現場管理技術
植物工場の衛生管理、洗っても菌が減らない理由
洗浄頻度を上げ続けても数字が動かないとき、たいていは「もっと拭く」以外の打ち手が見えていないだけです。でも本当に問題なのは回数でしょうか。手順のどこかで、衛生を「洗う仕事」だと考えた最初の前提が掛け違っているのかもしれません。
洗浄頻度を上げても一般生菌数が下げ止まる理由
「週3回から毎日に増やしたのに、クリーンルームの一般生菌数が前と変わらない」。手順書を厚くして、拭く場所を足して、それでもまた同じ数字で下げ止まる——こういう経験はないでしょうか。
先に一つ断っておくと、異物クレーム(毛髪や虫、包装片など)は主に作業者や原料、包装工程の側で起きるもので、ここでは扱いません。この記事で取り上げるのは「菌(微生物)の側」、一般生菌数や根まわりの病害が下げ止まる、という話です。
衛生管理を「どれだけ洗うか」という作業の量だけで考えているうちは、たぶんこの下げ止まりから抜けられません。先に、私の見方を一つ書いておきます。菌はゼロにはできません。建物をどれだけ隔離しても、水道水や養液の水にわずかに混じってくる分はあって、温度と水がそろえば、どこかに必ずいます。だから私は、「どこから入ってきたか」を突き止めることには、あまり意味を感じていません。問題は二つです。その菌が増える場所(温床)を作っていないか。そして、一か所で濃くなった汚染を、清浄なはずの場所へ広げていないか。そこを区画や動線という構造で押さえない限り、構造側にある問題は洗う回数では消えません。だからといって構造の話を先にしても、いまある施設の壁はすぐ動かせない。そこでこの記事では、まずお金をかけず今日から動かせる洗浄・乾燥で叩いてみて、それでも下がりきらずに残った分を構造のサインとして読む、という順で進めます。叩けば消える分は運用で消える。叩いても律儀に同じ場所に戻る分が、構造が効いている証拠になる、という読み方です。
なお、この先の話が下敷きにしているのは、主に水耕・養液栽培で起きることです。完全人工光型の葉物の現場に、それを当てて考えている、と読んでください。私自身が現場で手を動かしてきたのもこの範囲なので、ここから先で「現場で何度も見てきた」と書くときは、人工光型の葉物の話だと思ってください。
現場を歩くと、妙なことに気づきます。毎日拭いている台はそこそこ綺麗で、あまり人が触らない棚の下や配管の継ぎ目——洗浄手順に入っていない場所のほうが、菌の数字が悪い。洗っている場所と菌が増えている場所が、そもそもずれているわけです。これは洗浄が足りないというより、結露と有機物が溜まって乾かない場所に、菌が居つきやすいからだと見ています。葉物は水を使います。どうしても低い所・継ぎ目・排水まわりに、水と養液の残りが溜まる。そこは温度も湿度も菌に都合がいい。手順書を厚くして拭く場所を増やしても、増殖の温床そのものが構造側にあれば下げ止まる、と現場では何度も見てきました。だから先に見るのは、洗浄表より「水がどこで止まって乾かないか」です。乾く設計になっていれば、そもそも洗う回数の勝負になりません。
しかも水耕や養液栽培では、養液が施設の中を循環すること自体が、Pythium のような水の中で動ける菌の増殖を後押しする構造になりうる、と報告されています。(参考: 1)ただ、ここは誤解されやすいところで、循環そのものが悪なのではありません。同じ文献は、緩速ろ過(バイオフィルター)のような穏やかな処理で循環系の菌は実際に抑えられる、とも整理しています。(参考: 1)十分な流量を確保して淀ませずに正常に回している限り、循環でリスクが跳ね上がるわけではない、というのが私の見立てです。問題になるのは、流れが止まって水が淀む所、いつまでも乾かない所です。少なくとも養液系では、菌が増えやすいかどうかは、洗う回数の前に、水が滞るか・きちんと流れているか、という構造の側が大きく効いてくる、ということです。
濃い汚染を清浄域へ広げない動線という構造
増える場所が構造側なら、次に効いてくるのは、その菌をどこで濃くして、どこへ広げてしまうか、です。菌そのものは、どこにでも薄く・少しはいる。問題は、薄いはずの菌が一か所で濃くなり、それが清浄なはずの栽培エリアへ運ばれていく経路が、施設の中に残っていないか、です。

たとえば苗。培地や根まわりは、もともと菌が多めの、濃い場所です。それをそのまま栽培エリアに入れれば、濃い汚染を清浄なはずの場所に置くことになる。室内をいくら洗っても、苗にくっついてくる分は洗浄回数では減りません。もう一つが人と物の動線です。育苗、移植、収穫、包装と、本来は清浄度の違う部屋を、台車や人が行き来して横切ってしまう。台車の車輪、長靴、手袋が、汚れた側の濃い菌を、きれいな側へそのまま運んでいる、と私は見ています。だから押さえどころは、苗を受け入れる場所を一点に決め、動線を清浄度の高いほうから低いほうへ一方通行に組む、という構造です。逆流させない、戻らせない。濃いところの菌を、薄いところへ持ち込まない。そこを設計で押さえておくと、あとの洗浄はだいぶ楽になります。
