働き方・業界

完全閉鎖型植物工場は儲かるか、条件で答えが変わる

LED下に整列した定植直後のレタス。完全閉鎖型が儲かるかは条件で答えが変わることを象徴する

完全閉鎖型は儲からない、という話をどこかで聞いたことがあるかもしれません。逆に、これからは閉鎖型だ、という威勢のいい話も。どちらも、それ単体では当てになりません。判断を分けているのは方式そのものではなく、その方式が置かれる条件——電力単価、立地、売り先の販価、そして操業を回す人の力——のほうだからです。条件が変われば、同じ方式でも答えは平気で裏返ります。だから「結局どちらが儲かるのか」に、万人共通の正解はありません。あるのは、自分の数字を入れたときにだけ見えてくる、自社だけの答えです。

方式の優劣は思想ではなく条件で入れ替わる

完全閉鎖型の植物工場と、太陽光を使うタイプ。結局どちらが儲かるのか。この方式選びで、いま足が止まっている人は多いはずです。完全閉鎖型は光をすべて人工照明でまかなう人工光型、太陽光を使うタイプは太陽光を採り込む併用型・太陽光型を指します。やっかいなのは、「閉鎖型のほうが新しくて優れている」「太陽光型のほうが自然でコストも低いはず」と、わりと思想的な好みで決めてしまいがちなことです。

完全閉鎖型は電気でぜんぶ光をまかなう分、どうしても電気代が重くのしかかります。でも同じ閉鎖型でも、電力が安い地域だと急に話が変わる。逆に太陽光型は初期費用こそ軽いけれど、天候や季節で収量がブレて、その不安定さが結局は値段に乗ってくる。つまり「どちらが優れているか」は固定で決まるものではなく、電気代や売る場所、それを回す人しだいで、どちらが有利かは簡単に逆転するのです。

だから、「閉鎖型か太陽光型か」をタイプの優劣で語る議論には、どこか違和感が残ります。ここでは両者を別の生き物としてではなく、電力単価・立地・販価・作物という同じ軸の上を動く、連続したスライダーだと捉えてみます。どの目盛りで採算が逆転するのか。問われているのは、そういう話です。

電力単価と立地は、まず参入できるかの足切り

最初に置く目盛りは電力単価です。ただし、ここで言い方を一つ正しておきたい。完全閉鎖型の採算が「電力単価でほぼ決まる」と語られることがありますが、私が現場を回ってきた感覚では、それは少し言いすぎです。電力は、操業後の利益をぜんぶ決める変数ではない。むしろ「その場所で完全閉鎖型に参入していいか」の足切り条件として効きます。

LED照明下のレタス栽培エリア。電力の安い土地と高く売れる場所が重ならないことを表す

電気代が原価のなかで重いのは確かです。海外の垂直農場を調べた報告では、電力が生産コストの2〜4割を占め、しかもその電力のうち6〜8割超が人工照明に消える(参考: 1)。光を電気で全部まかなう分のコストが、そのまま重しになる。だから、電気の安い地域に置けるなら、それだけで土俵に乗りやすくなる。逆に、都市部の高い電力で回せば、いくら歩留まりが良くても利益は薄い。電気代が安いか高いかが、参入の入り口で大きく効くのは間違いありません。

ただ、ここに国内の実態を一枚重ねると、見え方が変わります。日本施設園芸協会の令和7年度実態調査によると、人工光型のコスト構造で最も比率が大きいのは電気ではなく人件費で、約32〜36%電気コストは24%で、令和3年度の19%から上がってきてはいますが、原価の半分を占めるわけではありません(参考: 10)。海外の「2〜4割」も、この国内の「24%」も、電気が重い費目だという点では一致しています。けれど「電力単価で採算がほぼ決まる」とまでは言えない。国内で最大の費目は、人なのです。

だから電力単価は、操業後の損益をすべて握る支配変数ではなく、「その立地で閉鎖型に踏み込めるか」を判定する最初のふるい、と捉えるのが現場に合います。次の目盛り、立地も同じ性格です。

電力の安い土地と、高く売れる場所は重ならない

電力と立地は別々に動きます。私が見てきた範囲では、電気が安い土地はたいてい地方の工業団地や、消費地から離れたエリアにあることが多い。逆に高単価で売れる都市近郊は、電力も土地も高くつきます。この二つが気持ちよく両立する場所は、そう多くありません。

