植物工場のランニングコストは、電気代から先に削ると損をする

LED多段棚のレタス(電力が主費目)

月末、費目表を前にして「さて、どこから削ろうか」と考える。電気代、人件費、資材費——並んだ数字を眺めれば、たいてい一番大きい電気代に目が止まります。ただ、これらの費目は別々に動いているわけではありません。削る順番を間違えると、下げたはずのコストが別のところで膨らみます。

重い費目から削ると逆に増える

照明を半分間引けば、その月の電気代は確かに下がります。ところが、光が律速になっている通常運転域では、収量も一緒に落ちる。同じ出荷量を作るのに手間が増え、出荷1キログラムあたりの人件費は逆に上がります。電気代は下がったのに、1キログラムあたりの総コストでは得をしていない。費目ごとに別々に削ろうとしていること自体が、そもそもズレているのです。しかもこのズレは、規模が小さく、一つの費目の動きが全体に響きやすい現場ほど見えやすくなります。植物工場のコストは、電気・人件費・収量が一本の紐でつながっています。照明を間引けば、電気代という端を引いた力が、収量を経て人件費という反対の端に出てくる。費目ごとの表で別々に削ろうとすると、この紐が見えないまま、引いた力がどこに出るかを取りこぼします。

「電気が突出して重い」というのは、感覚だけの話ではありません。人工光型の植物工場をある試算でライフサイクル分析した研究では、照明と空調の電力が、温室効果ガスの排出や酸性化・富栄養化といった主要な負荷の半分以上を占め、資源や水の枯渇にいたってはそのほぼ全量(98%超)が電力由来だと報告されています(参考: 1)。これは環境負荷で見たときの構成比で、円ベースの費目構成とそのまま一致するわけではありませんが、エネルギーが照明と空調に集中していること自体ははっきりしています。だからこそ「一番重い電気をまず削ろう」と考えたくなる。けれどもその電気は、収量という分母と紐でつながっています。重い費目だからこそ、単独では削れないのです。

収量に紐づく費目を見分ける

だから、コスト削減は順番が逆になります。まず「ここを動かすと収量を経てどこへ跳ね返るか」——削った力が収量を通って別の費目に戻ってくること——を先に見込んでおいて、その跳ね返りが返ってこない費目から動かすのがよいのです。照明や栽培密度は収量に直結しますから、紐の本体側にあたり、ほぼ確実に跳ね返ります。一方で、空調の制御ロジック、搬送や梱包の段取り、待機電力や契約電力の取り方、清掃や記録の手順といったあたりは、収量に紐が付いていない分だけ単独で削れます。同じ「コスト削減」でも、紐の本体を引くか、紐の付いていない端を切るかで、意味がまるで違ってきます。この記事では、いちばん連動の強い電気・人件費・収量のまわりに絞って話します。資材や水、販売費にも同じ「紐」の考え方は当てはまりますが、まずは効きの大きいここからです。

削る順番を並べ替えるための費目スケジューリング表

ここで迷いやすいのが空調です。照明を間引いて発熱が減ると、その分だけ冷房の負荷も下がり、空調の電気代も連動して動きます。これは紐の本体側に半分くっついた中間の費目なのか、それとも単独で削れる端なのか。空調は、紐の途中で枝分かれしている費目だと考えるとよいでしょう。発熱を経由して照明にぶら下がっているので、照明を間引けば冷房負荷も連動して落ちます。ただし、その連動は収量を経由していません。ここが分け方の肝です。照明から発熱、冷房へと至る連動は物理で決まるものであり、収量には触れずに動きます。だから空調そのものは、跳ね返りが返ってこない端として数えてよいのです。照明を本体側として引いたとき、空調はマイナスの跳ね返り、つまり勝手に一緒に下がってくれるおまけのほうに付きます。人件費のように反対向きに膨らむ端とは、符号が逆になります。

