検品で水滴に気づかず通したとします。すると、密閉した箱の中でその水分が逃げ場をなくし、輸送中ずっと葉を蒸らし続ける。出荷時点では問題なくても、着いた頃には傷んでいる。つまり収穫後工程は、いまの状態を確認するだけの作業ではなく、数時間後・数日後の状態をいまここで決めてしまう工程です。だから検品の基準も、「規格内か」に加えて「開けたときどうなっているか」から逆算して引き直すことになります。開けたときの状態とは、鮮度だけではありません。葉の揃いが規格どおりか、表示と中身が合っているか。箱を開けた相手の目に映るものは、ぜんぶ含まれます。そう見方を変えると、計量や包装の一つずつも、最後の状態を作る手順に変わってきます。
葉物のなかでもマイクログリーンの収穫後を扱ったレビューが、同じことを語っています。収穫直後から急速に進む品質の劣化が産業拡大の制約になり、価格が高止まりし、販路が地元販売に限られる――そう報告されています(参考: 1)。価格や販路の数字までそのままレタス等の葉物に当てはまるわけではありません。それでも、収穫されたあとの葉が、放っておけば脱水し、しおれ、傷み、栄養も落ちていくこと自体は、種類を問わず起こります。日持ちも、出荷時の状態も、収穫後にどう扱ったかで大きく左右されるのです。
逆算の一歩目は一箱を顧客の条件で追うこと
開けたときの状態から逆算する。そう言われても、では実際どこから手をつければいいのか。着いた先の状態は出荷したあとのことで、現場で目の前にあるのは箱詰め前の野菜だけです。出口の状態を、今どうやって確かめればいいのか。最初の一歩は何を見ることから始まるのか。そう戸惑ったこと、ないでしょうか。

箱に入れた瞬間を見ているうちは、出口は見えません。だから一歩目は、自分が顧客になることです。きょう出した荷から一箱を抜く。出荷棚に置きっぱなしにせず、顧客が開けるのと同じ条件で追ってみる。同じ輸送時間ぶん、同じ温度帯で寝かせて、向こうが開ける時刻に自分で開ける。すると「箱詰め時は問題なし、半日後に水滴、一日後にしなび」と、自社工程の出口で何が起きるかが時間軸に並びます。これは物流のその先までを当てるものではありません。物流に渡す前に、自分の工程の中で仕込んでしまった傷みを切り分けるための検証です。実際のコールドチェーンは温度の上下や積み替えや店頭での放置があり、そこまでは再現できない。けれど「うちの工程を出た時点で、もう傷みの芽が入っていたかどうか」は、これで手元に取り出せます。
もう一つは、来たクレームを工程の判断に紐づけて記録することです。「しなび」で終わらせない。その箱が通った検品で、誰が何を見て通したか、までさかのぼって書く。一箱を追って先に型を出しておき、来たクレームはその答え合わせとして当てていく。これを続けると、開けた状態と現場のどの判断がつながっているかが見えてきます。ただしクレームだけを頼りにすると偏ります。ひどい傷みは声になりますが、軽い不満は値引きや、静かに発注が細っていくかたちで届かない。だから主役は自分で追う一箱のほうで、クレームは従です。一度きりだと、たまたまその日が暑かっただけ、ということもある。ロットや時季を変えて何度か追うと、たまたまではない傷み方のほうが残ってきます。先回りして当てるのではない。自社の出口を一回ぶん検証して、判断に当て直す。それが最初の一歩です。
傷み方の型から収穫後の原因をたどる
出発点は、クレームのことばそのものです。届いた声を並べてみる。「しなびていた」「水滴で傷んでいた」「底の段だけ傷んでいた」。ここで扱うのは、時間が経つにつれて進む鮮度の劣化です。表示と中身の食い違いや、異物の混入、つぶれといった傷は、検品や箱詰めの設計という別の系統の話なので、ここでは分けて、鮮度がどう落ちるかに絞ります。その鮮度の落ち方が、いくつかの種類に分かれているのが見えてきます。しなびと、結露と、蒸れて腐るのとでは、起きている物理が別ものです。脱水なのか、結露なのか、温度が下がりきっていないのか。これらをひとくくりに「鮮度が落ちた」で片づけない。傷み方の型ごとに、収穫後のどの判断――冷やすタイミング、密閉の仕方、段の積み方――がそれを生んだのかを、一つずつ当てていけます。

