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養液栽培やるなら、まず最初に読むやつ【EC/pH・基礎】


こんにちは、今村です
養液栽培を成功させるためには、水と肥料の適切な管理が不可欠。
特に大切な3つの要素「EC」「pH」「溶存酸素」。
これらの基礎知識と実践的な管理方法を解説します。
初心者向けですが、養液栽培を始めようとする方にとっては、
まずこの記事から読んでおくと、ザックリ全体感が理解できると思います。
この記事を参考に最適な環境づくりを目指してみてください。
養液栽培で使う肥料についての記事もあります。




養液管理って何をやるべきか


養液栽培において、養液を管理することは、作物の生育を左右する重要な要素。
土耕栽培とは違って、植物は、必要とする栄養素を水に溶かした「養液」から吸収します。
つまり養液の状態の良し悪しが、作物の状態に影響するのです。
養液管理の主な目的は、次の3つです。
- 最適な栄養バランスを乱すな!
- 水分吸収を不足させない!
- 根の呼吸量を維持!
他にも色々あるけど、メインはこんな感じ。
適切な養液管理ができれば、土耕栽培に比べて生育が早く、収量も増加します。
養液管理に必要な要素(ザックリと基本説明)



養液を管理するって言っても、どこを見るべき?
説明します。
主な要素は以下の通りです。
- EC(電気伝導率): 養液中の肥料濃度の目安
- pH(水素イオン濃度): 養液の酸性・アルカリ性のバランス
- 溶存酸素: 根の呼吸に必要な酸素量
- 温度: 養液の温度
- 衛生状態: 病原菌やゴミの混入状況
これらの要素は、相互に影響し合うものもあります。
例えば、養液温度が上がると溶存酸素量が減少し、微生物の繁殖が活発化してpHが変動しやすくなるといった具合。
どれかの管理がおろそかになれば、他がどんなに正確だとしても、作物は正常に生育しません。
原水の質も関係している
普段「管理」することではないけど、使用する原水の質も養液管理の成功に影響します。
例えば、以下のようなことをチェックします。
- 硬度:
- 水に含まれるカルシウムやマグネシウムイオンの量。硬度が高い水を使用すると、これらのイオンが既に多く含まれているため、養液設計時に考慮する必要があります。
- pH:
- 水道水は地域によってpHが異なります。アルカリ性の強い水を使用する場合は、養液調整時に酸を多く添加する必要があるかもしれません。
- 塩素:
- 水道水に含まれる塩素は、植物の根に悪影響を与える可能性があります。使用前に一日程度汲み置きするか、活性炭フィルターを通すことで除去できます。
まぁこれは日常的に確認することではないです。
でも養液栽培をするうえでは知っておかねばなりません。
「養液栽培には向かない水」ってのもあるので、栽培を始める前には確認必須です。
EC(電気伝導度)の管理


