現場管理技術
チップバーンはCa総量の不足ではない 届け方で再発を止める
Caを足しても再発する。人工光型の植物工場で葉物を育てる現場で、その経験があるなら、原因は別のところにあるのかもしれません。チップバーンを「カルシウム不足」で説明しようとすると、施肥を強めても出続ける現実とどうしても噛み合いません。Caの総量が足りないというより、Caが内側の葉まで届いていない。量そのものではなく、株のなかでどう配られるかの問題です。といっても量と配りは切り離せません。液のCaが底を割って薄すぎれば、もちろん総量不足としても出ます。そのうえで、施肥を強めても止まらないタイプの再発は、配りのほうを見ないと噛み合わない。そして配りは、Ca単独では決まりません。光・蒸散・気流・根域・養液がつながって、Caの行き先を変えています。この記事で持ち帰ってほしいのは二つ。発生株を前にしたとき何から疑うかという順序と、その打ち手を「今日から現場で動かせる範囲」と「設備として考える範囲」に分ける線引きです。

チップバーンはCa総量の不足ではなく届け方の問題
レタスの結球の、芯に近い若い葉。その縁がチリチリと茶色く枯れてくる。チップバーンと呼ばれる症状の話です。扱うのは人工光型の植物工場、レタスを中心にした葉物。太陽光型のハウスや果菜とは蒸散の動き方が違うので、そのままは当てはまりません。現場ではまず「カルシウム不足」と言われます。だからCaを足す。けれど、また出る。
枯れは内側の若い葉に出ます。面白いのは、棚によって差が出ることです。光をしっかり当てている強い棚ほど、外の大きい葉はピンピンして元気なのに、芯に近い小さい葉の縁だけがチリチリ枯れる。逆に、光が弱めの棚はそこまで出ない。Caの総量が足りないなら株全体が弱るはずなのに、いちばん元気そうな株の、その真ん中だけが枯れる。ここが引っかかります。
棚で差が出ること自体が、もう答えになっています。光が強い棚は外葉がよく蒸散する。Caは水と一緒に道管を流れ、蒸散の多いところへ引っ張られるので、外葉にどんどん集まります。一方、芯の若い葉はまだ蒸散が弱い。株の内側で湿度も高く、空気も動きにくい。だから水の流れ自体が細く、Caが届かない。強い棚ほど、外葉と芯の取り合いで芯が負けるわけです。ただ液のバルクCa濃度を上げても、行き先が外葉に偏るため、芯にはなかなか届かない。元気そうな株の真ん中だけが枯れるのは、そういう仕組みです。効くのは濃度の数字を大きくすることより、芯に水を動かすことのほうです。
この見立ては、水耕レタスの制御実験でそのまま測られています。光強度を上げると、地上部の生体重も成長速度もチップバーンの出る葉数も一緒に増える。株あたりのCa吸収量自体も、ちゃんと増えます。問題はその先です。Ca濃度が上がるのは植物全体と外葉だけで、内側の包まれた若い葉のCa濃度は、光を強めても上がらなかった(参考: 1)。理由として挙げられているのが、蒸散による質量流が外葉のほうへ強く向かうから、というところです。「総量が足りないのではなく届いていない」は、印象ではなく、Caの配り(分配)の問題として裏が取れています。ただし、これは底をきちんと満たしている前提での話です。液のCa自体が薄すぎれば普通に足りなくなる。だから「絶対に量ではない」のではなく、底を割っていないかをまず見たうえで、配りの話に進む――この順番が大事です(その見分けは後半で)。
成長を攻めるほど芯にカルシウムが届かなくなる
外葉の蒸散を、あえて弱める。最初は逆に感じるはずです。光が強い棚は、いちばん収穫を取りたい棚。そこで風を弱める、湿度を上げる――どちらも「もったいない」と思うのが普通でしょう。芯に水を通すことと外葉をガンガン働かせることは、どこかで両立しない。トレードオフではないか。

正面からは取り合いです。同じ瞬間に外葉を全開にしながら芯にも水を、というのは無理がある。だから攻めどころと守りどころを、作期の中で時間をずらして分ける手があります。日々こまかく棚ごとに送風や湿度を切り替えられる現場はそう多くありません。多段ラックの人工光型だと、空調も気流も棚単位で割れないのが普通です。そこで現実的なのは、リスクがいちばん高い時期に絞って環境を切り替えること。収穫の3〜5日前に限って、光量を少し落とし、同時に蒸散を促す環境へ寄せる。成長期間の全体を犠牲にせず、芯がいちばん危うくなる仕上げの数日だけ、芯に水を回す側へ振る。タイマーで組める範囲なので、設備の粒度が粗い現場でも回せます。
