植物工場の基礎・概要

植物工場とは「太陽を電気で買い直す」施設

LED照明下の多段棚で育つレタス

参入や投資を検討するとき、最初に手元に残るのはたいてい数字です。「赤字率は何割」「投資額は何十億」——ニュースで見た一枚を、自分の案件の物差しにしてしまう。でもその数字は、何の平均なのでしょうか。植物工場とは、外の太陽と気候を電気で買い直して生き物を育てる施設です。その「どこまで電気に置き換えるか」と「何を育てるか」の組み合わせで、同じ名前のまま採算もリスクも別物になります。

「工場」という言葉が呼ぶ誤解

野菜が並んだ棚、LEDの光、白い作業着の人。「植物工場」という言葉を最近あちこちで見かけます。「工場」と聞くと、多くの人はあの生産ラインを思い浮かべます。ボタンを押せば規格品がどんどん安く出てくる。止めてもまた動かせる。設備さえ入れればなんでも作れる。機械の工場が育てた、その直感です。

でも、その直感のまま植物工場を見ると、たぶん見え方を外します。同じ「植物工場」という一語で呼ばれていても、中身は別の生き物くらい違うからです。完全にLEDで閉じた室内のものと、ビニールハウスのように太陽の光を使いながら中をコントロールするもの。同じ名前で呼んでいいのか迷うくらい、別物が並んでいます。

ここでやりたいのは、「工場」という言葉をいったん外して、その中で実際に何が起きているのかを、一つの見方として渡すことです。先に結論を言います。植物工場は「規格品が安く出る工場」ではなく、外の太陽と気候を電気で買い直して生き物を育てる施設で、型式(光をどこから取るか)と作物でまるで別物になります。この見方を入口にすると、なぜ作れる作物が偏るのか、なぜ採算がシビアなのか、なぜ一括りに語れないのかが、同じ一本の理屈でつながって見えてきます。

光源で分かれる二つの型式

別物だと言いましたが、いちばん効く境目は一つです。太陽を使うか、電気で光まで全部つくるか。

LED照明下のレタス栽培エリア。光を電気で作る完全人工光型

太陽光を使うタイプ、いわゆる太陽光利用型は、ハウスの延長だと思ってください。屋根から光はタダで入ってきます。では何を工場っぽくやっているかというと、温度と湿度、CO2、水やり、そのあたりを測って制御しています。光以外を整えている施設、というわけです。

もう一方の完全人工光型、フルでLEDのタイプは、窓のない部屋で、太陽を一回ぜんぶ捨てています。そのうえで、本来タダだった光を電気で買い直し、自分で作り直しています。ですから「わざわざ高い電気にする」というより、「外の天気をまるごと部屋の中に再現するための電気代」です。光だけでなく、空調も湿度も、全部電気。外気と切り離している代償です。

この「電気で買い直す」という見方がいちばん強く効くのは、完全人工光型のほうです。太陽光利用型は光をタダで使えるぶん、買い直しているのは光以外——温度や湿度、CO2の制御——だと思ってください。

そして、この「外の天気を部屋の中に再現する電気代」は、桁で見るとはっきり出ます。複数の施設のエネルギー消費をまとめた分析では、人工光型のエネルギー消費は収穫物1kgあたりの中央値でおよそ78MJ、太陽光を使う温室で27MJ、露地はそのどちらよりもずっと少ない。(参考: 1, 2) レタス1kgで見ても、室内の水耕だと一次エネルギーで160MJ前後、露地だと11MJ弱、という見積もりがあります。(参考: 1, 2) 「光をタダの太陽から電気に置き換える」というのは、感覚的に高そう、で止まる話ではありません。ひと桁ふた桁ぶん重くなる話なのです。

ただし、この重さがどれくらい効くかは、型式や規模で変わります。大きな施設の試算では電力が大きな割合を占めますが、小規模で高く売れて近くに売り先がある場合などは、むしろ人件費や包装のほうが前に出て、電力はコストの一部にすぎないこともあります。共通しているのは「外の自然を人工で代わりに用意するコストが、どこかに必ずかかる」という性質であって、それが常に電気代の形で出るとは限りません。