ECは「Electric Conductivity(電気伝導度)」の略です。
養液中のイオン化した物質(主に肥料)の総量を示す指標です。
でも、もともと肥料以外の成分が入っていれば、それも含まれます。
純水は電気をほとんど通しませんが、肥料などのイオンが溶け込むと電気を通すようになります。
肥料濃度が高くなるほど、より多くの電気が流れるため、EC値も高くなります。
水に電気が流れる度合いを測定することで、間接的に養液中の肥料濃度を把握できるわけです。
EC値の単位は一般的に「mS/cm(ミリジーメンス/センチメートル)」または「dS/m(デシジーメンス/メートル)」で表されます。この2つは名前は違いますが同じ単位です。
つまり、ECと肥料濃度は比例する
上で説明しましたが、EC値と肥料濃度は比例するってことです。
- EC値が高い → 肥料濃度が高い
- EC値が低い → 肥料濃度が低い
ただし、EC値はあくまで肥料の総量を示すもの。
個々の栄養素のバランスや種類までは判断できません。
例えば、一部の成分が過剰、他の成分が不足していても、トータルのEC値が同じになることがあります。
ECには、ちょっと欠点もあります。
でも、カンタンに測れるし、肥料濃度を知るにはメチャクチャ便利な指標なのです。
EC値の調整方法
ECの調整方法もザックリと書いておきます。
EC値を上げるには養液に肥料を追加し、下げるには真水で希釈するか養液の一部を交換します。
まぁ当たり前ですね。
管理者は毎日EC値を測定して、異常があれば調整を行います。
ただ、人が常に見ているのは難しいので、大規模栽培になるほど自動化は必須。
センサーと制御機器を導入しなくてはいけません。
EC管理の一般的なトラブル
以下の表は、EC値に関する一般的な問題とその対応策です。
ザックリしてますが、管理のイメージは掴めると思います。
問題 | 原因 | 対策 |
---|---|---|
EC値の上昇 | • 水分蒸発 • 植物による選択的吸収 • 肥料の過剰添加 | • 真水で希釈 • 養液の一部交換 |
EC値の低下 | • 雨水・異物の混入 | • 濃厚液の添加 • 混入源の確認・対策 |
EC値の変動 | • 温度変化 • 微生物活動 • 測定時間の不一致 | • 養液温度の安定化 • 定期的な養液更新 • 同時刻測定の徹底 |
急激な上昇 | • 肥料添加ミス • 蒸発量の急増 | • 即時希釈 • 原因の特定と除去 |
急激な低下 | • 水の混入 • 機器不良 | • 濃厚液の段階的添加 • 別の計器で確認 |
EC計の不調 | • 校正不良 • 電極の劣化・汚れ | • 標準液での再校正 • 電極の洗浄・交換 |
pH(水素イオン指数)の管理


pH(水素イオン指数)は水溶液の酸性またはアルカリ性の強さを示す指標です。
0から14までの値で表され、7が中性、7未満が酸性、7より大きい値がアルカリ性を示します。
養液栽培では、pHは栄養素の溶解度と植物による吸収に直接影響します。
肥料成分には、成分ごとに吸収が最適になるpH範囲があるんですよね。
例えば:
- 鉄やマンガンなどの微量要素は酸性環境で吸収されやすい
- カルシウムやマグネシウムはアルカリ性環境で吸収されやすい
- リンは中性に近いpHで最も吸収されやすい
みたいな。
多くの作物は5.5~6.5のpH範囲で最も効率的に栄養を吸収できます。
この範囲を外れると、特定の栄養素が不溶化して植物が利用できなくなることがあります。
なぜ、栽培中にpHが変化するのか



養液栽培をしていると、徐々にpHが上がってくるんだけど…なぜ?
これはありがちで、そうなる理由があります。
pHの変化が起こるのは、以下のことが理由です。
- 植物による選択的イオン吸収:
- 植物は成長過程で異なるイオンを選択的に吸収し、その結果として養液のpHが変化。
つまり、成分バランスが偏るとpHが変化するということ。
- 植物は成長過程で異なるイオンを選択的に吸収し、その結果として養液のpHが変化。
- 微生物活動:
- 養液内の微生物が代謝活動を行うことでpHが変動。
- 肥料の性質:
- アンモニア態窒素は吸収されるとpHが低下。
- 硝酸態窒素は吸収されるとpHが上昇。
- 水質:
- 使用する水の初期pH。
- 温度変化:
- 養液温度の上昇は微生物活動を活発にし、pHの変動を加速させる。
こういったpHの変化。
多少なら問題ないですが、大きくズレると作物へのダメージ大です。
例えば、こうなります。
- pHが低すぎる(強酸性):
- アルミニウムや鉄などの重金属毒性
- カルシウム、マグネシウム、リンの吸収阻害
- 根の損傷
- pHが高すぎる(強アルカリ性):
- 鉄、マンガン、銅、亜鉛などの微量元素の不溶化
- 葉の黄化(クロロシス)
- 生育不良
pH、どうやって管理する?
まず、pH測定から始めましょう。
以下の方法が一般的。
- デジタルpHメーター:最も正確で信頼性が高い方法
- 試験紙:緊急時の簡易測定に適していますが、精度は低め
pHの調整方法
pH調整は基本的に専用の調整剤を使用して行います。
pHを上げるには
- 炭酸カリウム溶液(緩やかに上昇、カリウム補給効果あり)
- 水酸化カリウム(強力だが注意が必要)
- 重炭酸ナトリウム(緩衝作用あり)
pHを下げるには
- リン酸(リン供給効果あり)
- 硝酸(窒素供給効果あり)
- クエン酸(マイルドな調整が可能)
調整剤を使用する際は、少量ずつ添加してその都度pH測定を行い、急激な変化は避けた方が無難です。
特に酸性の調整剤は必ず希釈して使用してください。
危ないんで、取り扱いには気をつけましょう。
でも基本的に、pH調整剤は使わないのが理想
pH調整のやり方を書きましたが、基本的には調整剤は使わないことが理想です。
特定の成分だけが養液中で増えてしまうので。
バランスが偏ると、作物の生育に悪影響です。