この型は、手で触ると分かれます。しなび(脱水)は、葉に張りがなく軽い。重さを測れば、出荷時より目減りしているはずです。これは冷やす前の段階で葉から水分が逃げているサインです。私の現場では、しなびが出るときはたいてい、収穫から予冷・包装までの間に、葉を裸のまま乾いた空気に置いた時間が長くなっていました。打ち手は、冷やす前・包む前に乾かさないこと、葉を露出させる工程を詰めることです。包む前の段階でしなびが出やすい現場では、加湿で葉のまわりの乾きを抑えるのも効きます。注意したいのは、この加湿が効くのは「包む前・しなび側」だということ。袋に入れて閉じたあとに湿りをこもらせると、今度は次の結露や蒸れの側に振れます。同じ「水分」でも、局面で打ち手が逆になります。
水滴(結露)は、袋の内側に粒が付くかたちで現れます。これは温かいまま密閉してしまった型です。芯まで冷えきっていない葉を袋に入れて封をすると、中の水分が逃げ場をなくして内側で露になる。打ち手は、密閉の前に温度を落としきること、または逃がす包装に変えることです。逆に、芯まで冷やしきってから閉じるのであれば、密閉そのものはむしろ水分を保って有利に働く面もあり、密閉が常に悪というわけではありません。効いているのは封じたことより、冷やしきる前に封じたことのほうです。
腐敗(蒸れ)は、箱の底段や中心部に出やすい。冷えきる前に積み上げてしまい、中心の熱が抜けなかった型です。打ち手は、積む前に芯温を落とすこと、風の通る積み方にすることです。ここにもう一つ、温度や積み方だけでは説明のつかない経路があります。腐りには、もともと葉の表面に付いていた菌の数も効きます。器具や容器が汚れていれば、そこで菌をもらって、あとは袋の中の湿りと温度がそれを進める。だから腐敗対策は、殺菌設備を入れることではなく――まずは使った器具・容器を洗って乾かす、作業台の水気を拭き、出た屑をためないという、ごく当たり前の片付けです。これは特別な対策ではなく、型を語る以前の、品質の床にあたる衛生のルーティンです。
ただし、何度・何分で切れるかは、作物によっても包装によっても物流条件によっても動きます。ここで断定はできません。自分の現場で一箱を追い、どこで型が出るかを確かめるのが確実です。
傷みと湿度の関係は、別の角度からも見えてきます。これは結露や蒸れそのものではなく病害の例ですが、レタスの菌核病の発病モデルでは、湿度が高いほど、とくに飽和に近づくほど病気の進みが速くなります。ほぼ飽和に近い湿度では最初の症状が出るまでの日数が数日と短く、湿度が中ぐらいだとそれが一〜三週間に延びると報告されています(参考: 2)。起きている機構は違っても、葉のまわりに水分がこもる時間が長いほど何かが進みやすい、という向きは共通します。結露も蒸れも、冷えきる前に密閉したり積み上げたりすれば袋や箱の中の湿度は上がる。だから、温度を落としきってから閉じる・積む。理にかなった打ち手です。
打ち手を三つの層に分け運用から詰める
型ごとに出した打ち手を、今度は別の軸で並べてみる。すると、性質の違うものが混ざっているのに気づきます。冷やす順番を変える、積み方を変える――こうした打ち手は、明日の朝から手で変えられます。けれども「逃がす包装に変える」「予冷庫を入れる」となると、お金も契約も要る。どこまでが自分たちの判断で今日変えられて、どこからが上に話を通さないと無理な範囲なのか。その線引きが、分かりにくいのです。
打ち手は、変えるのにかかる手間とお金の大きさによって、三つの層に分かれます。一つ目は、順番・タイミング・動線の層。冷やす順、積み方、葉を露出させる時間は、今日から運用で変えられます。お金はかからず、決めて回すだけで済みます。在庫を出す順番もここに入ります。先に入れたものから先に出す。これを崩して古い在庫を棚に滞留させると、それだけ脱水も腐敗も進む時間を与えることになる。器具を洗って水気を片付ける衛生も、この無料の層に並びます。二つ目は、消耗品・治具のレベル。包装資材を逃がすものに替える、棚の高さを変える、保冷材を足す。小さな投資で試せて、稟議というより消耗品の範囲に収まります。三つ目が、設備・契約の層。予冷庫、包装機、物流便の温度帯は、上に話を通す案件になります。
