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養液栽培システムをわかりやすく解説:NFT/DFT比較ガイド


こんにちは、今村です
近年、植物工場や施設栽培が増えています。
それらの施設で使われているシステムには種類がいくつかありまして、この記事でわかりやすく解説します。
特に養液栽培の中でも利用頻度の高い
- NFT(薄膜水耕)
- DFT(湛液式水耕)
という2つの循環式システムに焦点を当てて、
特徴やメリット・デメリットを比較します。
日々の管理ポイントから異常時の対処法まで、実践的な知識をまとめました。
これから養液栽培を始める方も、すでに実践している方も、ぜひ参考にしてください。


養液栽培とは、土を使わない手法


養液栽培(水耕栽培)は、土を使わない栽培手法です。
土を使わなくても作物は育つのか?
問題ありません。
作物は、栄養分を土から吸収する代わりに、水に溶かした肥料から吸収します。
土からだろうが水からだろうが、植物は自らに必要な栄養分を吸収します。
その原理を利用しているのが「養液栽培」です。
ちなみに水耕栽培とも、ほとんど同じ意味です。
養液栽培のメリット
養液栽培は、植物工場を含めた施設栽培で使われることが多いです。
なぜか?
その理由は相性がピッタリだから。
詳しく見ていきます。
- 生育環境の精密制御
- 養液栽培では、肥料成分の種類や濃度、pH、水温などを正確に制御できるため、作物に合わせた最適な環境にできる。
精密に制御できると、生育サイクルの短縮や収量増加も可能に。
- 養液栽培では、肥料成分の種類や濃度、pH、水温などを正確に制御できるため、作物に合わせた最適な環境にできる。
- 作業効率と労働負担の軽減
- 土壌管理(耕起、施肥、土壌改良など)が不要なため、労働時間が大幅に減る。
特に定植や収穫作業は、システムの設計次第で人間工学的に優れた姿勢で行えるため、腰痛など身体的にも楽。
- 土壌管理(耕起、施肥、土壌改良など)が不要なため、労働時間が大幅に減る。
- 病害虫リスクの低減
- 病原菌や害虫が少ない。そのため、殺菌剤や農薬を使わなくて済む。
- 栽培場所の自由度
- 都市部のビル内、屋上、不毛地など従来では栽培が困難だった場所でも生産可能。
また、多段化すれば省スペースでも生産性が高まる。
ただし、設備費はかかる…。
- 都市部のビル内、屋上、不毛地など従来では栽培が困難だった場所でも生産可能。
主な養液栽培システム:NFTとDFTの比較


実は養液栽培には色々な方式があります。
固形培地耕(ロックウール耕など)、ドリップ式、エアロポニックス(噴霧耕)、水耕などなど。
この記事では、水耕の中でも養液を循環させる方式である「NFT」と「DFT」という2つの代表的なシステムを比較していきます。
当サイトのメインテーマである「植物工場」では、この循環式が圧倒的に多いです。
NFTとDFTの基本比較
まずは両システムの主な違いを表で確認しましょう:
比較項目 | NFT(薄膜水耕) | DFT(湛液式水耕) |
---|---|---|
水深 | 3〜5mm程度の薄い水膜 | 5〜15cm程度の深い水層 |
基本構造 | 勾配のある樋状チャンネル | 平らな水槽状構造 |
根の状態 | 下部のみ水に触れ、上部は空気中 | ほとんどが水中に浸かる |
酸素供給能力 | 非常に高い(空気接触が多い) | 中程度(水中溶存酸素に依存) |
停電リスク | 高い(数時間で植物にダメージ) | 低い(1日程度は緩衝あり) |
温度安定性 | 低い(少量の水で変動大) | 高い(多量の水で変動小) |
配管詰まりリスク | 高い(水路が狭い) | 低い(水路が広い) |
初期設置難易度 | やや高い(勾配調整が必要) | 低い(水平設置可能) |
適した運用環境 | 常時管理可能な環境 | 週末農家や管理頻度の低い環境 |
メンテナンス頻度 | 高い | 中程度 |
つまり、
NFTは植物の生育が最適化されますが管理が必要、DFTは安定性と手間の少なさが魅力。
という感じ。
常時管理できて最高の結果を求めるならNFT、安定性重視なら管理の少ないDFTがおすすめです。
その他に知っておきたい比較ポイント
- 酸素供給と根の環境
-
- NFTでは根の大部分が空気に露出するため酸素供給量が豊富。これにより白く健全な根が横方向に発達しやすく、根毛も豊富になる。
- DFTでは根はほとんどが水中にあるため、溶存酸素に依存する。根は水流に沿って縦方向に伸長する。
- 停電・機器故障リスク
-
両システムの最大の違いは停電やポンプ故障時の対応力です。
- NFTは水量が少ないため、電力停止やポンプ故障時に数時間以内に植物がダメージを受ける。特に夏季は危険度が高く、バックアップ電源は必須。
- DFTは大量の水があるため、数時間〜1日程度の停電なら植物へのダメージは最小限。トラブルは少ないけど必要水量は多い。
- 温度安定性
-
- NFTは水量が少ないため外気温の影響を直接受け、温度変動が大きくなる。夏の水温上昇や冬の冷却に注意。
- DFTは水量が多いため熱容量が大きく、温度変化が緩やか。極端な気象条件でなければ、追加の温度管理設備なしでも運用可能なケースが多い。
- メンテナンス性
-
- NFTは水路が狭いため根や藻による詰まりが発生しやすく、定期的な配管清掃と点検が必須。
- DFTは水路が広いため多少の根の成長があっても水流は確保できるが、藻が比較的発生しやすい。
水耕システムの日常管理とトラブルシューティング


