現場管理技術
養液管理のEC・pH、合わせるだけでは粗利を取りこぼす?
毎朝メータを当てて、EC も pH も目標どおり。日報の数字はきれいに揃っている。それでも「この管理が、うちの粗利にいくら効いているのか」と聞かれると、ログは全部あるのに答えが出てこない——。数値が合っていることと、もうけに効いていることは、どこかで別々に動いている。合わせるだけでほぼ足りる現場も多いのですが、合わせても説明のつかない不調が出るとき、その隙間に毎年いくらかが静かにこぼれ落ちていることがあります。
数値は緑なのに歩留まりが落ちる
EC・pH・DO の三つを並べていても、見ているのはたいてい EC と pH で、DO はずっと後回し——心当たりはないでしょうか。やっかいなのは、トラブルがいつもの顔で来ないことです。EC も pH も目標どおりに収まっているのに、なんだか調子が悪い。その形で来ます。後から振り返ると、その時期は決まって水温が上がっていたり、根が増えて密になっていたりして、たぶん DO が落ちていた。EC と pH は「合わせる数値」だから毎日いじる。けれど DO は毎日目標へ寄せにいく数値ではなく、条件から結果として出てくる数値です。測ってもどうしていいか分からないから、ずっと放置していた。そう考えると順番が逆だったのかもしれません。毎日まじめに合わせていた EC と pH のほうが「合わせれば合う」素直な数値で、ほんとうに歩留まりを左右していたのは、放置していた DO のほうだった。——もっとも、その「合わせれば合う」さえ、見た目ほど素直ではないのですが、それは後で触れます。測りやすくていじれる数値ばかり熱心に見て、結果として出てくる数値からは目をそらしていた。心当たりはないでしょうか。
DO は合わせる数値ではなく見張る数値
DO は「いじれない数値」というより、いじれる数値の効きを決めている前提条件です。そう置くと整理がつきます。EC と pH は、根が養分やイオンを実際に取り込めて初めて意味を持つ数値です。その取り込みは根の呼吸で回っていて、呼吸には酸素がいる。だから DO が落ちると、EC・pH をどれだけ目標どおりに合わせても、根の側で使い切れなくなる。盤面は整っているのに手が動かない、という状態です。DO が抜ければ、EC・pH の操作は効きが鈍ります。順番として、DO は EC・pH の一段上にいる。放置されがちなのにも筋が通っています。DO は EC・pH のように毎日目標へ寄せにいく対象ではなく、水温・根量・流量・エアレーションといった条件から結果として出てくる数値だからです。しかも DO を動かす手立て——曝気の方式や水温の調節——は、たいてい設備の側で決まっていて、現場で日々ひねれるツマミではありません。だから多くの場面で、DO に対してできるのは、値そのものを操作することというより、下がってきていないかを確かめ、悪化に向かう傾きを早めに読むことです。ここが EC・pH と質の違うところで、目標値を一つ決めて毎日寄せにいく対象ではなく、一定の水準を割っていないかを見張る対象だと考えるのがよさそうです。もし慢性的に下限を割るなら、それは日々の操作で取り返す話ではなく、曝気や水温まわりの設備をどうするか、という一段上の問いになります。そして覚えておきたいのは、トラブルの時期に EC・pH が目標どおりに見えていた、という事実のほうです。あれは「だから養液は問題ない」の根拠ではありません。むしろ逆で、DO が抜けて取り込みが鈍ると、消費されないぶん EC・pH は安定して見えてしまう。きれいに収まっている数値が、実は使われていないことの裏返しだった——その可能性があります。