そして、強い棚で収量を攻めるほどチップバーンが出やすいのは、ある意味そういうものだと割り切ったほうがいい。成長を速くするほど内側の若い葉は猛烈に増えます。速く育つほど、配るそばから新しい葉が増えて、芯への到達が追いつかなくなる(参考: 1)。「速く大きく」と「芯まで安全」は、突き詰めると同じ方向を向きません。だから攻める棚ほど、収穫前のこの数日を芯に水を回す時間としてあてる。ブレーキではなく、信号待ちのように入れてやる。収量を落とさずチリチリだけ減らす落としどころは、だいたいその時間配分の中にあります。
「攻めるほど出る」の境目は、人工光型植物工場で温度と光を組み合わせた実験が見せてくれます。気温が高め(28℃以上)・根域温度が低め(24℃以下)・PPFDが高め(400 µmol·m⁻²·s⁻¹ 以上)。この三つがそろった組み合わせでは、移植後6日目あたりからチップバーンの発生率が50%を超え、解析から外さざるをえなかった(参考: 2)。一つのパラメータではなく、成長を押し上げる条件が重なったところで一気に出る、という出方です。しかも、同じ一日の光の総量でも、ピークを抑えて長めに当てるほうが、短時間に強く当てるより成長はむしろ伸びた(参考: 3)。瞬間のピークを立てすぎないやり方には、収量を捨てずに済む余地があるということです。
発生株を見たら何から疑うか
発生株を一枚見つける。手はまず、培養液のCa濃度に伸びます。それが一番すぐ触れる数字だからです。芯に水を回すのが先、と理屈では分かっていても、いざ目の前にすると何から見ればいいか迷う。棚の位置、その株が芯側か外葉側か、湿度や風の当たり具合――見る順番が決まっていないことも多い。さらに、風や湿度はその場でいじれるのか、それともダクトや空調を直さないと無理なのか、その線引きも分かりにくい。

最初にやることが一つあります。枯れが「どこまで」及んでいるかを見ること。外葉や古い葉にまで症状が出ているなら、それは配りより前に、量そのものが足りていないサインです。その場合は先に液のCaを当たる。芯側だけ、内側の若い葉だけに出ているなら、配りの問題として次の順序に進む――このとき液Caの実測は、配り側の確認としては最後で構いません。底割れだけは先に外す、というワンクッションです。
そのうえで、配り側の順番はこうです。まず「どこに出ているか」を読む。芯側か外葉側か。芯側に出ていれば、それだけで「水の届きにくさ」の話だと当たりがつきます。次に、棚のどの位置か。気流の弱い隅や奥に偏っていないか。ここが一致すれば、Caの量ではなく流れの問題だと、ほぼ見えます。目安としては(1)発生の場所と棚の偏り、(2)成長を攻めすぎていないか(光・CO2・温度を上げていないか)、(3)気流と湿度、(4)根域・養液と吸われ方。液のCa濃度の実測は、底割れを外したあとでは、この順序の最後に近い。すぐ触れる数字だからつい先に行きがちですが、配りを疑う段ではそこは一番後で構いません。
線引きはこうです。今日その場で動かせるのは、送風の向きと強さ、明期の湿度のならし方、そして成長を少し緩めること。この三つは、設備をいじらず手で動かせます。湿度を上げるときは、葉物なら60〜70%が目安で、それ以上に上げると今度は蒸散が落ちすぎて逆効果になりやすい。上限も込みで動かします。一方、気流が棚全体で均一かどうか――ダクトの取り回し、ファンの位置、空調の能力そのものは、改修しないと変わりません。まず手で動かせる三つを試す。それでも特定の棚だけ残るなら、そこが設備側の宿題。この分け方が現実的です。
「気流が効く」点は、閉鎖型植物工場のレタスで気温制御と気流制御を比べた実験があります。水平方向の安定した気流を0.28 m/s以上で当てると、チップバーンの症状は確かに減った。一方、昼間の温度を切り替える処理は、どの温度でもチップバーン抑制には効かなかった(参考: 4)。少なくともこの実験では、昼間の温度を上げ下げするより、棚に沿って安定した気流を当てるほうがチップバーンには効いた、ということです。温度という因子そのものが効かないという話ではありません――この記事でも気温は発生の駆動因子として扱っています。効かなかったのは「昼間の温度の切り替え」という操作のほうで、それより水平の安定気流がよく効いた、という一例として読んでください。さらに同じ実験では、安定した気流を当てたとき、株全体のCa量が増え、内側の葉と外側の葉のCa濃度の差が縮まった(参考: 4)。効くのは、風を闇雲に強めることではありません。棚に沿って水平に、安定して、むらなく流すこと。
