ベッド掃除を忘れて1ヶ月間放置したときの話

こんにちは、今村です

このコラムは、私の現場経験を中心に書いてます。
10年以上も現場にいると、ホント色々ありますよね。思い出したことを、気ままに書いてます。

まぁ、「へー、他の工場ってそうなんだぁ」みたいな、気楽な感じで読んでください。

目次

平凡な実験の終わり…のはずだった

「完璧な段取りの人間など、この世に存在しない」—その真理を、私は緑色のドロドロした沼から学ぶことになった。

白衣のポケットから取り出したチェックリストを満足げに眺めながら、私は小さくガッツポーズをした。今日の実験は上手くいった。データも予想通りの結果で、明日の報告会でも胸を張れるはずだ。

「よし、片付けて帰ろう」

いつもの手順——養液の排水、LEDの電源オフ、培養ベッドの清掃——を機械的にこなしていく。疲れた頭では、早く家に帰ってビールを開けることしか考えていなかった。チェックリストの各項目に鉛筆でチェックを入れながら、私は「明日があるさ」のメロディーを口ずさんでいた。

最後の確認。「完璧!」と思った瞬間の自信に満ちた表情を、当時の私に見せてあげたい。

時は流れ、沼は育つ

それから約1ヶ月。他のプロジェクトに忙殺され、この実験室には足を踏み入れることがなかった。カレンダーに新たな実験の日程が書き込まれ、ようやく扉を開けた。

「あれ?なんか…臭くない?」

鼻をつく生温かい湿気と、どこか甘ったるい腐敗臭。部屋に一歩踏み入れた瞬間、何かが間違っていることに気づいた。視線を上げると——

「ま、まさか…」

一番上の培養ベッドから、うっすらと緑色の光が漏れている。近づくにつれて強まる緑の「気配」。まるで小さな沼の精霊が誕生したかのようだ。

「ようこそ、クリーチャーの世界へ」

恐る恐るベッドに近づき、覗き込んだ瞬間、思わず後ずさった。

「うわっ!」

目の前に広がっていたのは、もはや培養液とは呼べない別次元の生態系だった。緑と茶色が混ざり合う不気味な液体の表面には、小さな泡がポコポコと浮かんでは弾ける。LEDライトの光を浴びて、ぬめりのある緑色の膜が水面を覆い、まるでB級ホラー映画の「沼の怪物」の生息地のようだ。

「これは…私が創り出してしまった小宇宙か」

指で軽く表面をつつくと、ヌルリとした感触と共に膜が割れ、より強烈な腐敗臭が解放された。思わず「うぇっ」と声が漏れる。

「誰にも言えないな…これ」

英雄的(?)清掃作戦

自分のミスは自分で解決するしかない。排水口に流せば配管詰まりの原因になるのは明らか。唯一の選択肢は…手作業だ。

オフィスからゴム手袋とゴミ袋、そして念のためマスクを持ってくる。同僚に「何するの?」と聞かれ、「ちょっとした実験」と曖昧に答えた私の表情は、きっと怪しさ満点だっただろう。

装備を整え、いざ作戦開始。

「さて、どこから手をつけよう…」

網ですくおうとしても、藻はするりと逃げ、手で掴もうとすれば指の間から液体と一緒に逃げていく。まるでスライムと格闘しているようだ。

「こうなったら…」

思い切って両手を突っ込み、藻の塊をつかみ取る。ぬめぬめとした感触と「ズブズブ」という音が、この状況の悲惨さを物語っていた。

教訓と反省(そして密かな誇り?)

1時間の死闘の末、ようやく藻のほとんどを取り除き、ベッドの内側のヌメリもこすり落とした。汗だくになった私の白衣には、緑色のシミがいくつも点在していた。

「完璧な段取りの人間など、この世に存在しない」—その真理を、私は緑色のドロドロした沼から学んだ。

そして密かに思った。
「でも、これだけ立派な生態系を1ヶ月で作り出せたのは、ある意味すごいことなのかも…?」

植物工場の管理者として恥ずべき失敗だが、生き物好きとしては興味深い現象だったのかもしれない。

次からはチェックリストを「二度」確認することにした—そして、この「沼の冒険」は、新人研修での笑い話として、ひっそりと伝説になっていくのだった。

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