酸素が足りないと根が材料を使えない。この話は、裏返すと、酸素を足したときの伸びの大きさからも同じ像が掴めます。ある実験では、養液に飽和量をはるかに超える高濃度の酸素を溶かして育てたレタスが、室内の空気で普通に通気しただけの区にくらべて、葉の面積がおよそ二倍まで広がりました。(参考: 1) ただしこれは低温・単一試験という極端な条件での結果で、平常運転でそのまま二倍が出るという話ではありません。それでも、根に届く酸素しだいで生育がこれだけ動きうる、という方向は見えます。むしろ現場で効くのは下限側です。私が人工光型の葉物で回してきた範囲でも、溶存酸素は 5 mg/L を割らせないこと、できれば 8 mg/L 前後を保つことを一つの安全側の目安にしてきました。報告例としては、果菜の NFT トマトで溶存酸素が 5 mg/L を下回るとストレス症状や生育の停滞が出る、というものがあります。(参考: 2) ただしこれは養殖併用(アクアポニクス)由来の循環系を引いた孫引きで「出ることがある」という緩い言い方であり、方式や養液タンクの容量しだいで効き方は変わります。同じレビューでは、タンクの水量が多ければ低い DO にも耐える例や、1〜3 mg/L でもひどい悪影響にはならなかったという報告も併せて挙げられています。(参考: 2) だから 5 mg/L はどこでも当てはまる絶対の閾値ではなく、下限の目安として「ここを割らせない」ために置くものです。高ければ高いほど効くというより、一定の水準を割らせないために見張る数値だと考えるのがよさそうです。
では、DO は悪化に向かう傾きを読む数値だ——というとき、現場で「傾きを読む」とは具体的にどうするのか。DO の値そのものを記録するのか、それとも水温が何度上がったとか、根がこのくらい増えてきたとか、条件のほうを見るのか。あるいは DO はやはり測りつつ、下がってきたら先行サインに使うのか。答えは、両方やります。DO は測る。でも「今日いくつ」では読みません。前回より下がってきているか、という差分で見ます。同時に条件のほうも見る。この二段構えです。なぜ条件だけでは足りないか。水温・根量・流量のどれが効くかはその設備で違いますし、同じ条件でも効き方は季節や生育ステージでずれるからです。条件を見るのは「何が DO を下げているのか」の見当をつけるためで、悪化そのものを検知する役には立ちません。逆に DO だけ見ても、下がったと分かった時点で「で、原因はどこか」が手元にない。だから役割を分けます。DO は悪化の検知に、条件はその原因の切り分けに。もっとも、原因が分かっても、曝気や水温を実際に動かせるかは設備しだいで、現場でできるのはまず確かめることまで、という場面も多いです。ただし DO 自体も結果として出てくる数値なので、それが下がった時点ではもう取り込みは鈍り始めています。本当の先行は、水温が上がり始めた、根が密になってきた、という条件側の動きのほうです。順番としては、条件の変化が先に来て、DO の低下がそれを裏づけて、最後に生育の不調として出てくる。DO はこの真ん中にいて、条件側の予感が本物かどうかを確かめる確認役です。だから記録は、DO の絶対値を一点で残すより、水温と DO をセットで残すのがいい。水温が上がると水に溶ける酸素の上限自体が下がるので、同じ DO でも水温が高いときの低下は余力がありません。水温という条件と DO という結果を並べておくと、「下がった」が当たり前の下がりなのか、放っておくと抜けるやつなのかが読み分けられます。一つの数字を寄せにいくのをやめて、条件と結果のペアで傾きを見る。これです。
その酸素をどう水に入れるかは、多くは設備を組む段で決まる話で、日々ひねる操作ではありません。大規模な施設で効率がいいのは、高い位置から水を落として空気を含ませる落水曝気のほうです。落水の高さや循環量に比例して酸素が溶け込み、追加の電力を抑えやすいので、長く回す前提の運用に向きます。それでも落水だけでは足りない設計なら、水中に空気を直接送り込むエアレーション(散気式)を足しておく。落水曝気で基礎の DO を稼ぎ、不足ぶんを散気式で補う、という組み方です。これは私が人工光型・葉物の現場で実際に見てきた配分で、太陽光型温室や果菜の循環系で同じになるかは見ていません。いずれにせよ、いったん設備が決まれば、日々の現場でできるのは、その構成で下限を割っていないかを確かめることが中心になります。
