こんにちは、今村です
物工場で高品質な野菜を安定生産するには、肥料 の知識は欠かせません。土を使わない水耕栽培では、養液を通して植物に必要な栄養を供給します。
本記事では、植物工場の管理者、特に初心者の方や転職を考えている方を対象に、肥料に関する基礎知識から、現場で役立つ実践的なテクニックまで、わかりやすく解説していきます。
水耕栽培に適した肥料の選び方
水耕栽培では、土耕栽培のように土壌の緩衝作用が期待できないため、肥料選びには注意が必要です。水耕栽培に適した肥料の特徴は以下の点が挙げられます。
- 速効性が高いこと: 土壌中の微生物による分解を必要とせず、植物がすぐに吸収できる無機肥料が適しています。
- 溶解性が高いこと: 水に溶けやすく、養液タンクや配管に沈殿物が残らないものが理想です。沈殿物は、養液の濃度を不安定にしたり、配管詰まりの原因となったりするため注意が必要です。
- 純度が高いこと: 不純物が少ない肥料を選び、生育障害のリスクを減らしましょう。
単肥と配合肥料、どちらを使う?
水耕栽培で使われる肥料には、大きく分けて 単肥 と 配合肥料 の2種類があります。
単肥は、硝酸カルシウムや硫酸マグネシウムなど、単一の肥料成分からなる肥料です。養液の状態に合わせて、各成分を自由に調整できる柔軟性がメリットです。しかし、多くの種類の肥料を管理する必要があるため、在庫管理や計量の手間がかかるという側面もあります。
配合肥料は、複数の肥料成分があらかじめ配合された肥料です。配合肥料は、計量の手間が省け、簡単に使用できる点が魅力です。ただし、特定の成分だけを調整することが難しいというデメリットもあります。
オススメは、主要な肥料成分は単肥で管理し、微量要素は配合肥料で補う という方法です。
<代表的な単肥と役割>
肥料名 | 主な供給成分 |
---|---|
硝酸カルシウム | Ca, N |
硝酸カリウム | K, N |
リン酸二水素アンモニウム | P, N |
リン酸二水素カリウム | P, K |
硫酸マグネシウム | Mg, S |
<微量要素の配合肥料を選ぶポイント>
- 鉄は沈殿しやすい性質があるため、キレート鉄配合のものを選ぶ
- 使用する養液のpH範囲に適していて、安定性の高いものを選ぶ
- 成分の表示が明確で、信頼できるメーカーのものを選ぶ
養液管理の基礎:分析と処方調整
水耕栽培で重要なのは、養液分析 に基づいた 処方調整 です。
養液分析でわかること
養液分析とは、栽培に使用している養液中の肥料成分濃度を測定することです。養液分析を行うことで、以下の情報を得ることができます。
- 各肥料成分の過不足
- 作物の肥料吸収量
- 処方の妥当性
処方調整の方法
養液分析の結果に基づいて、不足している成分は添加し、過剰な成分は減らすことで、常に植物にとって最適な養液状態を保つことが重要です。
<具体的な処方調整の手順>
- 前回の養液分析結果と比較する: 各成分の濃度変化を確認し、増減の必要性を判断します。
- 肥料の量を調整する: 10%程度の増減を目安に、各肥料の投入量を調整します。
- 全体バランスをチェックする: 調整後の処方で、目標とする成分バランスになっているか確認します。
ポイント: 厳密な数値にこだわりすぎず、大まかな調整で構いません。重要なのは、分析結果と植物の状態を見ながら、柔軟に 処方を調整していくことです。
現場で差がつく!肥料管理のテクニック
ここからは、さらに一歩踏み込んだ、現場で役立つ肥料管理のテクニックを紹介します。
濃縮原液はA液とB液に分けて管理
濃縮原液を作成する際は、溶解度の低い塩 が生成されないよう、注意が必要です。例えば、硝酸カルシウムとリン酸二水素カリウムを混ぜると、溶解度の低いリン酸カルシウムが沈殿してしまいます。
このような事態を防ぐために、濃縮原液は A液 と B液 の2種類に分けます。
- A液: リン酸を含む肥料を溶解
- B液: カルシウムを含む肥料を溶解
A液とB液を別々に保管し、使用直前に希釈・混合することで、沈殿の発生を防ぐことができます。
pH管理で鉄の沈殿を防ぐ
鉄は植物の生育に必須の微量要素ですが、溶解度が低く、沈殿しやすい 性質があります。特に、pHが6.5を超えると、鉄は水酸化物として沈殿しやすくなります。
鉄の沈殿を防ぐためには、以下の対策が有効です。
- pHを適切な範囲(5.5〜6.5)に保つ
- 鉄をキレート化 する: キレート剤と結合させることで、鉄を可溶化状態に保ちます。
- 養液タンクへの直射日光を避ける: 紫外線によってキレート剤が分解され、鉄が沈殿しやすくなるため、遮光ネットなどで対策しましょう。
微量要素の管理方法
微量要素は、植物の生育に必須ではあるものの、必要な量が非常に少ない元素です。鉄、マンガン、ホウ素、亜鉛、銅、モリブデンなどが代表的な微量要素です。
微量要素の供給方法としては、専用の微量要素混合肥料を使用する方法と、個々の要素を単肥で添加する方法の2つがあります。微量要素混合肥料は、必要な微量要素が適切な割合で配合されているため、手軽に使用できます。ただし、栽培条件によっては、特定の微量要素だけを調整したい場合もあります。そのような場合は、単肥を使って個々の要素を添加する方が適しています。
微量要素を単肥で添加する場合、必要量が非常に少ないため、計量には注意が必要です。微量であっても、過剰症や欠乏症を引き起こすリスクがあるからです。正確な計量と均一な混合が求められます。
使う肥料はどうやって計算する?