実務では、空調の連動分は照明を動かしたときの差し引きに最初から織り込んでおきます。そのうえで、設定温度の幅、除湿の効かせ方、送風の段取りといった空調の制御ロジックは、照明や収量の紐から半分外れていますから、別の端として立てられます。ただしこちらは完全に独立というわけではありません。温度の幅を広げすぎたり除湿を絞りすぎたりすると、病害や葉の縁枯れを通じて収量に跳ね返る境界があります。私が見てきた範囲——人工光型で葉物を育てる現場——では、ここの下振れは温度の上振れより一段こわい。高密度に詰めた葉物は、湿度がこもればすぐ灰色かび病が出ますし、蒸散が足りなければ葉先が枯れる(チップバーン)。一度こうした症状が出てしまうと、出荷できる株が一気に減って、削ったはずの電気代では到底埋まりません。だから同じ空調でも「発熱連動でついてくる分」と「制御で動かせる分」を二つに割ったうえで、後者は収量を見ながら、温度の幅よりもさらに慎重に攻める、という扱いになります。

実際、さきほどの電力の重さを別の角度から見ても、この照明と空調の二つでエネルギーの大半が決まります。ある国内のライフサイクル分析(学会報告)では、完全人工光型の二酸化炭素排出のうち照明と空調で約9割、太陽光を併用するハイブリッド型でも約7割を占めると報告されています(参考: 2)。これは二酸化炭素で見た比率で費目の円構成とは別ものですが、空調が照明に発熱を通じてぶら下がっている、という物理のつながりの大きさは、現場の実感とも合います。

重い順ではなく跳ね返らない順

電気が突出して重いのは事実ですから、そこに目が行くのは自然なことです。ただ「重いから真っ先に削る」と入ると、たいていは本体側——照明や栽培密度——に手が伸びます。一番重い費目が、同時に一番跳ね返りの大きい紐の本体でもあるからです。ですから「重い順」ではなく「跳ね返りが返ってこない順」で並べ直すのが先で、空調の制御や搬送の段取り、契約電力の取り方あたりから入っていきます。重さの順位と、安全に削れる順位は別物だと割り切ったほうがよいのです。

袋詰めされ出荷を待つレタス――出荷1キロを総コストの分母に置く

線引きとしては、設定や手順の組み替えで済む範囲——温度の幅、送風や除湿のロジック、段取り、契約種別の見直し——は運用で動かせます。一方で、照明を間引かずに収量を保ったまま消費を下げる、人手の絶対量を減らす、といった跳ね返りの大きい削減は、運用では届かず設備の話になります。

ただし注意したいのは、自動化は人件費をゼロにする魔法ではないということです。減らした人件費は、その装置の減価償却と保守費という別の費目に振り替わるだけで、紐ごと消えるわけではありません。ですから設備投資は「人件費が消える」ではなく「跳ね返りの向きを、自分でコントロールしやすい費目に付け替える」投資として見るほうが、判断を誤りません。

照明そのものに手をつけずに電力を下げる、となると、これは設定変更では届かず設備側の話になります。たとえば、反射材と給排気の取り方を工夫した省エネ型の栽培棚で、棚内の環境分布を均一に保ったまま電力を従来比でおよそ半分に抑えられたとする、単一の試作棚での報告があります(参考: 3)。棚のなかの環境ムラが小さければ生育のばらつきも出にくい、という狙いの設備ですが、いずれにせよ棚そのものの作り替えですから、まさに運用ではなく設備投資の側の打ち手です。今日から設定で動かせる話とは、はっきり層が違うのです。

今月から動かせる三つの費目

いざ今日・今月から手をつけるなら、まず契約電力とデマンドの取り方を見直してください。直近の検針票か30分デマンドの記録を出して、ピークが立っている時間帯を一週間ぶん眺めます。照明の点灯開始と空調の立ち上げが重なってピークを押し上げているケースがあるので、点灯のオン時刻を機器ごとに数分から十数分ずらすだけで、収量に触れずにピークが下がる余地があります。これは設備投資ゼロで今日試せます。ただし契約電力の見直しは一度実施すれば効果が続きますが、毎月繰り返して節約を積み増せる打ち手ではありません。