EC は総量しか語らない
では、EC・pH のほうは「目標どおりに合っていれば安心」と言い切れるのでしょうか。pH から先に片づけておきます。pH は EC と並ぶ「合わせる数値」で、合わせること自体は欠かせません。多くの作物が最も効率よく養分を吸えるのは pH 5.5〜6.5 のあたりで、この範囲を外れると特定の養分が溶けにくくなって、根が利用できなくなります。だからまずはこのレンジに収めるのが出発点です。ただし pH が目標どおりに収まっていても、それで答えているのは、養分が溶けて根に届く形でいるかという土台の条件が範囲内、というところまでです。いま根が実際にそれを取り込めているかまでは、pH は保証しません。しかも pH は根がイオンを吸うほど勝手に動いていくので、一度合わせれば済む数値でもなく、作物や培地によって動く幅があって、一意の正解値を固定する対象でもありません。pH は「合わせる」けれど、合わせ終わった先の効きは DO と同じく別の話だ、と置いておきます。そのうえで EC のほうは、もう一段別の意味で「合っているのに語らない」性質を抱えています。EC は全体の濃さをひとまとめにした数字だからです。硝酸・カリウム・カルシウム・マグネシウムといった別々のイオンの濃さを、全部足し算して一つの導電率にしている。だから合計が目標どおりでも、中身の比率まで合っているとはかぎりません。EC が合っているという情報は「総量が合っている」までしか言っておらず、内訳は保証していない。しかもその内訳は、放っておいても勝手にずれていきます。根はイオンを均等に吸うわけではなく、生育ステージや品目によって、よく吸うものと吸い残すものが出るからです。たとえばカリウムをよく吸う時期なら、補給液で同じ EC まで戻しても、減ったカリウムを足して総量を合わせているうちに、吸われずに残ったほかのイオンがじわじわ溜まっていく。EC は同じなのに、中身は供給した液とは別物に寄っていきます。循環式で液を使い回すほど、このずれは積もります(掛け流しや太陽光型では溜まり方が変わります)。EC が素直に見えていたのは、「合わせれば合う」からではなく、ずれが内訳のなかに隠れて、EC という一本の数字には出てこなかったからです。EC も DO と構造は似ています。目標どおりという見た目が、中身まで揃っている証拠にはならない。一本の数字に丸めた時点で、内訳の情報は落ちているのです。

このことは、実際にイオンを一つずつ測った研究でもはっきり出ています。閉鎖循環の系で個別のイオンを追いかけると、リン酸やナトリウム、塩化物イオンの濃度が、EC の増減とそろっては動きません。塩化物イオンにいたっては、ある時期から液のなかでほぼゼロまで落ちていました。EC という一本の数字を見ているかぎり、この偏りは表に出てきません。EC ベースの管理だけでは特定のイオンの欠乏を取りこぼすため、イオンの不足を定期的に見にいく必要がある、と論文側でも結ばれています。(参考: 4)
なら中身を直接測ればよい、ということになりますが、そう簡単にはいきません。イオンを一つずつ測る電極を組み込んだ自動管理の研究では、硝酸やカルシウムは目標どおりに保てた一方で、カリウムは電極の読みが低めに出るせいで、実際には目標より四割ほど濃く調製されてしまっていました。(参考: 5) 別のレビューでも、硝酸とカリウムは膜式の電極でそれなりの精度に収まるけれど、カルシウムは検出の感度が落ちる、と報告されています。(参考: 6) 「内訳まで測る」技術はすでに動いてはいるものの、現場でそのまま頼り切れる精度には、まだ届いていません。