なぜ作れる作物が葉物に偏るのか

レタス、ほうれん草、ベビーリーフ。植物工場の話で聞こえてくるのは、たいてい葉物です。その電気代を踏まえると、理由が見えてきます。葉物は、光をそれほど強く欲しがらず、背が低くて棚に何段も積めます。植える期間も短い。だから、電気で光を作るコストに、ぎりぎり見合うのです。この方向は、複数の概説でも同じように指摘されています。(参考: 4

上から見た整然と並ぶレタス。棚に積める葉物に作物が偏る理由

閉鎖型の人工光施設は照明と空調のランニングコストが高く、採算を取るには高付加価値の作物が要る——この構造です。(参考: 4) 商業的に作れるのは、今のところ主に背の低い葉物に限られるといいます。(参考: 5

逆に、実をならせる作物はどうでしょうか。必要な光の量も電気代も、桁が違ってきます。トマトは、実をつけるのにものすごい光がいります。(参考: 5) しかも背が高くなる作物では、茎が伸びるにつれて下の葉に届く光がどんどん弱くなり、光の使われ方の効率が落ちていきます。だから人工光型で商業的に作れるのは小型の植物に限られる、と指摘されています。(参考: 5) 果菜のように実をつける作物は、そもそも体のかたちが垂直に積む栽培に向きにくい、という指摘もあります。(参考: 3) ただしこれは今の品種・価格での話です。小型化や低光耐性、短い生育サイクルといった育種が進めば、作れる範囲は動きえます。今の採算で固定された宿命ではない、ということです。

主食になると、もっと極端です。たとえば大豆を完全人工光でやると、露地の千〜二千倍のエネルギーがいると見込まれています。(参考: 1) 米や小麦も、いまの品種と電力価格では、全部LEDだと電気代だけで採算が見込めない、と複数の分析が指摘しています。(参考: 6, 7

ここが、工場という言葉が裏切ってくるところです。普通の工場は、設備を入れるほど作れる物が増えて、量も種類も広がっていきます。植物工場の完全人工光は逆です。光を電気で買い直す制約があるぶん、むしろ作れる物がぎゅっと絞り込まれていきます。それに、止めてもまた動かせる機械のラインとも違います。私が見てきた人工光型・葉物の現場の感覚で言うと、中で育っているのは生き物ですから、需要が落ちたからといってラインのように一時停止して、また同じところから動かす、というわけにはいきません。一度まいた種は、売れようが売れまいが、その生育のスピードで育っていきます。なんでも安く量産する装置ではなく、限られた作物を、天候と切り離して安定して出すための装置なのです。だから同じ「工場」でも、増やす工場ではなく、ブレを消す工場なのです。

自分のやりたい作物が採算に乗るのかどうかを先に確かめておくと、このあとの型式やコストの話が、ぐっと自分ごとになります。

もう一つの境目は誰が環境を決めるか

ビニールハウスに温度計をつけて、暑くなったら手で窓を開ける。ここから、センサーで測って自動で天窓が開く、CO2を足す、養液の濃度を勝手に調整する、まで。じつは、ここに最初とは別の境目があります。

袋詰めレタスが段ボールに整列した出荷の様子。採算・数字の象徴

太陽光利用型のほうは、普通の農業との境目がぼやけているというより、地続きです。手で窓を開け閉めするところから全自動まで、全部ひと続きの坂道で、どこかに「ここから工場」という線が引いてあるわけではありません。

あえて線を引くなら、「環境を数字で測って、その数字に向けて機械が判断して動いているか」で見ます。人が空を見て勘で窓を開けているうちはハウス、人がいなくても設定値に向かって環境が制御され続けるなら工場寄り、というグラデーションになります。

だからこれは、最初の「太陽を使うか捨てるか」で割った線とは、別の軸です。最初の線は光をどこから取るかの話、いまの線は誰が環境を決めているかの話。植物工場を見るときは、この二つの軸が別々に効いてくる、と思っておくとよいでしょう。