動線を整理するときは、施設をいったん清浄度で三つに分けて考えると、どこが交差しているかが見えやすくなります。私が現場で動線を点検するときも、おおむねこの区分で図面を見ています。
| ゾーン | 清浄度 | 具体的な場所 | 必要な対策 |
|---|---|---|---|
| 汚染ゾーン | 低 | 施設入口、事務所、トイレ、休憩所 | 外からの汚染の持ち込みを止める |
| 準清浄ゾーン | 中 | 資材準備室、着替えエリア、手洗い場所 | 清浄ゾーンへ汚染を移さない |
| 清浄ゾーン | 高 | 播種・栽培・収穫エリア | 厳格な衛生管理を実施する |
自分の施設で点検するなら、見る所はだいたい決まっています。清浄度の高い部屋から低い部屋へ、人と物がきちんと一方通行になっているか。低いほうから高いほうへ、台車や人が逆流して戻る場面はないか。苗の受け入れ口が一点に決まっているか、それともあちこちから入っているか。ここを図面と実際の動きで照らすと、いまの動線が、濃い汚染の持ち込みと交差をどこまで消せていて、どこを残しているかが見えてきます。境界を床の色分けやサインで目に見えるようにしておくだけでも、人の動きは変わってきます。
この見立ては、水耕システムの中で菌がどう運ばれるかをたどった研究とも合っています。苗を移植するときに菌が持ち込まれること、そして養液の水自体が施設の中で菌を運ぶ経路になりやすいこと、とくに水が主な運び手になりやすいことが報告されています。(参考: 2, 3)どちらも、室内をいくら洗っても、菌が濃いところから薄いところへ運ばれていく動きで、洗浄の回数では届きにくい。だからこそ、苗を受け入れる場所と動線という構造の側で、運ばれ方そのものを押さえる、という話につながります。
構造で消す問題と運用で動かす問題の見分け方
ここまでで、菌が増える場所も、濃くなった汚染が広がる経路も、どちらも施設の構造の側にあると見えてきました。すると今度は、線引きが問題になります。「構造を直さないと消えない問題」なのか、「洗い方・消毒のやり方を変えれば届く問題」なのか、自分の施設でどう見分けるか、ということです。

ここで効くのが、冒頭に書いた「まず叩いてみる」という順です。洗浄・乾燥の頻度や場所を変えてみて、素直に数字が下がるなら、それは運用で届く問題でした。逆に、清掃を倍にしても同じ南側ラインが梅雨どきだけ再発する、というように、特定の場所・特定の季節で律儀に戻ってくるなら、これは構造側のサインだと見ています。叩いても叩いても同じ場所に出る——その下げ止まりこそが、温床が構造側にあることを教えてくれる、という読み方です。もう一つの手がかりは、担当者を変えても同じ場所に同じように出るか。人が替わると変わるなら作業者側、誰がやっても同じ場所に出るなら構造側、という切り分けです。断定はできませんが、しばらく数字の出方を見ての見立てになります。素直に動くか、しつこく同じ場所に戻るか、そこが一番の分かれ目です。
こうした「繰り返し」を読むときに、頭に置いておきたいことがあります。検査で菌が出るのは、たいてい何かが起きた後です。水耕の養液中の菌については、高感度に迅速に捕まえられる分子レベルの検出法が開発されている、と報告されています。(参考: 4)裏を返せば、検査の数字に出ていなくても、温床のある場所では菌が居続けている可能性がある、と見ておいたほうがいい。だから一回の検査が陰性だったことより、叩いたあとに「いつも同じ場所に戻るかどうか」のほうを、構造側のサインとして重く見る、ということです。
構造をすぐ直せないときの運用の打ち手
原因が施設の構造側(動線や部屋の仕切り、ゾーニング)にあると分かっても、いまある施設でそれを引き直したり作り変えたりするのは、そう簡単ではないし費用もかかります。建て直しに近い話になってしまう。構造そのものはすぐには手を入れられない——その前提に立ったとき、運用の側で「構造の代わり」として効かせられる打ち手はあるのか。順に見ていきます。

まず、苗を入れる場所を一点に固定し、台車を清浄度の高い側と低い側で分けて混ぜないようにします。物理の壁がなくても、濃い汚染の持ち込みと交差はそれで押さえられます。次は、時間で区切るやり方です。清浄な作業を午前、汚れる作業を午後にまとめて、一方通行を時間で作る。仕切りの代わりに「順番と時間」で区画する感覚です。ただし、午後の汚れ作業のあとに清掃と乾燥を挟んでリセットしておかないと、その汚れが翌朝の清浄作業に持ち越されて、一方通行が崩れます。区切ったら必ず一度リセットする、までが一組です。
それから、水まわり。勾配や排水をすぐ直せなくても、終業後に使わなくなる配管や槽、低い所の溜まり、排水経路に残った水を抜いて乾かしておくだけで、淀んで増える分はだいぶ弱まります。ここで抜くのは、栽培中の循環養液そのものではありません(株があって連続で回している養液は資産で、毎日抜くものではない)。あくまで、終業後に使われずに溜まったまま乾かない水を残さない、という話です。