でも使わないと、pHが変わっちゃうよね?
実は、養液の肥料バランスを調整すると、ある程度pHをコントロールできるんです。
こういったコツというか、現場のノウハウは、
以下のコンテンツに何個も書きました。
少し値は張りますが、コスパは高いと思うので、合わせてどうぞ。
溶存酸素の管理も大切


溶存酸素(DO: Dissolved Oxygen)とは、水中に溶け込んでいる酸素分子(O₂)のことです。
単位は一般的に「mg/L」または「ppm」(parts per million)。
養液栽培では、この「水に溶けた酸素」が植物の健康に影響するのです。
なぜ溶存酸素が重要なのか
養液栽培では根が水中にあるため、水に溶けた酸素を吸収します。
なぜなら植物の根は、生きるために酸素が必要だから。
根が溶存酸素を使う重要な理由:
- 根の細胞呼吸によるエネルギー生産
- 養分の能動的吸収(特にカルシウムやリン)
- 根の成長と新陳代謝
- 病原菌に対する抵抗力の維持
溶存酸素が不足すると、根の機能が低下する。
それが、植物全体の生育に影響してしまうってことです。
溶存酸素が不足すると?
溶存酸素が不足すると、次のような症状が現れます:
- 根の変色:白色・クリーム色の健康な根が茶色や黒色に変化
- 根の形態変化:太くて短い根、先端の枯死
- 生育不良:全体的な生育遅延、葉の萎れや黄化
- 養分欠乏症状:特にカルシウム欠乏(尻腐れ病など)が発生
- 根腐れ:根が軟化し、表皮が剥がれ、腐敗臭を放つ
溶存酸素の適正値と変動要因
養液栽培の理想的な溶存酸素濃度は5mg/L以上、できれば8mg/L前後です。
養液中から酸素が減ってしまう要因:
- 温度: 高温ほど溶解度が下がる(夏は要注意)
- 塩分濃度: EC値が高いほど溶解度が下がる
- 微生物: 水中の酸素を消費する
- 植物: 生育ステージにより酸素要求量が変わる
溶存酸素を増やすには
じゃあ、減った溶存酸素をどう増やすか。
大規模な養液栽培施設では、水流を利用した曝気が最も一般的です。
高い位置から水を落下させて空気を含ませるわけです。
この方法は電力消費もなく、カンタン。長期運用にも適しています。
水流が多ければ多いほど、より多くの酸素が溶け込みます。
溶存酸素が足りていなければ、空気に触れる表面積を増やしたり、循環量を増やしましょう。
それでも不十分な場合や小規模栽培では、エアレーションも有効です。
いわゆるブクブクですね。
困ったときの養液更新