ここで一つ、章をまたぐ注意があります。前の章で「外葉の蒸散を煽る強い送風を弱める」と書きました。弱めるのは、外葉の縁を乾かすだけの乱れた強い送風のほう。芯まで水を配るための水平の安定気流は、弱めずむしろ常時むらなく当てる。同じ「風」でも、暴れた強風と均一な安定気流は別物で、向きが逆に見えても矛盾しません。乱れた強い送風は外葉の縁を乾かすだけで、外葉の蒸散ピークを抑えるのとも、芯に水を通すのとも別の操作です。
流れの問題か絶対量の不足かを見分ける
根域や養液は、これまでの流れでいうと最後に見る部分です。けれど、流れの問題を片付けてもなお症状が残ることがある。すると今度は、根のほうで芯に水が回らない原因を疑いたくなります。根が傷んで、水を吸う力が落ちている――そういうことです。それに、「液を濃くするだけでは効きにくい」と納得しつつも、Caを上げること自体がまったく無駄かというと、そうとも限らない。そもそも液のCaが薄すぎて足りていない場面も、現場では起こります。流れが問題なのか、量が問題なのか。どちらを、どう見分けるか。

根の側でまず考えられるのは、根が傷んで吸水力そのものが落ちているパターンです。溶存酸素が足りない、養液温度が高い、根域が酸欠ぎみ。そうなると根の元気が落ち、水を引く力が弱る。芯はもともと水が細いところなので、根が弱るとまっ先に乾くのではないか、と見ています。根域の温度が高すぎ・低すぎで根がうまく水に触れていないときも、同じ筋だと考えています。この根の側の要因――溶存酸素、養液温度、根域温度――は、エアレーションや液の冷やし方で手が届く部分と、設備の容量しだいの部分の両方にまたがります。だから、ひとつ前の「手で動かせるか、改修が要るか」の線引きに当てはめると整理しやすい。
ここでもう一つ、配りでも量でもない、第三の軸があります。吸われ方です。液のCaが基準どおりあって、底も割っていない。それでも芯に来ないとき、次に疑うのは「吸われ方」――同じ濃度でも、根がCaを取り込みやすい条件かどうか。養液のpHが大きく外れていないか。窒素を硝酸態で効かせると植物体内が弱アルカリ寄りになってCaの吸収を助けますが、アンモニア態の窒素が効きすぎると逆に体内が酸性に傾いてCa吸収を妨げる。そのバランスが崩れていないか。カリウムやマグネシウムが過剰だと、同じ経路でCaと取り合います。K/Mgを盛りすぎていないか。これらは人工光型の葉物で養液を組むときに実際に効いてくる調整どころです。だから「液側に打てる手はない」わけではありません。バルクの濃度を上げるだけでは芯に届きにくいというだけで、pH・窒素形態・イオン競合という吸われ方を整えれば、液の側からでも芯に効かせる経路はある。配り(気流・蒸散)と量(底割れ)に、この吸われ方を足した三つで養液まわりを見ます。
見分けの軸は、Caが体の中をほとんど動けない元素だ、というところに置きます。流れの問題なら、足りないのは芯側だけ。外葉や古い葉はピンピンしています。逆に外葉も含めて全体が弱る、古い葉にまで症状が及ぶ――これは絶対量が足りていないサインです。あわせて液のCaを測り、明らかに基準を下回っていれば量の問題、基準どおりなら流れか吸われ方の問題。ほぼ切り分けられます。この見分け方は論文がそう整理してくれているわけではなく、Caが動けないという性質から自分で立てている当たりのつけ方です。だからCaを上げるのは、底を割って枯渇しているときには意味がある。そこは遠慮せず上げてよい。ただし足りているのに上げ続けても、よく流れる外葉に偏るだけで、芯は変わりません。枯渇を埋める一段と、足りた先で配り・吸われ方を直す一段は、分けて考える。
その土台にあるのが、「Caは体の中をほとんど動けない」という性質です。Caはペクチンのカルボキシ基と架橋して細胞壁の強度を支えており、この役目はMgでは代われません。そしてCa(やB)を培地から抜くと、シロイヌナズナでは根の伸びが1時間以内に止まり、活性酸素の蓄積と細胞死が起きる。トマトでも、Caを抜くと根の伸びが直ちに止まる。KやMgを抜いても、そういう即時の応答は見られない(参考: 5)。一度足りなくなったところに、後からは回ってこない。だからこそ「芯側だけなら配り、全体・古い葉まで及ぶなら絶対量」という見分けが効くわけです。根の側も同じ筋だと見ています。トマトなど他作物の養液栽培では、根からの養分の取り込み速度は基本的に水の吸い込み速度(蒸散)に支配されており、光・気温・湿度・風速といった環境要因は蒸散を通して間接的に吸収を動かす(参考: 6, 7)。レタスでそのまま定量されたわけではありませんが、根域が高温だったり酸素が足りなかったりすると吸収が落ちる、という方向は同じはず。根が弱ると芯が乾く、という見立てと地続きです。