定植パネルに苗をセットする作業者。操業後の損益を人と栽培技術が分けることを表す

完全閉鎖型は無農薬や衛生面を売りにして高く売る前提になりますが、その高く売れる場所は限られています。逆に太陽光型は、量を安く出せる。だから電力が安いだけでは足りません。その地域に高く買ってくれる売り先まで揃わなければ、閉鎖型の参入は土俵に乗りません。電力単価と立地は、ここまでがワンセット。「参入していい場所か」を決める足切りです。

操業後の損益を分けるのは、人と販路と栽培技術

ここからが本題です。参入の足切りを越えたあと、実際の黒字と赤字を分けているのは、電力ではありません。人の定着、栽培技術、そして売り先です。

値札の付いたレタス1玉。販価がわずかに下がるだけで採算に必要な規模が数十倍に膨らむことを示す

国内の数字がそれを裏づけています。令和7年度実態調査では、人工光型で直近の決算が黒字・収支均衡だった事業者は約5割。一方、太陽光型・併用型はいずれも7割以上が黒字か収支均衡でした(参考: 10)。人工光型のほうが経営の難易度は高い。けれど、その5割の中で黒字に立っている工場と、赤字に沈んでいる工場の差は、電力単価の差ではないのです。同じ電力環境でも、片方は回り、片方は回らない。

私の経験では、その差を生むのは、まず人です。植物工場は、AIや自動化が喧伝されるわりに、いまだ多くの工程が人の手に依存しています。栽培管理も、収穫も、出荷も、結局は現場の人が回している。その人が定着せず、栽培技術が積み上がらない工場は、設備がどれだけ新しくても歩留まりが上がらない。「植物工場の生産性は、最先端システムより人が決める」というのは、現場で何度も見てきたことです。

次に販路です。異業種から参入した工場ほど「作ったものを売る」発想になりがちですが、それでは値崩れに巻き込まれます。「売れるものを作る」——誰に、どの単価で、どれだけ買ってもらうかを先に決めて、そこから品目と栽培設計を逆算する。これができている工場は、同じ販価下落局面でも踏みとどまります。

そして規模です。完全閉鎖型は、ある程度の規模がなければ黒字化が難しい構造を持っています。人件費という最大費目を一単位あたりで薄め、栽培技術を積む人を抱えられるだけの売上を立てる。そのためには規模がいる。人工光型の平均年間売上が1.6億円という実態調査の数字も、この「規模がないと回らない」構造を映しています(参考: 10)。

電力と立地で「入れるか」を判定し、人・販路・栽培技術で「入ったあと回るか」が決まる。この二段で見ると、方式論で止まっていた足が動き出します。

販価と作物の組み合わせで採算ラインは動く

操業後に効く変数のなかでも、販価の感度はとにかく高い。売値が二〜三割下がるだけで、損益分岐に必要な規模が何十倍にも膨らむことがあります。

これを試算で極端に示した研究があります。完全閉鎖型でレタスを作る場合、商業的に採算が取れる最小規模はだいたい17〜38平方メートルと、意外なほど小さい。ところが売値が2割下がるだけで、その損益分岐の規模が一気に1,700平方メートルへ跳ね上がる(参考: 2)。販価がいかに効くかを示す数字です。

ただし、この試算は単一モデルの結果であり、前提を読者に渡しておく必要があります。この試算は、最先端水準のレタス収量(日本の現場平均を上回る高さ)と高めの契約単価を置き、運営コストには規模の経済を仮定していません。だから「17平方メートルで商業採算」という数字を、そのまま自分の工場に当てはめるのは危険です。現実には、先ほどの人工光型の平均売上が1.6億円という規模感のほうが、操業の実像に近い。試算は「販価がどれだけ効くか」を示す感度のたとえとして読み、規模の絶対値は自分の前提で引き直すのが安全です。

