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植物工場の収量アップに直結する「温度管理」徹底解説


こんにちは、今村です
わずか数度の温度差が収穫量を30%も変えてしまうことをご存知ですか?
温度管理は、植物工場の生産性と収益性を大きく左右する重要な要素。
植物工場の温度環境は、閉鎖空間ならではという感じ。
LEDからの発熱、多段栽培での上下温度差、結露のリスクなど、植物工場だからこその注意点があるのです。
本記事は、植物生理学から実践的な温度管理テクニックまで、温度管理の基礎を解説します。
湿度管理も合わせてどうぞ。




植物と温度の深すぎる関係


植物体内では、光合成、呼吸、タンパク質合成、ホルモン生成など、数千もの化学反応が常に進行しています。
これらの化学反応のほとんどは酵素(生体触媒)によって調節されており、
酵素の活性は温度に大きく依存しています。
植物の体内で働く酵素は、特定の温度範囲で最も効率よく機能します。
大体、温度が10℃上昇すると、酵素反応の速度は約2倍になります。
まぁ高すぎるとダメなんですが、適温範囲内なら高めの方が良いってことですね。
温度が低すぎると…
- 酵素活性が著しく低下し、代謝反応が遅くなります
- 細胞膜の流動性が低下し、物質輸送が阻害されます
- 水や養分の吸収効率が落ち、生育が大幅に遅延します
- 光合成産物の転流(糖などの輸送)が抑制されます
温度が高すぎると…
- タンパク質の変性が起き、酵素が機能しなくなります
- 呼吸速度が光合成速度を上回り、エネルギー消費が過剰になります
- 細胞膜の透過性が過度に高まり、イオンバランスが崩れます
- 活性酸素の生成が増加し、細胞ダメージが蓄積します
つまり、温度管理は作物にどんな影響がある?
温度は植物のあらゆる生理活動の基盤です。
つまり、適切な温度管理ができているかどうかで、同じ品種、同じ光・養液条件でも大きな差が生じるってことです。
生育スピードへの影響
温度は植物の代謝速度を変えるので、生育速度への影響がデカいです。
適温範囲内での栽培と比較して、わずか2℃の温度差でも生育日数が10%以上変化することがあります。
例えば、レタスの場合:
- 最適温度(20℃前後)では約35日で収穫サイズに達する
- 17℃では約40日かかる(約14%の生育期間延長)
- 23℃では約32日で達する(約9%の生育期間短縮)
みたいな感じです。
あまり正確な数値ではないですが、イメージとして。
これは年間の生産サイクル数に直結し、工場としての生産効率を大きく左右します。
生育スピートが変わるので、当然収量も変わります。
最適な温度域からずれることで、光合成や養分吸収の効率が低下し、同じ栽培面積でも収穫量が最大で30%も減少することがあります。
温度管理不良はリスクが大きい
適切な温度管理を怠ると、様々なリスクが生じます。
放っておくと相互に連鎖して問題が深刻化します。
いつも目を光らせて、予期せぬ温度変動にはすぐに対処できるようにしましょう。
リスク1. 生育不良と生産性低下
適温から外れると、植物の生理機能が正常に働かず、様々な生育不良が発生します:
- 徒長:高温・弱光条件では、茎が異常に伸長し、脆弱になる
- 葉面積の減少:特に低温では葉の展開が抑制され、光合成面積が減少
- 根の発達不良:地上部と根系のバランスが崩れ、養水分吸収が不十分に
これらは直接的に収穫量の減少や収穫までの期間延長をもたらし、年間生産性を大きく低下させます。
リスク2. 品質劣化
温度ストレスを受けた植物は、見た目も味も悪くなります。
- 葉の形状異常:萎縮、巻き、変形などの形態的異常
- 変色:葉の黄化、赤化、褐変など色調の異常
- 苦味や雑味の増加:二次代謝産物のバランス変化による味質低下
- 栄養価の低下:ビタミンや機能性成分の減少
これらの品質低下は直接的に商品価値を下げます。
特に見た目がかなり変わることもあるんで、店頭で選ばれなくリスクがあります。
高付加価値を売りにする植物工場では、品質劣化にも注意ですね。
リスク3. 病害発生リスクの増大
温度環境が悪いと作物が病気にかかるリスクも高くなります。
- 植物の免疫応答の低下:温度ストレスにより病害抵抗性が減弱
- 葉面結露:低温時の結露は病原菌の侵入口となる
- 病原菌の繁殖促進:特に高温多湿環境は多くの病原菌の増殖に好適
- 生理障害の二次感染:温度による生理障害が病原菌の侵入を容易にする
こんな感じで、温度管理のミスは影響がかなりデカいんで気をつけてください。
でも温度をうまく調整できると、収量や品質がかなり改善することがあります。
それだけ影響があるってことですね。
そういった現場レベルの細かいテクニックは、以下のコンテンツにけっこう書きました。
少し値は張りますが、コスパは高いと思います。合わせてどうぞ。
温度の観点から、植物工場の特性を理解しよう