水耕システムを安定的に運用するには、日々の管理とトラブル発生時の適切な対応が欠かせません。
いくつかポイントを挙げます。




日々、どんなチェックをするか
現場の管理担当者は、毎日こんな作業を行っています。
これらのチェックが日課として組み込まれているんですよね。
- 水量と水位の確認
- 水温のモニタリング
- 根の状態観察
- システム稼働状況の確認
このページには基礎的なことしか書いていませんが、
もっとハイレベルな管理ノウハウをお求めであれば、以下のコンテンツもどうぞ。
現場の収益性に直接つながるノウハウをかなり書いてます。
少し値は張りますが、コスパは高いと思います。
システム別の問題と対処法
NFTとDFT、設備を長く使っているとトラブルも発生するもの。
それぞれのシステムで発生しやすい問題と対処法を比較表にまとめました。
問題の種類 | NFT | DFT |
---|---|---|
水流トラブル | 問題: 末端の株の萎れ、水流の不均一、成長のばらつき 対策: 配管洗浄、フィルター清掃、勾配の再調整、ポンプ能力の見直し | 問題: 一部エリアの生育不良、水の淀み 対策: 循環ポンプの増強、水流方向の調整、追加エアレーション設置 |
水温問題 | 問題: 急激な温度上昇(特に夏季)、日中の植物萎れ 対策: 栽培ベッドの断熱材で覆う、循環水量増加、配管の遮光 | 問題: 緩やかな温度変化、長期的な生育不良 対策: 水槽全体の断熱、水中ヒーターの設置、大量水の冷却システム導入 |
停電リスク | 問題: 数時間で植物に壊滅的被害 対策: バックアップ電源の設置が必須、手動散水の準備、警報システム | 問題: 12〜24時間は持ちこたえるが長時間停電でダメージ 対策: 長時間停電時のみ手動エアレーション実施、水温管理 |
詰まり・淀み | 問題: 樋部分の詰まり、根詰まり、水流の滞留 対策: 定期的なフラッシング、根の過剰伸長の防止、清掃しやすい設計 | 問題: 根域の淀み、溶存酸素の局所的不足 対策: 水流の向き調整、エアレーション位置の最適化、定期的な水撹拌 |
メンテナンス頻度 | 問題: 頻繁なメンテナンスが必要、作業負担大 対策: 週1〜2回の点検、計画的な清掃スケジュール作成 | 問題: 藻の発生、長期間の養分不均衡 対策: 2〜4週間に1回の点検でOK、長期的な水質管理計画立案 |
季節対応 | 問題: 季節変動の影響を大きく受ける 対策: 夏冬の集中管理期間設定、環境制御装置の強化 | 問題: 極端な気象条件時のみ問題発生 対策: 通常は安定、極端な気象条件時のみ特別対応 |
こんな場合は注意!根の異常の見分け方


水耕栽培では根の状態が生育を左右します。
チェックするべきポイントは以下のような感じ。
異常が見られたら、すぐに対策を取りましょう。
- 根の褐変(茶色〜黒色)
- 原因: 酸素不足
- 対策: エアレーション強化
- ヌメリや粘液質の付着
- 原因: 細菌感染、水質悪化
- 対策: 養液の全交換、システム消毒、健全部分のみ残して移植
- 根の伸長停止・根毛が少ない
- 原因: 水温不適、栄養バランス不良
- 対策: 水温調整(18〜23℃に)、EC・pH値の見直し
- 根が赤茶色になる
- 原因: リン欠乏、残留塩素の影響
- 対策: リン含有肥料の追加、アンモニア肥料を使わない
- 根の一部が溶けるような症状
- 原因: ピシウム属菌などの病原菌感染
- 対策: 養液殺菌(UV、オゾン等)、養液更新
これらの症状は早期発見が命。
定期的な確認を習慣化し、異常を見つけたらすぐに対処することが大切です。
まとめ:養液栽培の成功ポイント
養液栽培は土を使わない効率的な栽培方法です。
特に循環式の水耕栽培システムであるNFTとDFTは、
それぞれ特徴が異なるため、自分の環境や目的に合わせて選びましょう。
どちらを選ぶにしても、定期的な日常管理が安定した栽培の命ですよー。
NFT、こんな感じ | DFT、こんな感じ |
---|---|
✓ 毎日管理できる | ✓管理工数が少なくても大丈夫 |
✓ 最高の生育速度と収量を求める | ✓ 安定性と手間の少なさを重視 |
✓ 技術的な知識に自信がある | ✓ 初心者でも始めやすいシステムがいい |
養液栽培はチャレンジすることで、どんどん上達していくものです。
この記事が皆さんの水耕栽培ライフの一助となれば幸いです。
より専門的な知識や効率的な運用方法については、当サイトの「植物工場の収益性を高める172のヒント」もぜひご参考にしてください。皆さんの栽培がますます充実したものになりますように!


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