ここで効いてくるのが「何を作るか」です。葉物のような高付加価値で日持ちしない小ロット作物なら、閉鎖型が成り立つ採算ラインは小さくて済みます。輸送に弱い分、消費地の近くで高く売る前提と相性がいい。逆に、量で勝負する作物や主食穀物では、いまの閉鎖型ではまず合いません。閉鎖型の商業利用が葉物・ハーブ・ベリーあたりに偏っているのも、この採算構造から来ています(参考: 3, 4)。

なお、電力を最初の目盛りに置くのには理由があります。完全人工光型は慣行農業に比べてどうしてもエネルギー消費が大きく、いまの電力価格のままでは経済的な競争力が制約される。ただし新興のエネルギー技術によって消費を抑えれば、その制約は条件付きで緩められる(参考: 5)。たとえば、ある総説が引く Barbosa et al. 2015 によれば、水耕でレタスを作ると慣行比で収量は11倍、水の使用量は13分の1で済む一方、エネルギー消費は82倍に膨らむという(参考: 6)。ただしこれは露地慣行との対比であり、温室型水耕の数値で、完全閉鎖型のLED人工光型そのものの比較ではありません。それでも、エネルギーをどこから・いくらで引くかが採算の入り口を分ける、という向きは変わりません。

四つの実数と人の力で方式の有利不利を仮判定する

思想や雰囲気ではなく、手元の数字でどちらが有利かを仮判定する。そのために紙に書き出すのは、まず四つです。電力単価・立地・販価・作物を、紙の左から右へ一行で並べ、それぞれに自分の実際の数値を埋めていきます。

順番が大事です。最初は電力単価。1キロワット時あたりいくらで引けるか、その数字一つで、閉鎖型がそもそも土俵に乗るかが決まります。次に立地を、電力の安さと消費地までの輸送距離の二項目に割って書く。ここまでが「参入していい場所か」の足切りです。ここで初めて販価を、希望ではなく「その売り先が実際に約束してくれる単価」で入れます。最後に作物を、単価が高く日持ちしない小ロットか、量で勝負かに仕分ける。

書けたら、感度を一度だけ見ます。販価を二割下げた数字を隣に書いて、損益分岐の規模がどれだけ膨らむかを確かめる。現実的な規模に収まらなければ、その条件では閉鎖型は選ばない。そう線を引きます。

ただし、四つの実数だけでは仮判定は閉じません。足切りを越えた先には、紙の数字に乗りにくい三つ——人が定着するか、栽培技術を積めるか、売り先を複数持てるか——があります。ここは数値化しにくいぶん、つい後回しにされますが、操業後の黒字赤字を実際に分けるのはこちら側です。四つの実数で「入れる場所か」を絞り、この三つで「入ったあと回せるか」を自問する。仮判定はこの二段で一通り完成します。

撤退や赤字を方式そのもののせいにしない

では、他社の失敗は、この枠組みでどう読めるか。海外の閉鎖型スタートアップが次々撤退した、というニュースを最近よく見かけます。それを聞くと、やはり閉鎖型は危ないのではないか、と腰が引ける。けれど、その撤退が「閉鎖型という方式そのものが筋が悪い」せいなのか、それとも電力が高い場所に置いた、売り先がなかった、といった条件が噛み合わなかっただけなのかは、ニュースの見出しからは判別がつきません。

報じられている中身を見るかぎり、撤退は方式そのものへの判決ではなさそうです。電力単価の上昇、思ったほど高く売れなかった販売価格、過大な資金調達で一気に拠点を広げた資本政策——こうした要因が重なって倒れた、と読めるものが多い。方式単体のせいにはできません。むしろ、これらを詰めずに「閉鎖型は新しいから」という理由で立地や売り先を選んでしまった結果、と読むほうが筋が通ります。

国内も、楽観はできません。補助金がかなり入ったあとでさえ、半数前後が赤字という現実があります。大規模施設園芸・植物工場の事業者を調べた調査では約49%が赤字経営、別の論評では、累計500億円規模の補助金が投入されたあとの2017年時点でも75%が赤字だった、と報告されています(参考: 7, 8)。ただ、ここで気をつけたいのは、これらは「方式そのものが赤字の原因だ」とまでは言っていない点です。経営モデルや条件設計が財務に大きく効く、という方向で読むのが筋であって、数字だけを取り出して「閉鎖型=危険」と方式に善悪のラベルを貼るのは、出どころの調査が支えている範囲を超えてしまう。だから、数字は前提とセットで見ます。撤退した各社がどの目盛りを外したのか——電力か、販価か、人か——を一件ずつ見るほうが、判断にはずっと役立ちます。