人工光型植物工場は外部環境から隔離された閉鎖空間です。
そのため、独自の温度環境が形成されます。
まず、この特性を理解することが重要です。
照明機器から大量の熱が発生する
LED照明は省エネルギーと言われていますが、実は相当量の熱を発生させます。
この熱特性が植物工場の温度環境を形作ります。
- 電力の約40%が熱に変わる:最新のLEDでも消費電力の約40%は熱として放出されます
- 照明直下で局所的に温度が上昇する:高光量条件では照明直下で2〜5℃の温度上昇が観測されます
閉鎖空間だからこそ、温度変動が起きやすくなる
植物工場内の温度は様々な要因で常に変動します。この変動特性を把握することが安定管理につながります。
- 照明のON/OFFで急激に温度が変化する:特に朝の点灯時と夜の消灯時に顕著です
- 植物からの蒸散で湿度と温度が変わる:葉面積が増えるほど影響も大きくなります
多段栽培で上下の温度差が生じる
多段式栽培ラックを採用している場合、自然の法則により熱は上方に蓄積します。この垂直方向の温度勾配は栽培に大きく影響します。
- 上段と下段で最大3℃の差が生じる:これが作物の生育速度に差をもたらします
- 空気の層が断熱効果を生む:風がないことが温度差を維持する要因になります
植物工場の特性に対応した効果的な温度管理のポイント
これらの植物工場特有の温度環境を踏まえた上で、どんな管理ができるのか。
効果的な管理方法を見ていきましょう。
温度変動を抑える断熱と遮熱の工夫
閉鎖空間内の温度変動を最小限に抑えるには、熱の出入りを適切に制御する必要があります。
- 高性能断熱材で外壁を強化する:
- 熱貫流率0.25W/m²K以下を目指すことで外気温の影響を最小化できます
- 出入口に工夫を施す:
- エアカーテンを設置して開閉時の空気流出入を防ぐ
- 二重扉構造にして熱の緩衝帯を作る
- 自動ドアの開閉速度を最適化する
- 配管やダクトの断熱を徹底する:
- 見落としがちな箇所からの熱損失も侮れません
空調システムを戦略的に設計・配置する
植物工場特有の温度分布に対応するには、空調システムの綿密な設計が求められます。
- 発熱量を正確に計算して容量を決める:
- 照明+その他熱源+植物蒸散を全て考慮した計算が必要です
- 照明の直下にも冷気が届くよう配置する:
- 気流シミュレーションを活用した綿密な設計が効果的です
- ゾーニングによる細かな温度管理を行う:
- 植物の生育ステージ別にゾーン分けする
- 各ゾーンに適した温度設定を行う
- ゾーン間の熱干渉を最小限に抑える
気流設計で温度ムラを解消する
閉鎖空間で生じやすい温度ムラを解消するには、計画的な気流設計が有効です。
- 適正な風速で空気を循環させる:
- 0.3〜0.7m/sの風速がムラ解消と植物ストレス軽減を両立します
- 死角をなくすようファンを配置する:
- コーナー部や棚の奥に補助ファンを設置する
- 垂直方向の空気循環を促進するダクト設計を行う
- 植物体周辺の微気流を確保する工夫をする
現場で役立つ温度管理の実践ポイント