養液栽培で生育不良や病害が発生したとき、最も効果的な対処法の一つが「養液更新」です。



原因はよくわからないけど、野菜の生育が良くない…
そんなこと、ありますよね。
循環式養液栽培では、養液を新しく入れ替えることで、多くの問題を一気に解決できちゃいます。
「失敗してもリセットが効く」という安心感は、養液栽培の大きなメリットです。
なぜ長期使用をすると養液は劣化する?
なぜ養液は定期的に更新が必要なのか?
養液を長期間使用し続けると、以下のような劣化が起こります:
- 栄養素バランスの崩れ:
- 植物は各栄養素を「好き嫌い」して吸収するため、時間が経つと一部の成分が不足し、他の成分が過剰になります。
- 特に微量要素は管理が難しく、バランスが崩れやすい傾向があります。
- 有害物質の蓄積:
- 植物の根から分泌される有機酸や老廃物が蓄積します。
- これらは「アレロパシー物質」とも呼ばれ、根の機能を阻害して生育不良を引き起こします。
- pHの不安定化:
- 微生物活動や栄養素の偏りによって、pHが不安定になり、調整しても戻りにくくなります。
- 調整剤の使用が増えると、さらに養液バランスが崩れる悪循環に陥ります。
養液更新のメリットまとめ
養液更新のメリットを整理します。
- 一発解決の可能性が高い:
- 多くの場合、養液を更新するだけで症状が改善します
- 原因不明の生育不良でも、養液更新が効果的なことが多い
- 栄養バランスのリセット:
- 不足している栄養素が補給される。
- 過剰に蓄積した成分が除去される
- 有害物質の徹底除去:
- 根からの分泌物や老廃物が排除される
- アレロパシー物質による生育阻害が解消される
- 設備のクリーニング効果:
- 配管や栽培槽が同時に洗浄される
- ポンプやフィルターの詰まりが解消される
- 沈殿物やスライム除去により設備の寿命が延長される
養液更新は手間がかかりますが、トラブル解決のための「リセットボタン」と考えれば、その価値は非常に高いものです。
養液更新のサイクル(2~3ヶ月に1回程度)
トラブルを未然に防ぐためには、定期的な養液更新が効果的です。
循環式養液栽培では、一般的に2~3ヶ月に1回程度の更新が目安。
以下の要因によって更新頻度を調整しましょう:
でもこんな症状が出たら要更新!
定期的な養液更新の他にも、
以下の兆候が見られたら、すぐに養液更新を検討しましょう:
兆候 | 詳細 |
---|---|
ECの不安定化 | 頻繁な調整が必要になる、または予想外の変動がある |
pHの急激な変化 | 調整してもすぐに元に戻る、または変動が大きい |
養液の色や臭い | 濁り、変色、または不快な臭いがする |
生育の停滞 | 新芽の成長が遅い、葉が小さい、茎が細い |
根の状態悪化 | 褐変、軟化、根端の枯死が見られる |
病害の発生 | 根腐れや葉の病気が増加する |
「困ったときこそ養液更新」と覚えておけば、多くの養液栽培のトラブルを乗り切れます。
養液更新は、養液栽培における最も効果的な「緊急対応策」の一つです。
まとめ
この記事では、養液管理のことを全般解説しました。
初心者の方は、まずは以下の3点あたりから考えてみましょう。
初心者がまず意識すべき3つのポイント
- 基本測定の習慣化:
- EC値とpH値を毎日同じ時間に測定する習慣をつけましょう。
数値の急激な変化は植物の異変のサインです。
- EC値とpH値を毎日同じ時間に測定する習慣をつけましょう。
- バランス感覚を磨く:
- 養液栽培は「数値の管理」ではなく「植物との対話」です。
測定値だけでなく、植物の状態もよく観察しましょう。
- 養液栽培は「数値の管理」ではなく「植物との対話」です。
- 定期更新の計画:
- 問題が起きてからではなく、2〜3ヶ月に一度の養液更新を予定に組み込みましょう。
これが最大の保険になります。
- 問題が起きてからではなく、2〜3ヶ月に一度の養液更新を予定に組み込みましょう。
EC/pH管理の簡易チェックシート
測定項目 | 適正範囲 | 高すぎる場合の対処 | 低すぎる場合の対処 | 点検頻度 |
---|---|---|---|---|
EC値 | 品目による (一般的に1.0〜3.0mS/cm) | 真水で希釈 養液の一部交換 | 濃厚液の添加 | 毎日 |
pH値 | 5.5〜6.5 | 硝酸・リン酸で下げる | 炭酸カリウム溶液で上げる | 毎日 |
溶存酸素 | 5mg/L以上 (理想は8mg/L前後) | 通常は問題なし | エアレーションの強化 落水高さの調整 | 週1回 |
養液管理の記録テンプレート
当サイトで色々とテンプレートも配布してますんで、こっちもよろしくです。


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