そして、「EC は合っているのに調子が悪い」が印象だけの話ではないことを、まっすぐ示した実験もあります。ある実験では、目標の EC に保った循環液で育てたレタスが、毎回作り直した新しい液の区にくらべて、地上部の重さが二割から三割半ほど落ちました。しかも組織のなかの窒素・リン・カリウム・鉄の濃度が、そろって低くなっていた。EC は目標どおりなのに、中身の養分は足りていなかった、という形です。(参考: 3) ただしこの実験では、原水が中アルカリ性の水道水で、そこに含まれるカルシウム・マグネシウム・重炭酸イオンが循環のなかで溜まり、見かけの EC を押し上げて主要な養分を覆い隠していました。純水(RO 水)を使うか、二週間ごとに液を捨てて作り直した区では、この低下は消えています。だから二割から三割半という数字そのものを、循環式なら必ずこうなる、と一般化はできません。それでも、内訳がずれて生育が落ちるという現象自体は、別の研究(4)でも吸われ方の偏りと沈殿という別の仕組みから独立に確かめられていて、頑健です。そして、その差はおおむね移植から二週間あたりで葉の広がりに出はじめていました。(参考: 3) これは特定の原水・単一の研究での結果ですが、今日の数値が正常でも効きは数週間遅れて出てくる、という形は、DO のときの感覚とも重なります。
だからといって「個別のイオンを毎回測れ」と受け取ると、今度は測りやすさの逆方向に振れすぎます。現場で個別分析を毎日回すのは、重い作業です。むしろ EC は総量の管理として割り切って使い続け、そのうえで「総量は合っていても内訳はずれうる」という前提を持っておく。そして、内訳のずれは運用のほうで抑えます。そこで効いてくるのが、養液をどれくらいの間隔で入れ替えるかです。パプリカ(果菜)を閉鎖循環で育てた研究では、養液の更新間隔によってカリウムの吸われ方そのものが変わり、四週間ごとに入れ替えると陽イオン・陰イオン比の変動が抑えられました。逆に十二週間ためたままの区は、閉鎖循環のなかで果実の収量がいちばん低くなっています。(参考: 7) ただしこの四週間という数字は果菜・閉鎖循環という条件での研究値で、適正な間隔は作物や系で変わります。葉物の循環式で私が目安にしてきたのは、定期更新ならおおむね二〜三ヶ月に一度です。生育の早い葉菜類は消費が速いぶん更新頻度を上げ、夏場は微生物が活発になって劣化が早まるので前倒しします。ただし、この定期更新とは別に、兆候が出たら前倒しで作り直す、という運用判断の軸が要ります。
| 兆候 | 詳細 |
|---|---|
| ECの不安定化 | 頻繁な調整が必要になる、または予想外の変動がある |
| pHの急激な変化 | pHを調整してもすぐに異常値へ戻る、または変動が大きい |
| 養液の色や臭い | 濁り、変色、または不快な臭いがする |
| 生育の停滞 | 新芽の成長が遅い、葉が小さい、茎が細い |
| 根の状態悪化 | 褐変、軟化、根端の枯死が見られる |
| 病害の発生 | 根腐れや葉の病気が増加する |
中身のずれは時間とともに溜まる。だから「いつ作り直すか」を決めておくこと、そして上のような兆候が出たら前倒しで作り直すこと——この二段が、そのまま収量を守る手当てになります。さらに踏み込んで内訳そのものを単肥で組み直す段になれば話は変わりますが、まずは更新間隔と兆候で十分です。EC を疑うというより、EC が答えてくれない問いがあると分かったうえで、その問いを別の手当てに回す。そう整理するのが適切です。
養液の崩れを粗利の言葉に翻訳する
ここまでで、EC も pH も DO も、毎日メータで合わせて日報に書いて終わる数値ではなく、あとから収穫の出来に効いてくる数値だ、という像が見えてきます。すると次の壁が立ちます。この感覚を、どう人に説明するか。養液をちゃんとやっているかどうかは、経営側からは見えにくい。「その養液管理、結局もうけにどれくらい効いているのか」と問われると、ログは全部あるのに、円の話に翻訳できなくて黙ってしまう。現場の数値と、経営が見ている数字は、どこかでつながっているはずなのに、その回路が言葉になっていません。