ここまでは、植物工場の特性とか、その特性を踏まえた対策について書きました。
ラストは日常的な温度管理について解説していきますよー。
まず前提です。
よく、作物には推奨温度が決まってますよね。
温度管理において、推奨温度は単なる目安と理解しましょう。
実際の現場では、以下の要素を考慮して柔軟に調整する必要があります:
- 栽培品種の特性:同じ作物でも品種によって最適温度が異なります
- 他の環境要因との相互作用:光強度・CO₂濃度・湿度との組み合わせで最適温度が変化します
例えば、光強度が高い場合は光合成による熱生産も増加するため、推奨温度よりも1〜2℃低く設定する。とかですね。
そんな感じでバランスを取りましょう。
そして、工場内の位置や設備状況によっても、必要な温度調整が変わります:
- 多段栽培の上下差: 上段は1〜3℃高温になりがちなので、温度設定を下げる
- 空調吹き出し口付近: 直接冷気が当たる場所は局所的な低温障害に注意
- 季節変動への対応: 外気温が極端に高い/低い日は設備への負荷を考慮した調整を
データだけでなく作物の観察に基づく管理
で、温度管理で一番大事なポイントです。
それは、
センサー値だけでなく、植物自身が示すサインを読み取ること。
例えば、
- 葉の色・形
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- 濃い青緑色: 低温ストレスの可能性(特にレタス類)
- 黄化や赤紫色: 低温障害のサイン、特に若い葉で顕著
- 葉縁の褐変: 高温障害の初期症状
- 葉の巻き: 蒸散過多による水分ストレス、高温の可能性
- 茎の状態
-
- 徒長(異常な茎伸長): 高温と弱光の組み合わせによる典型的な症状
- 節間距離の拡大: 温度が高すぎる可能性
- 茎の硬化不足: 夜間温度が高すぎると発生
- 根の状態
-
- 褐変した根: 高温による根の呼吸過多や酸素不足の兆候
- 根の伸長停滞: 低温による代謝活性の低下
結露の発生防止と対策
それと意外と見落としがち。結露も積極的に予防しましょう。
あまり気にしていない人もいますが、放っておくとデメリットが大きいです。
- 病原菌の侵入経路になる: 特に灰色カビ病などの発生リスクが高まる
- 葉面の光合成効率を下げる: 結露が蒸発するまで光合成が阻害される
- 葉の細胞損傷: 結露した水滴がレンズ効果で葉焼けを起こすことも
具体的な結露防止策
- 湿度70%以下の維持方法:
- 適切な換気で湿度を下げる(特に朝の消灯前と点灯後)
- 植物密度の適正化で蒸散過多を防ぐ
- 必要に応じて除湿機の活用
- 急激な温度変化の回避手段:
- 照明の段階的な点灯・消灯(30分かけて徐々に光量を変える)
- 季節の変わり目は特に注意
- 空気循環の最適化:
- ファンの24時間運転で空気を停滞させない
- 植物の葉面に直接風が当たる配置で結露を防止
- 循環ファンは0.3〜0.5m/sの弱い風速で常時運転が効果的
これらの実践ポイントを日々の管理に取り入れることで、温度に起因する問題を減らし、安定した収量と品質を確保できます。
記事の内容を踏まえて、まとめのセクションを作成しました。
まとめ


植物工場における温度管理は収量と品質を左右する極めて重要な要素です。
本記事のポイントを整理すると:
- 温度は植物の生理活動の基盤:
- わずか数度の差で生育速度が10%以上変化し、収量に30%もの差が生じることも
- 植物工場特有の温度環境を理解する:
- 照明からの発熱、閉鎖空間での温度変動、多段栽培での上下温度差
- 効果的な対策を講じる:
- 断熱・遮熱の工夫、戦略的な空調設計、適切な気流設計
- 日常管理では柔軟に対応:
- 推奨温度は目安であり、品種特性や他の環境要因を考慮した調整が必要
- データと観察の両方を活用:
- センサー値だけでなく、植物が示すサイン(葉の色・形、茎の状態、根の状態)から温度ストレスを読み取る
- 結露防止は病害予防の要:
- 湿度管理、急激な温度変化の回避、適切な空気循環で結露を防ぐ
適切な温度管理を実践することで、安定した収量と高品質な作物生産を実現し、植物工場の収益性向上につなげることができます。


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