品種交換や一因子の最適化だけでは閉じない
最後に、現場でよく出てくる二つの話に触れておきます。
ひとつは品種です。チップバーンに悩むと「強い品種に替える」という手が頭をよぎる。本当に効くのか、これまでの話とどうつながるのか。もうひとつは、一因子だけを動かしたときのこと。「湿度だけ下げる」「風だけ強める」とチップバーンは減ったのに、別のところで何か出た――そんな経験です。一個動かすと別が動く、という連動の裏側です。
品種に耐性差は、確かにあります。芯の若い葉が密に立つタイプより、開いてゆとりのある葉姿のほうが内側まで水が回りやすい。成長の暴れにくい品種は、配りの破綻も遅い。ただこれは、これまで見てきた連動系――成長速度・気流・蒸散・分配――をまとめて少し緩める一手であって、配りの問題そのものが消えるわけではありません。素地を底上げするだけ。強い品種でも、攻めすぎれば普通に出ます。だから品種で話を閉じない。
一個だけいじったときの裏側も、確かにあります。湿度だけ下げると、株全体の蒸散が増え、かえって水が外葉に引っ張られる。芯がさらに干上がり、チリチリが悪化することがある。風だけ強めると、今度は外葉の縁が乾燥ストレスで傷んだり、当たり方のムラで株ごとのばらつきが出たりする。成長を緩めれば一番安全ですが、当然そのぶん収量が落ちる。一因子を最適化すると、しわ寄せが別の因子に回る。だから単独でいじらず、連動としてまとめて見る。それが一番こじれにくい。

棚ごとの差は、実際に動かしてみると効きが大きいところです。ファンの向きやダクトの取り回しを見直して気流のむらをならすと、芯への配りが変わる――さきほどの「水平方向の安定した気流が芯に効く」(参考: 4)という知見と、地続きの話です。
品種の耐性差には、遺伝的な裏付けもあります。レタスのチップバーン耐性には効果の大きな遺伝子座(QTL)が関わっていて、なかでもある領域は、フィールドでのチップバーン発生率のばらつきの最大7割を説明する(参考: 8)。しかもその領域の中には、カルシウムの輸送体の候補遺伝子まで見つかっています。「Caをどう運ぶか」の素地が品種ごとに違う、というのは確かにあるわけです。ただ同じ研究でも、感受性の親由来の遺伝子が一部の領域ではむしろ有益に働くなど、単純なCa供給モデルでは説明しきれない結果も出ています。これは、品種が素地を底上げする一手ではあっても、それで配りの問題が消えるわけではない、という見方と整合します。
品種を替えても、一因子だけを動かしても、チップバーンの根にある「配り」の問題は、形を変えて残り続けます。だからこそ、光・成長速度・気流・蒸散・根域・養液という連動系を、ひとつのつながりとして見ていく。それが、この厄介な症状と長くつき合っていくうえでの、いちばん確かな構えなのだと思います。
それでも出てしまった株をどうするか
予防を尽くしても、出るものは出ます。最後に、出てしまった株を出荷の局面でどう扱うか。長年、人工光型の植物工場でレタスと向き合ってきた立場から、一点だけ。
チップバーンが出ても、食味そのものへの影響は限定的です。ただ、見た目は明らかに劣る。野菜は見た目で選ばれる以上、出荷品質への影響は無視できません。だから症状の軽い株を出荷から外すか、症状の部分を取り除いてから出す、という判断を迫られる場面は多い。
ここで一つ気をつけたいのが、微小なチップバーンまで必死に取り除こうとすることです。葉を無闇に千切ると、傷口から腐敗が進むことがある。総合で見ると、過剰な除去のほうがマイナスになる場合がある。出たもの全部を取りにいくのではなく、出荷品質に響くレベルかどうかを見極めて手を入れる。予防に振り切るだけでなく、出たあとの線引きまで含めて、ようやく現場の判断になります。
チップバーンの背景には、ここまで見てきた光・成長速度・気流・蒸散・根域・養液の連動があり、それを収益までつなげて考える材料を一冊にまとめています。