養液管理を金額に翻訳する回路は、三段に分けると言葉になります。一段目は、養液の数値が歩留まりに効いている、という現場の因果です。DO が抜けると EC・pH の操作の効きが鈍り、内訳のずれが循環で溜まり、それが数週間後の生育の不調として出てくる。経営側には、ここを細かく説明する必要はありません。「養液の崩れは、その日ではなく数週間後の収穫に遅れて出る」という一文に畳んで渡せば足ります。二段目は、その歩留まりが量と等級に変わるところです。経営が見ているのは、出荷できた量と、その等級ごとの単価。歩留まりが落ちるというのは、植えた株数は同じなのに、出荷可能な量が減るか、等級が一段下に落ちるか、のどちらかとして現れます。ここで、現場の数値が初めて円とつながる。「DO が抜けた週があった」を「その週起点のロットで、出荷量が何割落ちた、A品がB品に落ちた」に置き換えられれば、もう半分は円の言葉になっています。三段目で、それを粗利の差にします。歩留まりが下振れしても、設備・人件費・水光熱といった固定費の側はほとんど動きません。だから固定費の比率が高い施設ほど、歩留まりの差はかなりの部分がそのまま粗利の差として残ります。もっとも、下振れすると収穫・包装・選別といった変動費の一部も連動して減るので、粗利の差は歩留まりの差をやや下回ります。どれだけの幅で効くかは施設のコスト構造しだいですが、向きとしては、売上を増やす話というより、すでに払い終わったコストを取りこぼさない話です。種も培地も電気も人も先に払い終わっていて、最後に収穫として回収する段で、養液の崩れがその回収を削る。同じ効きをランニングコスト全体のなかで位置づけると、養液管理がコスト構造のどこに刺さるかも見えてきます。だから経営への翻訳は「養液をやると儲かる」ではなく、「養液が崩れると、払い済みのコストの回収を取りこぼす」という向きで言うほうが通ります。そのうえで、聞かれて黙ってしまう問題への備えとして、記録のしかたを一段上げておきます。日報の数値ログとは別に、ロット単位で数行だけ残しておく。残すのは、そのロットをいつ植えていつ出したか、崩れたと判断した週はあったか、そのとき動かした条件は何か、そして出荷の量と等級が想定からどれだけずれたか——まずはこの四つくらいで十分です。経営に出すときも、日々の EC・pH・DO の生ログをそのまま見せるのではなく、この粒度の一覧を週ごとか出荷ロットごとに共有すれば、現場と経営が同じ列を見て話せます。それがあると、後で出荷実績と突き合わせて「あの週の崩れが、このロットの何割減につながった」と、円までたどれる。ログは全部あるのに翻訳できないのは、数値はあっても「崩れた週」と「出荷結果」を結ぶ線が引かれていないからです。その線を一本引いておくこと、それが橋の正体です。
養液で詰める範囲とほかの要因に手放す範囲
ここで一つ、勢いのまま行きすぎないように釘を刺しておきます。いまの話だと、養液さえ詰めれば粗利が戻る、と読めてしまうかもしれません。でも実際には、歩留まりに効くのは養液だけではありません。温度も光も CO2 も効いています。たとえば CO2 と空調の効き方も、同じように現場値から収穫へつながる経路として読めます。養液はそのなかの一本にすぎず、しかも EC を上げれば収量が素直に増える、というほど単線でもありません。だから「養液を運転 KPI として読む」と言ったときには、どこまでが養液で詰める話で、どこからは別の要因に渡す話なのか、という線引きが要ります。