業界の一枚の数字を自分の案件に当てない

植物工場のニュースで「事業者の半分くらいが赤字」といった話を目にしたことはないでしょうか。あるいは逆に、成功事例の初期投資額を、そのまま自分の試算に書き写したくなった経験は。ああいう一枚の数字は、そのまま自分の話に使っていいものなのか。「型式でも作物でも別物」という見方を持つと、ここの扱い方が変わってきます。

結論から言うと、書き写してはいけない数字です。むしろ、いちばん危ない使い方です。「半分が赤字」も「成功事例の初期投資いくら」も、ここまでの話でいえば、型式も作物も違うものを一列に並べて平均を取ったものにすぎません。完全人工光のレタスと、太陽光利用型のトマトと、半分趣味のような小さい施設を、全部いっしょくたに「植物工場」として数えた赤字率です。自分がやろうとしている型式と作物の組み合わせに、その平均が当てはまる保証はどこにもありません。

実際、混ぜて出した数字はかなり振れます。日本の大規模施設園芸・植物工場の調査では、赤字の事業者が49%という報告もあれば、500億円規模の補助金が投入されたあとも2017年時点で75%が赤字だった、という報告もあります。(参考: 8, 9) この数字は、自分の案件に当てはめるためではなく、母集団でこれだけ振れること自体を見るために挙げています。

ところが、母集団を型式で割って見ると、振れ方とは別の、はっきりした差が出てきます。令和7年度の大規模施設園芸・植物工場の実態調査では、直近の決算で黒字か収支均衡だった割合は、太陽光型・併用型がそろって7割以上なのに対し、完全人工光型は約5割にとどまります。さきほどの「49%」「75%」は型式も作物も混ぜた数字なので報告ごとに大きく振れますが、型式で割り直すと「人工光型はだいたい半々、太陽光型・併用型は7割前後」という差は、年や母集団が変わっても残ります。混ぜると振れる、割ると差が頑健に見える。「型式で別物」というのは、感覚の話ではなく、国内の一次調査でも出ている差なのです。

成功事例の初期投資額を写すのは、もっと危険です。あれは、その人の作物、その土地の電気代、その規模、その売り先、すべてがセットでようやく成り立った一個の数字です。装置の値段だけ写しても、ついてこないものがあります。先ほど触れた、消えているブレ、つまり「天候と切り離して安定して出す」という価値が、その人の売り先でいくらで買ってもらえていたか。そこが抜けたら、同じ設備を建てても回りません。

エネルギーの重さも同じです。施設のタイプ・作物・地域でひと桁以上ばらつき、業界全体としてはっきり下がっていく傾向もまだ見えていない、と分析されています。(参考: 1

ここで一つ注意したいのは、「エネルギーの重さ」には別々の二つが混ざっていることです。一つは環境負荷(CO2排出など)で、これは電力源や廃熱の使い方しだいでひと桁以上動くため、「植物工場は環境にいい」とも「悪い」とも一括りには言えません。(参考: 1, 10) もう一つは、収穫物1kgあたりに要る消費エネルギーの量そのもの。この消費エネルギーの量のほうは、電力源を再エネに替えても減りません。環境負荷は下げられても、電気代の重さ自体が消えるわけではない、ということです。

ですから、一枚の数字を見たときにまず確かめたいのは、四つです。これは太陽光型か完全人工光型か。作物は何か。その電気代はどこの話か。誰にいくらで売れていたのか。これが揃っていない数字は、参考にはなっても、自分の試算の根っこには使えません。逆に言えば、他人の数字も使い道がないわけではありません。桁の感覚をつかんだり、自分が次に確かめるべき問いを立てたりするには、十分役に立ちます。平均の赤字率も、成功者の投資額も、答えとしてではなく、問いを立てるための材料として見れば、無駄にはならないということです。

赤字率の「半分」という数字が具体的に何でできているのか、その中身を分解した話に進むと、自分の型式・作物だとどのあたりに位置するのかが見えてきます。

何から確かめれば外さないか

これから「植物工場ってどうなんだろう」と調べ始めるとき、型式から決めようとすると、たいてい迷子になります。おすすめは逆です。いったん型式を後回しにして、まず「自分は何のブレを消したいのか」から入ること。