条件が滑っても耐えられる設計から方式を選ぶ

方式が条件で決まる連続したスライダーだ、という見方は、腑に落ちます。ただ、一度建ててしまえば、方式そのものはそう簡単には動かせません。閉鎖型を建てたあとで電力契約が変わる。当てにしていた売り先が抜ける。人が定着せず、栽培技術が積み上がらない。条件のほうが、後から動くこともあります。スライダーで合理的に選んでも、決め打ちした瞬間に条件側が滑っていく。そんな引っかかりが残ります。

だから勧めたいのは、設計段階で「最も滑りにくい条件」を土台に方式を選ぶことです。電力単価なら、単年の安値ではなく、複数年で確保できる長期契約の水準を。販路も、一社依存ではなく複数の売り先を前提に置く。人も、定着する仕組みを先に用意する。動きやすい条件を当てにして方式を決めると、滑った瞬間に崩れます。

しかも、方式の選択は、規模・作物・販路という後工程の設計を縛ります。閉鎖型を選べば、販路は高単価・少量に寄り、作物も葉物などに絞られ、規模の拡大は都市近郊の土地制約とぶつかる。だからこそ、方式単体ではなく、その波及まで見て決めるのです。そして条件が滑ったとき、最後に効いてくるのは、規模の経済や自動化といった耐性側の設計です。

これにも根拠の一端があります。完全閉鎖型の建設コストには規模の経済性があって、規模が100倍になると単位あたりの建設コストはおよそ55%下がる、という推定があります(参考: 2)。ただしこれは建設コストの話で、運営コストには同じようには効かない、という限定付きです。さらに、経済設計をシミュレーションした研究では、システムの規模そのものが、デジタル制御かアナログかといった技術選択よりも収益性を左右する、と出ています(参考: 9)。規模が技術選択以上に効く、というところまでは、この研究が支えています。そこから先、「だから規模と自動化を耐性側の設計として持っておくと、条件が滑っても踏みとどまれる」というのは、私自身の現場での見立てです。方式という一点に賭けるよりも、滑ったときに残る余白を厚くしておく。そういう設計のほうが、長く回っている工場が多い、というのが正直な実感です。

結局のところ、完全閉鎖型か太陽光利用型かを思想で二択するのではありません。電力単価・立地という参入の足切りと、人・販路・栽培技術という操業後の損益を分けて見る。そのうえで自分の実際の数値を並べ、感度まで見て仮判定し、その先の規模・販路の設計まで見通す。その順番で考えれば、方式論で止まっていた足が、採算条件で選ぶ側へと動き出すはずです。

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参考文献

  1. Elias Kaiser, Paul Kusuma, Silvère Vialet‐Chabrand, Kevin M. Folta, Ying Liu, Hendrik Poorter, Nik Woning, Samikshya Shrestha, Aitor Ciarreta, Jordan van Brenk, Margarethe Karpe, Yongran Ji, Stephan David, Cristina Zepeda, Xin-Guang Zhu, Katharina Huntenburg, Julian C. Verdonk, Ernst J. Woltering, Paul P. G. Gauthier, Sarah Courbier, Gail Taylor, L.F.M. Marcelis(2024) Vertical farming goes dynamic: optimizing resource use efficiency, product quality, and energy costs. Frontiers in Science. https://doi.org/10.3389/fsci.2024.1411259
  2. Yunfei Zhuang, Na Lü, Shigeharu Shimamura, Atsushi Maruyama, Masao Kikuchi, Michiko Takagaki(2022) Economies of scale in constructing plant factories with artificial lighting and the economic viability of crop production. Frontiers in Plant Science. https://doi.org/10.3389/fpls.2022.992194
  3. Nicholas Cowan, Laura Ferrier, Bryan M. Spears, Julia Drewer, David Reay, Ute Skiba(2022) CEA Systems: the Means to Achieve Future Food Security and Environmental Sustainability?. Frontiers in Sustainable Food Systems. https://doi.org/10.3389/fsufs.2022.891256
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