二つ目は空調の設定温度の幅です。狭い温度帯にぴったり張りつけて空調を効かせ続けている設定は、よく見かけます。室温が外れることへの不安からそうなりがちですが、上限と下限を1℃ずつ広げて、その幅のなかで空調が自然に止まる時間を作るだけで、収量に触れずに稼働を減らせる余地が出てきます。除湿も連続運転をやめて、結露や湿度が気になる時間帯だけに絞る。ただし、ここはさきほどの病害・縁枯れのリスクと裏表ですから、温度の幅以上に慎重に。葉物を高密度に詰めている現場では、湿度を下げすぎても上げすぎても収量に効きますから、湿度のログを見ながら、まず幅をほんの少し動かして様子を見る、にとどめます。昼と夜で外気温が動く季節なら、送風だけで足りる時間帯がないかも合わせて見ます。いきなり大きく動かさず、まず一度ずつ、が安全です。

三つ目は待機電力と段取りです。地味ですが、止まっている時間にお金を払っている費目を拾う作業です。使っていない区画の補助機器、夜間に動いていない搬送・梱包ラインの待機を切る。栽培に直接関わらない通路灯や事務スペースの照明を、人感センサーやタイマーに替える。収穫や袋詰めの段取りを見直して、同じ作業をまとめ、機器の立ち上げと停止の回数そのものを減らす。どれも収量には跳ね返りにくい打ち手です。

ただし空調の設定は、攻めすぎれば収量に跳ね返ります。だから確かめ方が肝心です。触る前に必ず一週間ぶんの基準を取ってください。日々の総電力量、30分デマンドのピーク値、室温と湿度のログ、そして収量と歩留まりを記録します。動かすのは一度に一費目だけにして、電気の数字の差はピーク値と電力量で二週間ほど見ます。ただし収量への影響は、それより長く追う必要があります。設定を変えたあとに植えたロットが収穫されるまで——人工光型の葉物なら、レタスでひと月前後の生育サイクルを一巡するまで——見届けてから、落ちていないことを確認してください。電気の数字だけ見て早合点しないことです。複数を同時に動かすと、何が効いたか分からなくなります。順番は、跳ね返らないと確信できるものから一つずつです。

「収量に触れずに効かせる」という方向では、照明の物理的な配置——光源と株の距離や、灯具の並べ方の均一性——を整えると、同じ電力のままで光の当たりムラを小さくできる、という実験やシミュレーションもあります。灯具の配列を見直して、シミュレーション上で光の当たりムラを15%ほど均せた、という例です(参考: 4)。設定をいじるだけで済むものばかりではないので、ここは運用と設備のあいだに置かれる打ち手ですが、「電力を増やさずに効かせる」方向が実在することは、こうした研究からも見えてきます。

出荷1キロあたりで境目を測る

跳ね返らない端だと思って一つの費目を削りすぎると、かえって全体が悪くなることがあります。それぞれの費目は良くなっているのに、合計では前より悪い。境目を測るには、分母を「投入した電力量や人時」ではなく「実際に出荷できた1キログラムあたりの総コスト」にそろえるのが要点です。歩留まりが落ちると、その1キログラムを作るのに使った電気も人手も全部、出荷できた分だけで割り直すことになります。だから後工程の手間が増えた瞬間、電力量そのものは下がっていても1キログラムあたりでは上がります。個別費目では見えない逆転が、分母を収穫量にそろえると初めて見えてきます。

照明にも、同じ理屈で別の機会が眠っています。照明には飽和があって、ある光の強さまでは増やすほど収量が増えますが、その先は強くしても収量が頭打ちになり、電気だけを食います。閉鎖型でレタスやバジルを育てると、光の強さを一定の水準まで上げたところで収量は頭打ちになり、それ以上強くしても増えない、という報告があります(参考: 5)。投入電力あたりの収量(電力効率)がいちばん良くなる光の強さは作物によって違い、収量が頭打ちになる点とほぼ重なることもあれば、それより少し弱い光の側にずれることもあります。いずれにせよ、飽和点まで増やしても効率は上がらず収量も頭打ちになる、という頭の天井がある(参考: 5)。ここが運用側の打ち手として効いてくるところです。もし今の運転がこの飽和域に入っているなら、収量を一切落とさずに照明の出力を下げられる余地がある——調光は「設備の話」だけでなく、飽和した分の電気を返してもらう運用の打ち手にもなりうるのです。ただし、自分の現場が本当に飽和域にいるのかは、いきなり下げて確かめるものではありません。攻める方向は決まっていて、収量がまだ落ちていない範囲で出荷1キログラムあたりの総コストを下げていき、収量が崩れ始めた一歩手前で止める。一度に一費目、収量が落ちていないことを確認してから——という手順は、まさにこの適正域の縁を、後戻りできるうちに探るためのものです。電力量が下がったかではなく、1キログラムあたりが下がったか。それを判定の軸にしてください。