ひとつ目は、出口から決めること。誰に、何を、なぜその値段で買ってもらえるのか。年間を通して切らさず納められること自体にお金を払う売り先が、自分の手の届く範囲にいるのか。ここが無いと、何を建てても回りません。

ふたつ目は、その売り先が欲しがっている作物を置くこと。出口が決まれば、作物はほぼ連動して決まります。そして作物が決まると、必要な光の強さも、背の高さも、育つ期間も決まってきます。

三つ目で、ようやく型式が出てきます。というより、ここまで来ると型式は自分で選ぶものではなく、作物のほうから絞られてきます。葉物で光をそれほど欲しがらないなら完全人工光も射程に入るし、実をならせる作物で強い光がいるなら太陽光利用型しかない、という具合です。ここで決まる型式には、さきほどの二つの軸——光をどこから取るかと、環境をどこまで機械に任せるか——の両方が含まれます。型式は出発点ではない、ということです。

四つ目で、初めて他人の数字を読みに行きます。先ほどの四点セット、型式・作物・電気代の土地・売り先が、自分とそろっている事例だけを選んで読む。順番が逆になって、先に「LEDのレタス棚」のような絵から入ってしまうと、出口が無いまま設備の絵だけが手元に残ります。出口、作物、型式、それから数字。この順だけ崩さなければ、大きくは外しません。なお、これは「設備の絵から入らない」という優先度の話で、現実には手元の資金・土地・立地といった制約も同時に効いてきます。資金の検討を後回しにしてよい、という意味ではありません。

ここまでで、「植物工場」という一つの言葉の下に、光をどこから取るか、誰が環境を決めるか、何を育てるかで、まるで別物の施設が並んでいる、というのが見えてきたはずです。「工場」と聞いて浮かぶ、なんでも安く量産する装置ではなく、外の天気を電気と設備で買い直して、限られた作物のブレを消す施設。そこを入口にすると、作物が偏る理由も、採算がシビアな理由も、一枚の数字が当てにならない理由も、同じ一本の理屈でつながります。

あとは、自分の関心がどちらの型式が採算に合うかなのか、どの作物なら採算に乗るかなのか、なぜ赤字が多いと言われるのかの中身なのか、それとも現場で収益がどう決まるかなのかに応じて、その先の話へ進めます。

最後に一つだけ。ここで扱った現場の手触りは、人工光型で葉物を育てる範囲の話が中心です。太陽光利用型や、果菜・海外の大規模な事例については、ここで一括りに語れるほど中身は均質ではありません。だからこの記事は答えを出す場所ではなく、「自分が気になっているのはどの型式・どの作物・どの論点(採算なのか、作物なのか、現場なのか)なのか」を切り分けて、その先へ進むための入口です。

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参考文献

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  2. Aline Banboukian, Yongsheng Chen, Valerie M. Thomas(2025) The challenges of controlled environment hydroponic farming: a life cycle assessment of lettuce. The International Journal of Life Cycle Assessment. https://doi.org/10.1007/s11367-025-02463-6
  3. Choon‐Tak Kwon(2022) Trait Improvement of Solanaceae Fruit Crops for Vertical Farming by Genome Editing. Journal of Plant Biology. https://doi.org/10.1007/s12374-022-09370-5
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  2. Tomohiro Nishizawa(2014) Present status and future outlook of plant factories in Japan. Advances in Horticultural Science. https://doi.org/10.13128/ahs-22802
  3. H. Charles J. Godfray, Joseph Poore, Hannah Ritchie(2024) Opportunities to produce food from substantially less land. BMC Biology. https://doi.org/10.1186/s12915-024-01936-8
  4. M. Bomford(2023) More bytes per acre: do vertical farming’s land sparing promises stand on solid ground?. Agriculture and Human Values. https://doi.org/10.1007/s10460-023-10472-0
  5. Unknown(2019) 大規模施設園芸・植物工場の実態(3)49%の事業者が赤字経営. 週刊農林
  6. 石堂 徹生(2017) 意見異見(108)補助金500億円でも75%が赤字 植物工場の挫折. 現代農業 / 農山漁村文化協会 [編]
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