構造の中身そのものに目を向けると、たとえば床。水がたまらないよう1/100程度の勾配をつけておくと、低い所に水が居残りにくくなります。これは新設や改修のときに効く、構造側の打ち手です。すぐには引き直せなくても、「いまの床のどこに水が残るか」を知っておくと、終業後に重点的に乾かす場所が決まります。
ただし、こうした運用の代替で消せるのは、濃い汚染の持ち込みと交差までです。同じ部屋の中の結露や配管の温床のように、時間や順番では分けきれない部分は残る。そこは結局、乾かす設計や構造側に戻ってくる、と見ておくほうが安全です。
そのうえで消毒(オゾンやUV、養液の塩素処理)も打ち手になりますが、これは構造で、菌が広がる経路と温床をある程度断った上に乗せるもので、入れれば終わりではありません。消毒の効き方には、文献の整理ともよく合う条件があります。水耕の病原菌に対する消毒は、あくまで発生前の予防的な手当てとして意味があり、発病してからの処理は効きにくいとされています。(参考: 1)また、塩素系・二酸化塩素・UVといった消毒は確かに菌を減らせるのですが、効き方が病原菌の種類や、消毒剤の濃度・曝露時間で大きく変わり、ひとつで全部に効く万能の手法はないとされています。(参考: 6)オゾンも同じく菌を減らせますが、効きは濃度や処理のしかたに依存します。(参考: 5, 7)
消毒剤を使うなら、製品ごとの濃度と接触時間を守ることが前提です。たとえば次亜塩素酸ナトリウムなら、100〜200ppmで接触時間5分以上が一つの目安になります(業界で広く使われる運用の目安で、現場ではここから条件に合わせて調整します)。
副作用もあります。オゾン処理で養液中の鉄やマンガンの濃度が下がったり、狙った病原菌だけでなく有益な微生物まで一緒に減ってしまう、という報告もあります。(参考: 1, 7)だから処理は、構造で断った上に乗せる運用、という順番になります。殺菌設備に頼り切るのではなく、淀ませずに正常に流して回し、洗って乾かす——その上に、必要な分だけ消毒を乗せる、という構えです。
認証と検査数値に頼り切らない衛生の投資判断
ここまでの「消せる所と動かす所を分ける」という見方は、そのままお金の配分の話になります。衛生管理は、認証を取った時点でも、検査が陰性だった時点でも、ゴールにはなりません。
費用配分の手がかりとして、まず場所をリスクの高さで分けて、清掃の頻度を変えるところから始めます。すべての場所を同じ頻度で洗うのは、限られた時間の使い方として効率が悪い。私が現場で時間配分を考えるときも、だいたいこの三段で整理しています。
| リスク | 頻度の目安 | 主な対象 |
|---|---|---|
| 高リスク | 毎日チェック | 養液タンクと循環システム、収穫用の器具・容器、種子や苗を扱うエリア、収穫後処理エリア |
| 中リスク | 週2〜3回 | 栽培エリアの通路、よく触れる操作パネル、換気フィルター、資材保管エリア |
| 低リスク | 週1回程度 | 事務所、休憩室、外部通路 |
高リスクの所に時間をかけ、低リスクの所は効率化する。この使い分けが、続けられる衛生管理の土台になります。ただし、これはあくまで「叩く頻度」の配分です。叩いても下がりきらない場所が出てきたら、そこは頻度の問題ではなく構造の問題だと見て、費用のかけどころを構造側に移す。頻度の表と構造の判断は、地続きで使います。
HACCP や監査も、「ゴール」というより「考える順番をくれる枠組み」だと思っています。取ったら終わりではなく、むしろ出発点です。菌が増える場所と広がる経路を構造で断っていなければ、認証を持っていても、菌の数字はそれ以上下がりません。検査の数値、培養して出た菌数も、一点では信じすぎないほうがいいと考えています。処理して見かけ上は培養で出なくなっても、それで本当に消えたと言い切れるかは分かりません。だから一つの数字より、どこに繰り返し出るかの出方で見ます。投資判断も同じで、何度も同じ場所に戻ってくる構造側を先に費用をかけて潰し、手を入れた分だけ動く運用側は後から整える。消せる所と動かす所を分ける、そこからしか費用の配分は決まりません。
検査数値への慎重さには、こんな裏づけもあります。非滅菌の養液の中でも、サルモネラやリステリアのような食中毒に関わる菌が、ある程度の期間そのまま生き続けるという報告があります。(参考: 8)環境を管理しているから、消毒したから、という理由だけで「もう安全」とは言い切れない。だから一つの検査数値に頼らず、出方そのものを見る、という構えが効いてきます。
衛生は、認証を取った時点でも、検査が陰性だった時点でも終わりません。まず洗浄・乾燥で叩いて、それでも残る下げ止まりを構造のサインと読む。菌が増える場所と、濃い汚染が広がる経路という構造を断ち、消せる所と動かす所を分け、どこに繰り返し出るかを見続ける。その地道な構えこそが、最後に効いてくるのです。