ここで大事なのは順番です。ただし、その順番がそのまま当てはまるのは、人手があって既存の運用を詰め直せる現場の話です。まず一つ目の運用を詰め切る。それで消える型には、設備が要りません。順番を逆にして、本来は運用で消せる型に先に予冷庫を買うと、お金をかけてもその型は消えません。もっとも、これは「運用だけで全部消える」という意味ではありません。葉物の棚持ちを大きく左右するのは、芯温を落とす速さや、密閉のしかたといったコールドチェーンと包装の側で、そこは運用の手直しだけでは届かない型もあります。だから運用から始めるのは、運用ですべてが消えるからではなく、買う前に「どの型が運用で消えて、どの型は設備が要るのか」を安く切り分けるためです。先に詰めておくべきは運用そのものというより、この切り分け――診断のほうです。そして一つ目で型を切り分けた記録があると、その設備や契約を通すときにも「どの傷みを止めるために、いくら」と言える。判断材料がそろうわけです。
歩留まりの出口も、ここで一緒に考えておく価値があります。規格に届かなかった葉を、廃棄ではなくカット用途や加工原料に回す出口を先に設計しておくと、運用で防ぎきれなかった分が損失のままにならず、収益の側に少し戻ってきます。どこまで戻せるかは販路の作り方しだいで、これ自体は収穫後の傷みを止める話とは別系統ですが、出口を持っているかどうかで、同じ歩留まりでも残るお金が変わります。
収穫後で防げる傷みと上流で決まる傷みを分ける
層に分けて運用から詰めていっても、それでも残る問いがあります。収穫後の工程で「全部」が決まるわけではない、ということです。そもそも日持ちしにくい品種だった。収穫のタイミングや切り方で、葉がもう傷ついていた。こうした傷みは、収穫後にどれだけ丁寧に扱っても取り返しにくい。これは収穫より前の工程の話であり、収穫後に変えられる範囲とは分けて考えます。収穫後の判断で「防げる傷み」と、上流で決まっていて「収穫後では取り返せない傷み」。その境目は、どこにあるのか。
見分け方はこうです。一箱を追ってみて、出荷時は問題なく、半日後・一日後に型が出てくる。しなび、結露、蒸れ。これは収穫後で変えられる側です。時間が経って現れる傷みは、こちらの扱いが作っています。逆に、開けた瞬間からもう切り口が茶色い、葉にすでに傷がある、もともと張りが弱くてすぐにへたる。これは時間で出てきたのではなく、最初から入っていたものです。品種の選び方、収穫のタイミング、切り方。収穫そのものの工程か、その手前で決まっていて、収穫後でどう丁寧に扱っても取り返せません。
もともとの素性が上流で決まっている。これは研究の見え方とも合います。マイクログリーンの栄養価をめぐるレビューでは、成熟野菜より栄養成分が高い傾向はあるものの、その優位は種・栽培条件・収穫タイミングによって大きく振れ、いつも一方向に成立するわけではない、と整理されています(参考: 3, 4)。葉そのものの中身は、収穫より前の選び方や育て方で、かなりの部分が決まるのです。
買うかどうかを左右する大きな要素も、収穫後工程の外にあります。植物工場の農産物に対する消費者の態度を、中国・シンガポール・英国・米国の四か国で調べた研究があります。全体としては好意的でありながら、価格や安全性への懸念が同時に居座っている。なかでも価格の高さは、調査したいずれの国でも、購買の壁として上位に挙がります(参考: 5)。価格やブランドで動く部分は、現場の手の届かないところにある、ということです。
ですから収穫後工程は、全部を背負う場所ではありません。上流で決まる素性も、価格やブランドも、ここでは変えられない。けれど、自分がここで確定させている範囲――顧客が開けたときの状態――そこだけはきっちり作りきる。手前で入った傷は、手前に返す。そのうえで、自分の持ち場を渡しきる。いったん買われた荷が次もまた選ばれるか、返品やクレームになって取引が細っていくか。それを分けるのは、箱を開けたときに、約束どおりの状態で届いていたかどうかです。顧客が手元で見ているのは、社内の計量が何グラム正確だったかだけではない。合否はもちろん要る。そのうえで、開けたときにどう見えたか――合否と、届いた状態の間。最後に残るのは、そこを作りきれたかどうかです。