ここで一つ、現実的な天井も添えておきます。いま見たような調光やピークずらしで無駄を返してもらえても、運用で動かせる分は、コスト全体から見ればごく一部にとどまります。採算の桁を本当に決めるのは、規模・販路・作物の選び方という別の物差しの話で、それはこの記事の外側にあります。そもそも今の赤字が費目削減で治るのか、もっと上流のコスト構造そのものの問題なのかは、一度分けて考えたほうがよいでしょう。運用の打ち手は、その構造を変えるものではなく、構造の中で無駄を出さず、判断の余地を少し広げるためのものだと思っておくと、ちょうどいい距離感になります。設定値は戻せても、その間に落とした収量や崩した品質は戻りませんから、後戻りできるうちに、というのはそういう意味です。

最後に、線引きを一つ書いておきます。ここまでの話は「運用で動かせる範囲」——契約電力の取り方、空調の制御、段取り、待機電力、そして収量を崩さない範囲での調光やムラ取り——に絞った打ち手でした。これらは設備投資なしで今月から触れて、しかも後戻りできます。一方で、照明を入れ替えて収量を保ったまま消費を下げるとか、人手の絶対量を減らすといった跳ね返りの大きい削減は、運用の手前で止まる話ではなく、減価償却と保守費に振り替わる設備投資の判断になります。そこは単年の電気代でなく回収年数とセットで、別の物差しで考える領域です。だから結論は素朴です。ランニングコストは費目ごとに一番重いものから削る問題ではなく、出荷1キログラムあたりという同じ分母でつながった連動系で、跳ね返らない端から、後戻りできる範囲で一つずつ動かす——そういう見方に立て直すところから始まります。

その立て直しを、自分の費目表で一度きちんとやってみたい方は、採算と運用計画を費目ごとに書き出せるテンプレートを用意しています(こちら)。今日の検針票と収量のログを横に置いて、跳ね返る費目と跳ね返らない費目を仕分けるところから始めると、削る順番が見えてきます。

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参考文献

  1. Michael Martin, Till Weidner, Charlie Gullström(2022) Estimating the Potential of Building Integration and Regional Synergies to Improve the Environmental Performance of Urban Vertical Farming. Frontiers in Sustainable Food Systems. https://doi.org/10.3389/fsufs.2022.849304
  2. 椎名 武夫, 細川 大貴, 中村 宣貴, ロイ ポリトシュ, 折笠 貴寛, タンマウォン マナスィカン(2010) 植物工場生産野菜のライフサイクルインベントリー分析. 日本LCA学会研究発表会講演要旨集. https://doi.org/10.11539/ilcaj.2010.0.131.0
  3. 有波 裕貴, 赤林 伸一, 坂口 淳, 高野 康夫(2014) 完全人工光型植物工場を対象とした省エネ型植物栽培設備の開発研究 その1 省エネ型栽培設備内の気流及び濃度分布の解析と植物栽培実験結果及び電力消費量の比較. 空気調和・衛生工学会大会 学術講演論文集. https://doi.org/10.18948/shasetaikai.2014.3.0_173
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  1. Hwa-Soo Lee, Sook-Youn Kwon, Jae-Hyun Lim(2014) Improvement of light uniformity by lighting arrangement for standardized crop production. Journal of Central South University. https://doi.org/10.1007/s11771-014-2430-5
  2. Giuseppina Pennisi, Alessandro Pistillo, Francesco Orsini, Antonio Cellini, Francesco Spinelli, Silvana Nicola, J.A. Fernández, Andrea Crepaldi, Giorgio Gianquinto, L.F.M. Marcelis(2020) Optimal light intensity for sustainable water and energy use in indoor cultivation of lettuce and basil under red and blue LEDs. Scientia Horticulturae. https://doi.org/10.1016/j.scienta.2020.109508