養液で詰める範囲と、別の要因に渡す範囲。これは、主に環境の側が天井を立て、養液はその天井を上下させながら材料を届ける側、と切り分けると分かりやすいです。光合成でどれだけ物を作れるか、その上限が光・温度・CO2 で決まるのは、栽培生理の一般的な理解です。養液はそこに材料を過不足なく届ける役で、だから養液をいくら詰めても、光や温度が立てた天井より上には行きません。EC を上げても収量が素直に増えないのは、材料は足りているのに天井で止まっているところに、材料をさらに盛っているからです。むしろ盛りすぎは浸透圧で根を痛めて、天井そのものを下げる側に効くことすらあります。つまり養液は天井を下から削らないよう守る側でありつつ、盛り方しだいでは天井を上下させる側にも回る、ということです。
このことは、研究でも繰り返し裏づけられています。そもそも「いくつが正解」という単一の最適 EC が存在しません。パクチョイでは生育と品質を総合して 1.8〜2.4 dS/m あたり、バジルでは収量が最大になるのが 3.0 dS/m と、作物ごとに最適域がばらつきます。(参考: 8, 9) しかも同じ作物のなかでも、収量が最大になる EC と、品質成分が最大になる EC はずれます。バジルでは、収量は高い EC 側で最大になる一方、フェノール類などの品質成分は低い EC 側で高くなりました。(参考: 9) 盛れば伸びるのではなく、どこを取りにいくかで最適点が動くわけです。こうした作物別の最適域は、自分の品目の出発点として置きつつ、一般には品目によって EC 1.0〜3.0 mS/cm あたりに収まることが多いので、レタス系ならその下寄りから始めて、最後は自分の現場の実測で決めます。
そこで現場の線引きとしては、まず「いま天井に当たっているのか、天井の下で取りこぼしているのか」を分けます。生育が想定どおり伸びていて、それでも収量を上げたいなら、それは養液の話ではなく光・温度・CO2 に渡す話です。逆に、天井は十分高そうなのに生育が想定に届いていない、しかも遅れて不調が出る、というときは養液側、これまで述べてきた DO や内訳のずれを疑う番です。チップバーンのように、養液だけでは説明しきれずほかの環境要因との連動で見るべき症状もあります。そう置くと、養液を運転 KPI として読むというのは「収量を増やすための KPI」ではなく、「他の要因が立てた天井を、養液の崩れで削っていないか」を見張る KPI です。攻めの一本というより、取りこぼしを止める一本。天井を主に立てるのは他の要因、その天井を下から削らせないのが養液。この分担で考えておくと、どこまで自分で詰めてどこから手放すかの判断がぶれません。
今週のログを別の目で読み直す
最初は、EC と pH を毎日きちんと合わせている自分はちゃんとやれている、と思っていた方も多いかもしれません。でも、合わせていたのは「合わせやすい数字」のほうで、肝心の「効いているか」はほとんど見ていなかった——そう気づくところから、数値の読み方が変わってきます。
今日からできることは、小さくてかまいません。まずは今週のログを、別の目で見直してみてください。数値が正常範囲に収まっていたかどうかではなく、崩れた週がなかったか、そのとき条件側で何が動いていたか、という見方で振り返るのです。そのうえで、手を入れる場所を一つだけ選びます。いちばん取りこぼしていそうなところ、DO かもしれませんし、内訳のずれかもしれません。そこに手を入れて、崩れた週と出荷結果を結ぶ線を引きはじめてみてください。全部を一気にやろうとすると、また測りやすいものに逃げてしまいます。だから、引くのは一本だけで十分です。慣れてきたら、こうしたログをデータとして読み解く体制づくりにつなげると、その線はさらにはっきりします。
EC・pH・DO は、合わせて終わる現場の数値ではありません。その合わせ方が、数週間後の歩留まりを通って、粗利の出方に効いてきます。合わせるだけでほぼ足りる現場も多いのですが、合わせても説明のつかない不調が出たとき、その正体はたいてい DO・内訳のずれ・遅れて出る効きのどれかにあります。今日あなたが引く一本の線が、その先読みの最初の一歩になります。