多量要素の濃度計算(me/L)
多量要素の濃度は、一般的にme/L(ミリグラム当量per リットル)で表されます。me/Lは、溶液1リットル中に含まれる物質の電気的な当量を表す単位です。
ここでは、レタス栽培で広く使われる山崎処方を例に、硝酸カルシウム(Ca(NO3)2・4H2O)の必要量を計算してみましょう。山崎処方(レタス)では、カルシウムの濃度は2me/Lに設定されています。
Ca(NO3)2・4H2Oの分子量 = 40.1 + 14.0 × 2 + 16.0 × 6 + 1.0 × 8 + 16.0 × 4 = 236.1
Caのグラム当量 = Caの原子量 ÷ Caの価数 = 40.1 ÷ 2 = 20.05
必要量(g/1,000L)= 目標濃度(me/L)× Caのグラム当量 × 硝酸カルシウムの分子量 ÷ Caのグラム当量
= 2(me/L)× 20.05 × 236.1 ÷ 20.05
= 236.1(g/1,000L)
したがって、山崎処方のレタス栽培で1,000リットルの養液を作るには、硝酸カルシウムが236.1g必要になります。同様の計算を、他の肥料成分についても行います。
普通はいちいち計算しない
と言っても、こんな計算を毎回やっていられません。普通は計算用のツールを使います。
施肥設計ツールは、自社で用意している所もあれば、ネットでダウンロードできるものもあります。
当サイトでも、超シンプルなツールを無料で配布していますので、以下のリンクからどうぞ。
最適な肥料濃度の決定方法
作物に最適な肥料濃度は、養液分析の結果から判断することができます。養液分析を行うことで、植物がどの程度肥料成分を吸収しているかがわかります。
吸収量が多い成分は濃度を上げ、吸収量が少ない成分は濃度を下げるように調整します。
ただし、品種や生育ステージによって、作物の肥料吸収量は変化します。そのため、養液分析を定期的に行い、肥料濃度を微調整していくことが大切です。画一的な濃度管理ではなく、作物の状態に合わせて柔軟に対応することが求められます。
トラブルシューティング
肥料成分の過不足による生育不良
植物の生育不良が見られた場合、肥料成分の過不足が原因の一つとして疑われます。多量要素(窒素、リン、カリウムなど)や微量要素の過不足は、植物の生育に大きな影響を与えます。
原因不明の生育不良が続く場合は、養液分析を行って肥料成分の濃度を確認することが重要です。
分析結果に基づいて、不足している成分を補ったり、過剰な成分を減らしたりすることで、生育不良の改善が期待できます。
また、養液を更新することで問題をリセットすることができます。それが養液栽培の強みです。
沈殿の発生原因と対策
養液タンクや栽培ベッドに茶褐色の沈殿物が溜まっているのを見かけることがあります。これは、主に鉄の沈殿物である可能性が高いです。
鉄は酸化されやすく、pHが高くなると不溶性の水酸化鉄として沈殿します。また、キレート剤と呼ばれる有機物が分解されても、鉄が沈殿することがあります。
鉄の沈殿を防ぐためには、適正なpH管理が重要です。また、キレート剤の分解を防ぐため、養液タンクに直射日光が当たらないように遮光することも効果的です。
計量ミスの防止策
肥料の計量ミスは、作物の生育に大きな影響を与えかねません。多量要素や微量要素の計量ミスは、欠乏症や過剰症を引き起こす恐れがあります。
計量ミスを防ぐためには、正確な計量器を使用し、慎重に計量作業を行うことが大切です。
また、計量した肥料は必ず水に溶かす前に、種類と量を再確認することを徹底します。肥料を溶かしてしまうと、目視での判別が難しくなるためです。
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- 水耕栽培に必要なものは何ですか?
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水耕栽培に必要な主なものは、ポンプ、肥料、酸素供給装置、pHセンサー、ECセンサーなどです。これらを適切に管理することで、植物を健全に育てることができます。
- 水耕栽培の肥料は何がいいですか?
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水耕栽培に適した肥料は、溶解度が高く、純度の高い無機肥料が一般的です。代表的なものに、硝酸カルシウムや硫酸マグネシウムなどの単肥や、複数の肥料成分が配合された配合肥料があります。栽培する作物や環境に合わせて適切な肥料を選ぶことが重要です。
- 水耕栽培は体に悪いですか?
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適切に管理された水耕栽培では、植物は健全に育ちます。むしろ、土壌病害や農薬の影響を受けにくいため、安全性の高い野菜を生産できるというメリットがあります。
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